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「アネモネ」の花言葉は

炙り鮭
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2019-07-25 17:49:21

【半天使アネモネ】
縁樹国の四神将、『朱雀』によって造られた不死のホムンクルス。『人為的な天使化』を施された者。
桔梗国崩壊後、フランチェスカ・ザビエルと共に柾良へと亡命。武家屋敷にして療養中。

 
「ボクは阿野ひなたって言うんだ」
周囲に浸る沈黙。ごぉごぉと響く機械の蒸気音。……誰から、何の返答もありません。
しばらくしてようやく気付きました。話しかけられたのは、この"私”だったのです。
 
ぎゅうっと瞑っていた目を開き、体育座りの姿勢のまま、頭だけをくるりと牢の外へ。
想定外の蛍光灯の明るさに、思わず目がぱちぱち。目をちゃんと開けることができません。
そのことを謝罪すると、何が可笑しかったのか、男性は和やかに笑いました。

「キミが、アネモネさんだね」
「今日から君のお世話をさせてもらう。よろしくね」
 
十三人目の飼育員係さんはとても変わった、線の細い男性でした。
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私達は。アネモネは。生まれた時から、希望を失っていく不死のホムンクルス。
作成者のあの男は、私達を”失敗作”と言いました。生まれから失敗作の欠陥品。

受けた指示に応え、受けた命令に従事し、それ以外は何も望まず何もしません。
私達は、生まれた時に一番の希望を抱いて。この世界に落ちてからは何の希望も抱きません。
胸の奥に抱いた欠片は摩耗して、日々と共に消え去っていくだけなのです。

アネモネの花言葉は「薄れゆく希望」

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阿野燈人。阿野燈人。阿野燈人。
湿った地面にあの人が書いたそれを。何度も覚えるためになぞります。
 
「燈人、って書いて”ひなた”って読むんだ」
「……うん。読めないだろう?ボクもそう思う」
「だから、友達や先生や。たまに家族だってボクのことを"あの人”だなんて呼ぶんだ」
「名字に絡めてね。何度も何度もからかわれたのをよく覚えているよ。懐かしいなぁ……」 ははっ
「……」
「あ ごめん……どうしてこんな話しちゃったのかな?……興味、なかったよね」

その話を聞いてから、私はひなた様のことをあの人と呼ぶようになりました。
……誰からも指図も受けずに、どうして私がそうしたのか?当時は、わかっておりませんでした。
ただ、飼育対象にも明るい彼に、時々見える暗い陰を祓いたかったのかもしれません。

私が、あの人と呼んだ時の。あの人の驚いた顔と、優しい笑みが頭から離れません。
何度も、何度も、何度も。食事の配膳時間。彼と会える時間まで何度も、地面の文字をなぞっていました。
 
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飼育員の顔ぶれが変わることは、そう珍しくありません。
彼らの仕事はアネモネシリーズに仕事を教え、食事を作り、世話をすること。
難しいことではありません。……だからいくらでも替えが利く人間が選ばれます。

彼の前任は、通りがかった不死者の”おやつ”になったそうです。
 
常に生殺与奪を握られている環境は、人の心を摩耗させるのでしょう。
上に媚び諂うことで捨てた矜持や、いつ死ぬか分からない恐怖。
それを刷新するためか、自ら心を壊す者や、より下の立場だと判断したアネモネにあたり散らす者も多いです。
最も、そうした人は廃棄に回されます。一週間のうちに飼育員さんの顔ぶれが変わることもありました。


だから、私は疑問でした。あの人はどうしてアネモネにこれほど良くしてくれるのでしょう?
どうして微笑みをくれるのですか?どうして尊重してくれるのですか?……私が怖くないのですか?
疑問が浮かぶ度、胸の奥に仕舞います。……私はその答えを聞いてどうする気か、見当もつきませんでした。

……私も彼も替えが利くものです。この日々がずっと続くとは考えられません。
それでも、胸の奥に仕舞いこんだ疑問たちが、いつのまにか脈を打っているのです。
不死の鼓動を高め、温かくしているのです。……これを何と評すればいいのか、私にはわかりません。

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ある夜。汗、そして息を切らした彼が檻へとやってきました。
……施設で働いていた人間による、不死者たちへの蜂起が始まったとのことでした。
彼は臆病そうな瞳を、必死にひんまげて。勇壮な顔を作ろうとして失敗してました。

戦いに行くのですか?と聞くと、困ったような顔をして頷くのです。皆を見捨てられない、と。
震えた手足で、怯えた目で。頼りの無い体躯で。それでも彼は戦いに行くというのです。
やっぱり、彼は替えの利く人間でした。どこにでもいる、他の人のためを思える平均的な善人でした。

でも。例え、それが替えが利いたとしても。私は失いたくありませんでした。

生きたいと。気付くと、そう、あの人へ向かって叫んでいました。……本当はあの人を生かしたかったのに。
口をついたのはその言葉でした。頬に流れていたものが、涙と知ったのは随分と後のことです。
世界に生まれ落ちてから、はじめて抱いた気持ちでした。その名はきっと、希望と呼ぶのでしょう。
 
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「『人為的な天使化』技術により天使化をさせる事が出来るのならば」
「人為的に、天使化した者を元に戻す事が出来るはずです」

桔梗国に逃れた私とあの人に、百代供養様はそう述べてくれました。
人為的な天使。不死のホムンクルス。生まれ落ちた罪を抱く鯨。
……その私が、私たちが戻れる方法を見つけられる?私が、私達が。……人類の敵でない道を選ぶことが出来る。

本当の意味であの人と同じ道を、歩むことが出来る?……自分を研究に役立ててほしいと、意志を評しました。
私は。私たちアネモネは、罪だけの存在ではない。希望は失うだけでなく、得ることが出来る。
この国に来て……ようやく、私とあの人の人生がはじまりをみせたのです。



「アネモネ」の花言葉は――――「はかない恋」


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炙り鮭 @smokedsalmon108
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