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紺碧の三日月と、カルカタッタへの旅。

全体公開 5091文字
2019-07-14 20:15:55

 「あれが紺碧の三日月で、あれがこの世で一番綺麗な六等星」
 黒い太陽は、一つずつ指をさして少年に教えた。
 「あれが君の故郷でもある地球。この世界では、星が降ることで生命が誕生するんだ」
 黒い太陽は、電波塔に登って旗をふる。
 「このステーションで救難信号を送ると、地球の人に『流れ星』として届くらしい」
 黒い太陽が旗をふるたびに、ヒュウゥと白い放物線が描かれる。放物線はやがて雨となり、少年をすりぬけて地球へと降り注ぐ。
 「どうして僕は、ここにいるの?」
 少年は、銀河を揺蕩いながら黒い太陽にたずねた。すると黒い太陽は、可愛らしく首をかしげた。
 「どうして?どうしてだろう。君がここで必要とされたからじゃないかな?」
 黒い太陽は電波塔から飛び降りると、少年がいる銀河へと飛び込んだ。少年の手を掴んで、黒い太陽が笑う。
 「君は、歌うのは好き?」
 「うん。好きだよ」
 「私も好き。ねぇ、一緒に歌おう?オーケストラを呼んで、楽しいパーティーをしよう?」
 黒い太陽が手をひいて、少年を銀河から引きずりだした。
 その時少年は、無数の星を身にまとっていた。
 


 鼻歌を歌いながら、黒い太陽は少年の手をひいて歩いた。
 「楽しそうだね」
 「楽しそうじゃなくて、楽しいの」
 スキップをするように歩く黒い太陽に、少年もつられて小躍りしそうなほどの喜色を表す。
 「君も楽しいの?」
 「うん。何だかわからないけど、なんだか楽しい」
 歩くたびに、少年の体からきらきらと光る星の数々。その中に、一際輝く星が一つあった。黒い太陽はそれに気づくと、歩みをとめた。
 「ねぇ、なんだかとても楽しいことが好きな子がいるよ」
 「ほんと?どこだろう?」
 少年がぐるりと辺りを見渡していると、少年の体から一つの星が弾けとんだ。弾けとんだ星はやがて紺色に輝き、一人の少女へと変化した。少女は、ローブのようなものを身にまとっていた。
 「こんにちは!君はどこからきたの?」
 黒い太陽が挨拶すると、少女はぼんやりと銀河を指差した。
 「あたしはみなしごの女。お腹をすかせた上に、歩き方を知らないことを人々に馬鹿にされたから、家出しにきたの」
 少女はお腹をさすった。それをみかねた黒い太陽は、ポケットからチョコクッキーを差し出した。少女はそれを受け取って静かに食べた。
 クッキーを食べ終えた少女は、深々と頭を下げた。
 「あたしはスピカ。あんたたちは?」
 「僕はサファイア。こっちは
 「私は黒い太陽。魔法使いなの」
 サファイアと黒い太陽も、スピカにお辞儀した。
 「あんたたちは、これから何かするの?」
 「歌を歌って、オーケストラを呼んで、楽しいパーティーをしにいくの!」
 黒い太陽が元気よく答えた。
 「あたしも、そこについていっても構わないかしら?」
 申し訳なさそうに、スピカがたずねた。
 「僕は構わないよ。あなたはどうする?」
 「私も構わないよ。スピカさんも、歌うのはすき?」
 黒い太陽の問いに、スピカは少しだけ考え込んだ。そして。
 「うん、とても好きよ。あたしもパーティーに参加したい」
 「なら決まりだね」
 黒い太陽は、サファイアとスピカの手を取って、ぐるぐると回り始めた。二人もそれにつられて、ぐるぐるとまわった。
 「一人では出来ないパーティーも」
 「二人なら出来ちゃう」
 「三人いれば、もっと楽しい!」
 それぞれがそう言い合うと、三人は手を繋いでまた歩き出した。
 


