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[北斗P♀]ナイスアシスト

全体公開 2 2037文字
2019-07-29 15:29:28

「ハイ、エンジェルちゃん。次のオフはいつ?」

Sir◯的なスマホの音声アシスタントを使いこなすほくほくの、スマートかもしれないデートのお誘いのお話です。

Posted by @toasdm

 今ではすっかり見慣れた光景だが、ほんの一昔前までは見ることのできない光景だったはずだ。電車の向かい、七人掛けのシートにぎっちりと座った老若男女のうち実に六人が、それぞれスマートフォンを手にして何かをしている。デジタルネイティブの子供がプリントされた写真をスワイプしたりピンチアウトで拡大しようとしたりする、なんて話もそういえば聞いたことがあったな、と彼女は自分の手元をちらりと見た。
 職業柄、使う必要があるから使ってはいるが、どちらかというと彼女は多機能なスマートフォンよりもシンプルなフィーチャーフォンの方が好きだった。使っているというよりは使われているといった雰囲気だったし、使いこなすなどというのは夢のまた夢、くらいに感じられて仕方がない。
 パタンと二つに折れば画面が傷つくこともなく、厚みもあるからポケットの中で折れることもない。多少雑に扱っても堅牢なフィーチャーフォンにまだ捉われたままの彼女は、複雑な気持ちで電車を下りて事務所へ向かった。

「チャオ☆」
「あ、伊集院さん」
 おはようございますの挨拶すら匂い立つような爽やかさを振りまいて、北斗は彼女の後ろから声をかけてきた。聞けば同じ電車に乗っていたらしく、早いですね、の異口同音に二人は顔を見合わせて笑った。
「車両違ったんでしょうか?」
「うーん、俺もスマホ見てたから気付かなかったかもしれないです」
 スマホを取り出して見せておどける北斗の様子に、彼女は気にならない程度の劣等感を覚える。今時の大学生というからには、やはりきちんと使いこなしているのだろうか、とぼんやり考えていると、北斗はスマホに声をかけた。
「ハイ、エンジェルちゃん」
「?!」
 驚いて目をみはる彼女の前で、北斗は音声アシスタントを起動して今日の天気を尋ねる。人間の声に限りなく近いがどこか違和感のある発音を残した音声アシスタントは、この後雨が降るでしょう。傘は持っていますか?とレスポンスを返してきた。
「え、それってそんな名前でしたっけ……?!」
「ああ、これですか? ふふ、起動の言葉を登録してあるんですよ」
 やっぱり使いこなしてる、と驚く彼女の様子に、たいしたことじゃないですよ、と北斗は謙遜する。
「どうせ呼びかけるなら、自分の好きなように呼びかけた方がいいでしょう?」
「な、なるほど……
 終了の言葉はチャオ、だったところも含めて、北斗は実に北斗らしくスマホを使いこなしているようだった。
「私、あんまり使いこなせてないかも……
「そうなんですか」
 正直にぽつりと漏らした彼女の隣で、彼女のスピードに合わせて歩きながら、北斗はウィンクをする。
「俺でよければ教えますよ」
「え、えっ、そんな、いいですよ別に!」
 いつがいいかなぁ、と彼女の遠慮を軽く流して、北斗は再び音声アシスタントを起動する。
「ハイ、エンジェルちゃん。次のオフはいつ?」
 明日はオフです。なにか予定を入れますか?と待機状態になった音声アシスタントを完璧に使いこなしている北斗に目を丸くした彼女に、北斗は悪戯っぽく笑って彼女の耳元で囁いた。

「ハイ、プロデューサー。次のオフは空いてますか?」

 瞬間、ぶわっと全身の毛穴が開きそうな勢いで彼女は真っ赤に茹で上がる。な、な、と口をぱくぱくさせるばかりの彼女は硬直したまま動かなくなった。
「あれ、冗談だと思ってます?」
「え、えっ、えっ!?」
 それに追い討ちをかけるように、北斗は彼女の手を恐ろしく自然にぎゅっと握って、彼女の前で恭しく、手の甲に軽く口付けを落とした。
「スマホの使い方なんで口実ですよ、プロデューサー」
「あのあの、あのっ?!」
「次のオフ、俺とデートしませんか?」
 言葉の出てこない彼女をじっと見つめる北斗の瞳が、冗談を言っているように見えないところが彼女の混乱を誘った。急に繋がれた手の汗が気になったが、息はしてくださいよ、と笑われてそれどころではなくなってしまう。
「プロデューサー、次のオフの予定、教えてください」
「え、えっと……

『次のオフは空いていますよ 予定を入れますか?』

……え」
「っふふ……
 雰囲気ぶち壊しだなぁ、と北斗はスマホの音声アシスタント機能を終了させる。合わせられると思うから教えてくださいよ、と彼女の手を離して、北斗は空気を読まないスマホをポケットにしまいこんだ。
「返事、別にすぐじゃなくていいですから」
「は、はぁ……
「っと、そろそろ事務所行きましょうか」
 音声アシスタントのナイスアシストで少し気が抜けた彼女はちらりと時計を見る。時間に余裕はあったが、今日は確か大事なメールが来ているはずだ、とそこでようやく彼女は自分を取り戻した。
 事務所まではなんとなく、北斗が上手くリードしてくれたおかげか普通に話せていたのだが、彼女の頭は、次の休みはいつだっけ、とそのことばかりが気になって仕方がなかった。


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