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ひとりぼっち惑星

炙り鮭
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2019-07-25 02:30:22

ペリーSS

時間と暇さえあれば じぃ っと月を眺めるのが日課だ。
『船長』は夜空が本当に好きだ、と部下や同僚から言われたことがある。
実際、そのとおりだ。天文術士を目指した一番の理由はそれだろう。


丑三つ時。アスラのばっちゃまに口裏を合わせてもらって、天軍武将練を抜け出す。
夜間の1人歩きなど、治安上はよろしくないのだが……
もうすっかり秋の暮れだ。直に冬になる。その前にどうしても確認しておきたい所があった。






『や。ツクヨミ様。ひさしぶり』
『『船長』ペリーです。元気してた?』


果野の泉とも呼称されはじめた、新たな禁則の地。湧き出した泉。
それを一望できる山頂に、望遠鏡を携えた巨女がいた。
直接泉に行きたかったが、あそこへ入るには元、果野国の民の許可がいる。

大事になりようもないが、できる限り果野国の子たちには面倒をかけたくない。此処で我慢することとした。
なんだかんだアルペジオやアクセルに、私は行き過ぎた"ヒビキ"の知識を疑われている。



『……流石にここからじゃ遠すぎたかな?』
『まぁ……いつかは伝わるさ』
『星の輝きだって、そういうものだしね』


無論返事など返ってこない。周囲にあるのは綺麗な水、美しい泉。
そして育ち始めた木々だけだ。ここから美しさにため息を吐いたって、返答は帰ってこない。




望遠鏡越しに、煌びやかなものをみていると子供の頃を思い出す。
何もなかった私の故郷。私と、おかあさん以外誰もいなかった暗闇の故郷。
あの世界で私の大事な人が保護者の役ならば、望遠鏡の役はきっと先生だった。













『おかあさん』
『私、あそこにいってみたいな』


闇夜を照らす唯一の光源。煌びやかな黄色い星に指を差す。
今日は"おかあさん"の役をしている私の大事な人は、やさしく微笑むとあれが月だと教えてくれた。
もう何度このやりとりをしただろう?それでも、私は飽きずにいつも通り続きを説いた。


きっと月にはいろんな素敵なものがある。
大好きなバーベキューソースで出来た川に、宙を泳ぐ魚さん。
あの星が黄色いのは一面、黄色い花に包まれているからで。
その花の回りにはちょうちょや、ハチさんがいっぱいいて。
いなくなった”おかあさん”の大切な人たちが今はあっちにいるの。
きっと私たちが向かうのを待っているんだ!
それから。それからね。ね。きいてる?"おかあさん" それでね。



”おかあさん”は、決まり文句のそれを飽きずに何度も楽しそうに聞いていた。
月にはいっぱいの浪漫が詰まっている。わたしはいつかあそこに行ってみたい。
それに……二人ぼっちだけの世界なんて、”おかあさん”が寂しいに決まっている。



しわ枯れた優しい声で、”おかあさん”はもう今日は寝るように諭した。
でもまだ全然ねむくないんだよね!だから私はずっとずっと”おかあさん”の横で
行ったこともない月や、国々の御話。私たちが済む世界がジパングということ。
これから私が月だけじゃなく、もっと色んなところに"おかあさん"を連れていくこと。

……ほとんどは”おかあさん”から学んだことだけど。知識や夢をひけらかした。
きっと耳触りで五月蠅かっただろうに、”おかあさん”は皺だらけの手で優しく撫で続けた。
そして、ちょうど日付が変わる頃に黒い帽子をかぶせてくれたんだ。


本当は朝に渡したかった。と”おかあさん”がつぶやいた。
そういえば今日は私の12歳の誕生日だ。すっかり忘れていた。
渡された真っ黒な帽子がなんなのか、尋ねる。ひょっとしてこれは王冠という奴なのでは?!


"おかあさん"はゆっくりゆっくりと教えてくれた。


これが三角帽子という名前の帽子であること。
古くから、冒険をするもの達に愛された帽子であること。
マシューが冒険を求めるならば、絶対にこの帽子を見につけて行くと約束すること。



冒険を後押しされた事実は私の好奇心を振るわせて、私の心を躍動させた。
何度も何度も”おかあさん”にお礼を言った後、私は自分の部屋へと戻った。
……その時に気付いていたら、もう少し未来は変わっていたかもしれない。



それ以降、”おかあさん”は目覚めなくなった。
繋いだ心電図も呼吸器も、”おかあさん”が生きていることを指してはいる。
生命維持装置はきちんと動いていた。何の故障もない。


