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四章開幕

全体公開 3295文字
2019-07-14 22:12:04

 少女は狭い箱の中で、花びらをむしっていた。身に纏っていた白いドレスを引きずり、飾ってあった花瓶をなぎ倒して。
 ブチッ!ブチッ!!っと音をたてて、むしりとった花びらを、口の中に詰め込んだ。歯触りが良いとはとても言い難いそれを、咀嚼しては飲み込んだ。
 赤、白、ピンク、黄色、オレンジ、紫、緑、青。なぎ倒した花瓶にあったそれらの色の花を、次々と手に取る。そして、今度はこれをそのまま口にした。
 花の中に薔薇があったのか、口の中で棘が刺さった。それでも構うことなく、少女は花を食べることをやめなかった。
 とてもじゃないけど、美味しいだなんて言えない。けれど、その色や形を見るたびに、食らいつくしてしまいたいと思ってしまっていた。
 「頭がおかしいのはわかってる。けど、どうしようやめられないんだよ
 少女は泣きながら、花を食べ続けた。食べて、飲み込んで、そして泣く。それの繰り返し。
 狭い箱の中は、そんな少女を閉じ込めるように匿っていた。
 


 怤藍が「文化祭を決行する」と宣言した日の翌日。リズットが自室にある洗濯機で洗濯をしていると、食堂車から衝撃音が聞こえた。
 「全く
 大方の予想はついている。恐らくこの衝撃音の原因は怤藍であろう。
 リズットがすぐさま自室を出て向かうと、案の定脚立から落ちて腰をさすっている怤藍の姿があった。
 「何やってるんですか」
 食堂車には二人しかおらず、搭乗人物達は全員客室にいるようだった。
 「えへへ……脚立に髪の毛が絡まっちゃってね。それで足滑らせちゃった
 脚立に絡まってる怤藍の長い髪を、リズットが丁寧にほどく。
 「そんな髪をしているからこうなるんだって、前にも言っただろ」
 「そうだっけ?じゃあ、近いうちに髪でも切ろうかな」
 怤藍が地べたに座り、自分の髪を編んでおさげにし始める。リズットは脚立を抱えると、食堂車を見渡した。
 「文化祭というものは、本気でやるのか?」
 リズットの問いに、怤藍は髪を編みながら「そうだよ」と答えた。
 「毎度毎度、突拍子もないことをやろうとするよな」
 リズットが呆れたように告げると、怤藍は微笑んだ。
 「そうかな?でも、皆でやり遂げたって記憶は、後々欲しくなると思うよ?」
 どんどんと怤藍の長い髪が編まれていく。
 「僕には到底理解出来ないな」
 「そのうちわかるから大丈夫だよ。皆でやる文化祭、楽しみだなぁ~!」
 ふと、髪を編む手を止めて怤藍がリズットの顔を覗き込む。
 「大丈夫だよリズット。リズットには、あたしたちがいるから。好きなように遊んで、好きなように叫んで、好きなように生きていいんだよ。何かあればあたしが、あなたや他の皆のこれからを守る」
 青白い顔をするリズットに言い聞かせるように、怤藍がそう告げた。
 「好きなようにって
 どうすればいいんだよ、と言いたげなリズットを見上げて、怤藍は髪を編むのを再開した。
 「この世界であなたを縛る人は、もうどこにいない。これから出来るであろう友達や恋人にも、あなたならちゃんと自分の口で『好き』って言えるようになるよ」
 「本気で言ってるのか?」
 「勿論だよ。だって、リズットは素直な子だから。だから大丈夫」
 「……
 リズットが黙り混むと同時に、怤藍は髪を編み終えた。
 「よし!これなら髪が邪魔にならない」
 怤藍は側に置いてあったランタンを手に、食堂車を去った。
 「『大丈夫だよ』ってどの口が言うんだよ……
 リズットはそう呟くと、脚立を自室に運んでいった。
 


