@875108Express_
少女は狭い箱の中で、花びらをむしっていた。身に纏っていた白いドレスを引きずり、飾ってあった花瓶をなぎ倒して。
ブチッ!ブチッ!!っと音をたてて、むしりとった花びらを、口の中に詰め込んだ。歯触りが良いとはとても言い難いそれを、咀嚼しては飲み込んだ。
赤、白、ピンク、黄色、オレンジ、紫、緑、青。なぎ倒した花瓶にあったそれらの色の花を、次々と手に取る。そして、今度はこれをそのまま口にした。
花の中に薔薇があったのか、口の中で棘が刺さった。それでも構うことなく、少女は花を食べることをやめなかった。
とてもじゃないけど、美味しいだなんて言えない。けれど、その色や形を見るたびに、食らいつくしてしまいたいと思ってしまっていた。
「頭がおかしいのはわかってる。けど、どうしよう…やめられないんだよ…」
少女は泣きながら、花を食べ続けた。食べて、飲み込んで、そして泣く。それの繰り返し。
狭い箱の中は、そんな少女を閉じ込めるように匿っていた。
怤藍が「文化祭を決行する」と宣言した日の翌日。リズットが自室にある洗濯機で洗濯をしていると、食堂車から衝撃音が聞こえた。
「全く…」
大方の予想はついている。恐らくこの衝撃音の原因は怤藍であろう。
リズットがすぐさま自室を出て向かうと、案の定脚立から落ちて腰をさすっている怤藍の姿があった。
「何やってるんですか」
食堂車には二人しかおらず、搭乗人物達は全員客室にいるようだった。
「えへへ……脚立に髪の毛が絡まっちゃってね。それで足滑らせちゃった…」
脚立に絡まってる怤藍の長い髪を、リズットが丁寧にほどく。
「…そんな髪をしているからこうなるんだって、前にも言っただろ」
「そうだっけ…?じゃあ、近いうちに髪でも切ろうかな」
怤藍が地べたに座り、自分の髪を編んでおさげにし始める。リズットは脚立を抱えると、食堂車を見渡した。
「文化祭というものは、本気でやるのか?」
リズットの問いに、怤藍は髪を編みながら「そうだよ」と答えた。
「…毎度毎度、突拍子もないことをやろうとするよな」
リズットが呆れたように告げると、怤藍は微笑んだ。
「そうかな?でも、皆でやり遂げたって記憶は、後々欲しくなると思うよ?」
どんどんと怤藍の長い髪が編まれていく。
「…僕には到底理解出来ないな」
「そのうちわかるから大丈夫だよ。皆でやる文化祭、楽しみだなぁ~!」
ふと、髪を編む手を止めて怤藍がリズットの顔を覗き込む。
「…大丈夫だよリズット。リズットには、あたしたちがいるから。好きなように遊んで、好きなように叫んで、好きなように生きていいんだよ。何かあればあたしが、あなたや他の皆のこれからを守る」
青白い顔をするリズットに言い聞かせるように、怤藍がそう告げた。
「好きなようにって…」
どうすればいいんだよ、と言いたげなリズットを見上げて、怤藍は髪を編むのを再開した。
「この世界であなたを縛る人は、もうどこにいない。これから出来るであろう友達や恋人にも、あなたならちゃんと自分の口で『好き』って言えるようになるよ」
「本気で言ってるのか?」
「勿論だよ。だって、リズットは素直な子だから。だから大丈夫」
「……」
リズットが黙り混むと同時に、怤藍は髪を編み終えた。
「よし!これなら髪が邪魔にならない」
怤藍は側に置いてあったランタンを手に、食堂車を去った。
「…『大丈夫だよ』って…どの口が言うんだよ……」
リズットはそう呟くと、脚立を自室に運んでいった。
【ブーケエクスプレス 談話室】
談話室に集められた搭乗人物達は、怤藍からネームプレートを配布されていた。ネームプレートには、名前と所属チームが書かれていた。リズットはいないらしく、怤藍は先ほど編んだ己の髪を揺らす。
「全員受け取ってくれたかな?それじゃあ、今からチームわけの結果をお伝えするね」