 星と星をたどって歩いていると、白い薔薇を身に纏う人形が倒れていた。人形は煤だらけで、身にまとっていた薔薇がどんどん痛んでいく。
 スピカがそれにかけより、抱き起こそうとする。
 「この子は人形?」
 スピカは人形の顔を覗き込む。その様子をみた黒い太陽は、彼女の隣でしゃがみこむ。
 「あら?ただの人形ではないみたいだよ」
 黒い太陽が、人形の輪郭をなぞった。すると、人形がゆっくりとまばたきをした。それにともない、痛んでいた薔薇が深紅に染まっていく。
 「この子は?」
 サファイアが人形の手を握ろうとすると、ぶわっと薔薇の花びらが舞った。人形の体にあった煤は消え、纏っていた薔薇がみるみるうちに美しい赤薔薇へと変わった。
 人形は三人の顔をじっくりと観察する。
 「お前たちは?」
 人形に問われ、三人は自己紹介をした。
 「僕はサファイア」
 「私は黒い太陽。魔法使いなの」
 「あたしはみなしごのスピカ」
 人形は袖で顔を隠して告げた。
 「わたくしはリサ。この世で一番、薔薇が似合わない人形」
 リサは三人から距離をとろうとした。
 「あなたの薔薇、とても綺麗だと思うけど」
 サファイアがそういうと、他の二人もうんうんと頷いた。しかしリサは、怯えたような表情をした。
 「……嘘だ。同情なんていらない。わたくしはいつか、人々の根拠のない占いのために、身をちぎられるさだめ。それか、痛んで枯れるまで、作り物の花瓶から出られないままだ
 リサの一言に、黒い太陽が首をかしげた。
 「あなたは花なの?人形なの?どっち?」
 黒い太陽の質問に、リサは黙りこんだ。スピカとサファイアは、それぞれリサの手を握った。
 「リサって、素敵な子ね。あたし、リサと友達になりたい」
 スピカの言葉に、リサが耳を疑った。
 「ともだち……?」
 「えぇ。あたしはみなしごだから、もしかするとリサと似ているところがあるかもしれないわ。でも、まだリサとは会ったばかり。よかったら、あんたの話を聞かせて頂戴」
 スピカがいうと、今度はサファイアが告げた。
 「リサさん、僕らとパーティーをしよう。歌を歌って、オーケストラを呼ぶんだ」
 「パーティー?」
 パーティーというワードに、リサの表情が少しだけ明るくなった。
 「そうだよ。リサ、君は歌を歌うのはすき?」
 黒い太陽が問うと、リサは恥ずかしそうに顔をそらした。
 「上手じゃないけど嫌いじゃない」
 「なら、一緒にパーティーをしようよ」
 サファイアとスピカに手をひかれて、リサが立ち上がる。黒い太陽がそっとリサの頭を撫でた。
 「リサがいれば、パーティーはもっと楽しくなるよ」
 ポンッと黒い太陽が手を叩くと、どこからともなく青い薔薇がリサの胸元に咲いた。
 「とても似合ってるよ」
 サファイアが褒めると、リサはうつむいて「ありがとう」と呟いた。
 