それでも、”おかあさん”は。
彼なのか彼女なのか?本当の親かさえもわからない大事な人は。二度と目覚めなかった。





立役.女形。私たちの一族は、性別を自在に変えられる。
だから、この何もない世界でも「最低2人」残っていれば一族は続いて行ける。
けれど、私の大事な人はそれを選択しなかったらしい。


だから、彼もしくは彼女は私にとって"大事な人"で止まり続けた。
2人ぼっちのこの世界で、私へと情操教育をするためにたった一人で
"おかあさん"の、"おとうさん"の、"おじいちゃん"の、"おばあちゃん"の、"おねえちゃん"の、"おにいちゃん"の役を演じた。


それがどんなにいびつであったかは、もっと先になってから知るのだけれど
多分、私の大事な人は私がこの暗闇の世界から飛び出していくことを望んでいたのだろう。
私が抱く浪漫や夢へと至る知識を教えたのは、あの人なのだから。







望遠鏡を見つけたのは、"おかあさん"が動かなくなってからすぐだった。
まだ、”おかあさん”が死んだことを受け入れてなかった私は暇をつぶす方法を探していた。
何せ、"おかあさん"に何かつぶやいても相槌一つ返してくれないのだ。


ひとりぼっちには刺激が必要だった。望遠鏡の使い方は知識として教えられている。
けれど、使わせてもらったことは一度もない。もらったばかりの大きめな帽子をかぶり直して
望遠鏡をのぞき込んだ。大丈夫。知識に間違いはない。遠くまでみえそうだ。あ。これなら。



――月が、よく見えるんじゃないか?



そう思って期待に胸躍らせて、逸る気持ちを押しつぶして、
興奮した昂りのまま真実を見つけに出かけた私を待ち受けたのは……浪漫を食いつぶす現実。



















                  なにもなかった。












『……ん?ぉ?』
体についた枯れ葉をぺぺっと剥がす。なんだっけ?
よだれがべっとりと地面についていた。

『あ 夢か!?寝てたなこれ!??』
ぼりぼりと髪を掻いて体勢を立て直す。
まだ日は昇っていない。どうも、少しばかりうたた寝していたらしい。


『やーーーーしかし』
『懐かしいもんを見たな。……もう20年以上も前か』

あの日と同じように、月を見上げる。
見える光景こそは違うが相変わらず綺麗だ。美しい。
月にしろ万名月にしろ、私が求めた浪漫はないと知っても。それでも美しい。


『…………』
ツクヨミ様の最期の地を見に来たのに、結局といえばいつも通り月を眺めている。
これでは何しに来たのかわからない。だが、それでも私は……。拳をぎゅっと握りしめる。

『…………』
『ってあら?』
『ああ、そだった。ごめんごめん!』

『キミ達は強い感情に、特に好奇心に引き寄せられるんだったね』
『ごめんよ騒がしくしちゃって.』

ペリーの周囲には、先ほど払った落ち葉や塵があるばかり。
あとはいつも通りの野山。誰の、何の姿形もない。


『あ てか思い出したぞ!君らな!アクセルのこと教えてくれたって良かったじゃん!』
『すっかり私騙されたぞルバートの一件!……いやまぁそりゃいいわ。結果オーライ』


『……』
『ツクヨミ様、満足できてたかな』


『……そっか』
『長い、長い旅路だったけどたどり着くべきに辿りつけたんだ』


『私も、この国を開国したらそういう旅をするよ』
『……このジパングから飛び出て何処まで旅立つにしても』
『きっとツクヨミ様のように満足した旅にしてみせる』


『なっはっは』
『タッパはでっかくなっても、知識が増えても』
『結局抱いた思いはあのガキんちょの頃のまんまなのかもね?』


『ほら、泉の方におかえり』
『私ゃヴィヴィちゃんやツクヨミ様みたいな力ないし』
『寄ってこられてもなんも出来んぞ!散った、散った!』

『しっかしまー』
『"ヒビキ"か。上手いこと名づけたもんだよね、キミたちのこと』











『"黒船"に乗ってさ』
『ずーっとずーっと他の世界まで旅をするんだ。ふふ 浪漫があって楽しそうだろう?』

『……"黒船"に残したままでごめんよ。でも、きっといつか二人で旅をしに行こう』
『色んな人に会いに行こう』『色んな世界へ行こう』『たくさん、たくさん』

『この閉じ切った世界も』
『”おかあさん”も』
『……ひとりぼっちでなんか終わらせやしない』

『私は『船長』マシュー・ペリー。この国を開く開国者だ』

2m近い身長の女の心持は、あの時。月を眺めていた時から何も変わっていない。









ひとりぼっちは、さみしいんだ。


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炙り鮭 @smokedsalmon108
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