🍎「結果発表ぉ~!!」
🐤『ドンドンパフパフ』
希更「やったー!!たのしみ……!!」
怤藍がそう言って、チームのメンバー編成を発表する。
「まずは【ファッションショー】のチーム!杏助さん、イヴァンさん、春霞さん、周さん!以上四名!拍手!」
拍手と共に、名を呼ばれた四人のランタンが数回点滅した。
🍎「モデルっぽい人がいっぱい!すごい!」
🐤『ホレルワァ……』
「次に【絵画展】のチーム!冬真さん、ジョアンさん、常磐さん!以上三名!拍手!」
🍎「おぉ~!!頑張って!!」
拍手をしながら、怤藍が進行を進める。
「【プラネタリウム】のチームは、マハトさん、りんごさん、笑愛ちゃん、リズットくん!以上四名!拍手!」
「お困りの際は、わたくしがお力添えを致します。よろしくお願いいたします」
いつの間にかやって来ていたリズットが、一礼する。
🍎「プラネタリウムかぁ~お星さまいっぱい頑張ろ~!!」
🐤『タナバタミタクガンバルンヤデ!』
🍎「リズット君物知りっぽいから心強いね~」
「最後は【コンサート】のチーム!八重さん、パピィちゃん、希更ちゃん、そしてあたし!以上四名!最ッ高のコンサートにしようね!」
拍手をしながら、怤藍は他のメンバーに笑いかけた。
🍎「楽しそうなコンサートになりそうだね!!」
🐤『タノシミヤワァ』
「チームわけの発表はこれで終わり。次にチーム別でやることのリストを配布するね」
怤藍がそう言うと、リズットがチームごとに一枚ずつリストを配布した。搭乗人物達は、それぞれのリストに目を通す。
🍎「なるほど~調べもの頑張らなきゃ」
イヴァン「へぇ、楽しみな組分けだな……。俺のチームは……うーん、負けてられないな…(楽しそうに笑って)」
「基本的には、このリストにあるのをやって欲しいかな!ちなみに皆で一緒に準備をして欲しいから【個人行動を控えて、協力し合う】っていうのを心がけて欲しいな!」
杏助「頑張んなくちゃねぇ〜」
「リズットくんが差し入れとかを用意してくれてるから、皆頑張ろうね!」
春霞「ファッションショー…!いいなぁ、頑張らないとだ!」
怤藍はくるりとその場でターンすると、またしても笑いかけた。
「それじゃあ、お昼ご飯を食べたら準備にとりかかろう!皆お腹すいたでしょ?リズットくんがお昼ご飯に、ふわとろ卵のシチューオムライスと、ミネストローネを作ってくれてるよ!」
🍎「女子力高過ぎリズット君……」
🐤『ツベコベイワズモラットケ!!』
杏助「あ、私ミネストローネ大盛りで♥」
「大丈夫!おかわりはいっぱいある!」
春霞「シチューオムライス、美味しそう〜!へへ、はやくいかないと!」
「リズットくん本格派だから、シチューのルーも手作りなんだよ!」
希更「わーいお昼だ!!!」
八重「シチューオムライス食べたことないから楽しみ」
周「わ、ファッションショーじゃないですか、いろんな服着れるんですかね? 楽しみです」
杏助「服のデザイン考えるの楽しみ〜ふふふ」
「あ、ちゃんと文化祭に、他のチームの出し物も見に行けるからね!そこは安心してね!」
エマ「おっひるー!!わーい!がんばろうね、お兄ちゃんとお姉ちゃん!!」
周「裁縫……はあんま期待しないでください」
イヴァン「レース編みなら得意だし、服もできなくはない…かな」
「うんうん!頑張ろうね!」
怤藍が搭乗人物達を食堂車へと手招きし、全員がぞろぞろと移動するのをリズットはぼんやりと眺めていた。
その時。
「………っ!?」
ほんの一瞬だけ、リズットの視界が遮断された。その反動でよろけて地面に片膝をついたが、その様子に気づいた者はだれもいなかった。
食堂車からは、和気藹々とした搭乗人物達の声が聞こえてきた。
「……配膳にいかないと」
リズットは何事もなかったかのように、急いで食堂車へと向かった。