 四人で手を繋いで、歌いながらどんどんと先へと進んだ。
 「きーらーきーらーひーーーかーーるーーー♪」
 黒い太陽が、隣にいるサファイアの手をブンブンと振る。サファイアもそれにあわせて、隣にいるスピカの手をふりながら続いた。
 「おーーそーーらーーのーーほーーしーーよーー♪」
 スピカもブンブンと手を振ったが、この先の歌詞がわからなかったので、鼻歌で続けた。リサも戸惑いながら手を振られ、鼻歌に続く。
 手を振られながら、リサは隣にいるスピカに訊ねた。
 「ねぇ、スピカはなんで家出したの?」
 リサに問われ、スピカは目を丸くした。
 「あたし?歩き方を知らないからだよ」
 「歩き方?」
 「そう。世渡りの仕方でもあり、人との繋がりの持ち方でもある。あたしはみなしごだから、そういうのを知らないと上手く生きていけないの」
 スピカの答えに、リサがぼんやりと「そうなんだ」と呟いた。
 「そういえば、リサさんとスピカさんはどこからきたの?」
 ふと、サファイアがそんなことを訊ねた。
 「あたしはカルカタッタってとこ。リサは?」
 「わたくしは箱庭から
 「どっちも知らないなぁ」
 サファイアが歩きながら呟くと、黒い太陽が爛々と目を輝かせた。
 「カルカタッタ!箱庭!私の知らないところだ!どんなところ何だろう?」
 黒い太陽があまりにも興味津々といった感じだったので、スピカが少しだけ笑った。
 「カルカタッタは、死者が住まう言われる幻の街であり、幸せの街とも呼ばれてる所だ。一見スラム街のように寂れた雰囲気の街だけど、至るところに色とりどりの花と街灯があるんだ」
 「とても素敵だね」
 「あぁ。僕もそう思う」
 「だろ?自慢の故郷だ」
 スピカが少しだけ胸をはった。
 「歩き方をマスターしたら、是非ともカルカタッタに皆を招待したいよ」
 「まぁ!じゃあ、その時はカルカタッタでもパーティーをしよう」
 「おっ、そいつはいいな」
 黒い太陽は、まだ見ぬカルカタッタに思いをはせた。
 「で、リサの故郷はどんなとこなの?」
 スピカに問われると、リサはまた暗い顔をした。
 「白くて、なにもないところ。色彩も窓も扉もなくて、壁と天井だけがある」
 「何だかブラックボックスみたいだね。色は白だけど」
 サファイアがいうと、リサは静かに頷いた。
 「わたくしは、そこでずっと閉じ籠ってたの。でもあるとき、壁が壊れたから、そこから出ていかないといけなくなった」
 「どうして壁が壊れたの?」
 「……わたくしが人の心を持ってしまったから」
 リサが歩みをとめて、地面をながめた。きらきらと輝く星が、リサの暗い表情を照らす。
 「もしかして、その壁を壊したのはリサなんじゃないの?」
 黒い太陽が告げると、サファイアとスピカは少し納得した。
 「どういうこと?」
 リサが首をかしげる。
 「だって、リサは人形だったでしょ?人としての心を持ったのなら、それを解放したいとは思わない?」
 「?」
 いまいちリサはわかっていないようだった。
 「つまり、リサさんが自分意思で自分を解放した。箱庭そのものが今までのリサさんで、壁が壊れたことによって、自分の心を解放しようとした。みたいな?」
 サファイアの考察に、黒い太陽は「その通り」といわんばかりに頷いた。
 「あんたが煤だらけで、薔薇が痛みかけていたのは、多分まだ箱庭の外で生きていく術を知らなかっただけだと思うよ?」
 「そうなんだ
 「だからリサ、私達とパーティーをして、いろんなことを知ろう?そうすれば、君はこの世で一番薔薇が似合う子になるさ」
 スピカと黒い太陽に励まされ、リサは深呼吸をした。
 「わたくし、がんばる」
 「うんうん。リサなら大丈夫」
 「リサさんなら出来る」
 「あたしもがんばるから、リサもがんばろうね」
 四人は励まし合って、また歩き出した。
 


 四人がたどり着いたのは、大きな教会だった。
 「ここでパーティーをしよう」
 黒い太陽がそういって、祈りをささげた。残りの三人も、黒い太陽にならって祈りをささげた。
 「オーケストラはどこで探すの?」
 スピカが問うと、黒い太陽が得意げに笑った。
 「それはね~、この場所そのものがオーケストラだよ!」
 黒い太陽が両手を広げた。すると辺りに人が集まり、拍手の大合唱が聞こえた。
 「なるほど、そういうことなんだね」
 サファイアが笑うと、黒い太陽がサファイアの手をまた繋いだ。サファイアもスピカの手を繋ぎ、スピカもまたリサの手を繋いだ。
 息を吸って、四人は高らかに宣言した。
 
 「はじめまして!ようこそ、星渡りオーケストラへ!」
 
 四人は手を繋いだまま歌い、ダンスを踊る。周りの人も輪になって躍り、歌う。
 歌って踊って、ステップの踏みかたは完璧になっていた。
 「サファイア!スピカ!リサ!空をみて!」
 黒い太陽にそういわれ、三人が空を見上げた。
 するとそこには、紺碧の三日月と流星群が。
 「わぁ!綺麗だ!」
 「あたしの故郷では見れなかったものね」
 「箱庭の外には、こんなに綺麗なものがあったんだ!」
 三人が空に見とれているのをみて、黒い太陽は幸せそうに笑った。
 


 気がつくと、サファイアは見知らぬ場所で寝かされていた。
 周りには黒い太陽やスピカ、リサはいなかった。あんなに綺麗だった三日月と流星群もなく、代わりに蛍光灯が取り付けられた天井があった。
 「夢だったのか」
 そっと体を起こして、窓の外をながめようとした。ふと、窓際に何かがあるのが見えた。
 そこには、黒い太陽が描かれた紺色の花瓶に、赤と青の薔薇が活けられたものがおいてあった。
 サファイアはそれをながめて、少し笑った。


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