 【ブーケエクスプレス 談話室】
 談話室に集められた搭乗人物達は、怤藍からネームプレートを配布されていた。ネームプレートには、名前と所属チームが書かれていた。リズットはいないらしく、怤藍は先ほど編んだ己の髪を揺らす。
 「全員受け取ってくれたかな?それじゃあ、今からチームわけの結果をお伝えするね」
 🍎「結果発表ぉ~!!」
 🐤『ドンドンパフパフ』
  希更「やったー!!たのしみ……!!」
 怤藍がそう言って、チームのメンバー編成を発表する。
 「まずは【ファッションショー】のチーム!杏助さん、イヴァンさん、春霞さん、周さん!以上四名!拍手!」
 拍手と共に、名を呼ばれた四人のランタンが数回点滅した。
 🍎「モデルっぽい人がいっぱい!すごい!」
 🐤『ホレルワァ……
 「次に【絵画展】のチーム!冬真さん、ジョアンさん、常磐さん!以上三名!拍手!」
 🍎「おぉ~!!頑張って!!」
 拍手をしながら、怤藍が進行を進める。
 「【プラネタリウム】のチームは、マハトさん、りんごさん、笑愛ちゃん、リズットくん!以上四名!拍手!」
 「お困りの際は、わたくしがお力添えを致します。よろしくお願いいたします」
 いつの間にかやって来ていたリズットが、一礼する。
 🍎「プラネタリウムかぁ~お星さまいっぱい頑張ろ~!!」
 🐤『タナバタミタクガンバルンヤデ!』
 🍎「リズット君物知りっぽいから心強いね~」
 「最後は【コンサート】のチーム!八重さん、パピィちゃん、希更ちゃん、そしてあたし!以上四名!最ッ高のコンサートにしようね!」
 拍手をしながら、怤藍は他のメンバーに笑いかけた。
 🍎「楽しそうなコンサートになりそうだね!!」
 🐤『タノシミヤワァ』
 「チームわけの発表はこれで終わり。次にチーム別でやることのリストを配布するね」
 怤藍がそう言うと、リズットがチームごとに一枚ずつリストを配布した。搭乗人物達は、それぞれのリストに目を通す。
 🍎「なるほど~調べもの頑張らなきゃ」
 イヴァン「へぇ、楽しみな組分けだな……。俺のチームは……うーん、負けてられないな(楽しそうに笑って)」
 「基本的には、このリストにあるのをやって欲しいかな!ちなみに皆で一緒に準備をして欲しいから【個人行動を控えて、協力し合う】っていうのを心がけて欲しいな!」
 杏助「頑張んなくちゃねぇ〜」
 「リズットくんが差し入れとかを用意してくれてるから、皆頑張ろうね!」
 春霞「ファッションショー!いいなぁ、頑張らないとだ!」
 怤藍はくるりとその場でターンすると、またしても笑いかけた。
 「それじゃあ、お昼ご飯を食べたら準備にとりかかろう!皆お腹すいたでしょ?リズットくんがお昼ご飯に、ふわとろ卵のシチューオムライスと、ミネストローネを作ってくれてるよ!」
 🍎「女子力高過ぎリズット君……
 🐤『ツベコベイワズモラットケ!!』
 杏助「あ、私ミネストローネ大盛りで♥」
 「大丈夫!おかわりはいっぱいある!」
 春霞「シチューオムライス、美味しそう〜!へへ、はやくいかないと!」
 「リズットくん本格派だから、シチューのルーも手作りなんだよ!」
 希更「わーいお昼だ!!!」
 八重「シチューオムライス食べたことないから楽しみ」
 周「わ、ファッションショーじゃないですか、いろんな服着れるんですかね? 楽しみです」
 杏助「服のデザイン考えるの楽しみ〜ふふふ」
 「あ、ちゃんと文化祭に、他のチームの出し物も見に行けるからね!そこは安心してね!」
 エマ「おっひるー!!わーい!がんばろうね、お兄ちゃんとお姉ちゃん!!」
 周「裁縫……はあんま期待しないでください」
 イヴァン「レース編みなら得意だし、服もできなくはないかな」
 「うんうん!頑張ろうね!」
 怤藍が搭乗人物達を食堂車へと手招きし、全員がぞろぞろと移動するのをリズットはぼんやりと眺めていた。
 その時。
 「………っ!?」
 ほんの一瞬だけ、リズットの視界が遮断された。その反動でよろけて地面に片膝をついたが、その様子に気づいた者はだれもいなかった。
 食堂車からは、和気藹々とした搭乗人物達の声が聞こえてきた。
 「……配膳にいかないと」
 リズットは何事もなかったかのように、急いで食堂車へと向かった。


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