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[朱P♀]二回目の七夕

全体公開 2391文字
2019-07-31 17:20:42

「ずりぃな、プロデューサーさんは!」

北海道の七夕は八月と聞いたしたたかちゃっかりPさんと朱雀君のお話です。

Posted by @toasdm

 そういうものだという話だけは聞いていたが実際にそうなのだと知った時、朱雀はたいそう驚いたのだという。そもそもこの笹竹というものにも馴染みがなく、聞けば北海道では柳の木の枝を切ってきて玄関先に飾っていたのだという。
「けどよぉ」
 事務所の屋上に笹竹を据えながら、朱雀は後ろへ声をかける。
「いいのか? 二回も七夕やっちまって……
「はい」
 カラフルな色紙や金銀の飾りをそろえながら、彼女はスーツのポケットから取り出したスマートフォンでそれらを撮影する。
「だって、七夕ってお祭りでしょう?」
「おう……
 にゃん、と朱雀の肩から飛び降りたにゃこがその飾りに気付いて、ちょいちょいとちょっかいを出してじゃれはじめたのを、こら、と朱雀は拾いに行く。
「にゃこ、プロデューサーさんが困るだろ!」
「っふふふ、しょうがないですよ、ね?」
 猫の本能だから、とさして気にも留めずに、彼女は飾りの半分を朱雀に手渡した。受け取った朱雀はそれらを上の方から適当に飾っていく。
「お祭りって、楽しいじゃないですか」
「そうだけどよぉ……
「楽しいことって、何回あってもいいと思うんですよ」
 そういえばそうか、と納得しかけたが、何も自分の故郷の風習に合わせて二回も七夕をやらなくたっていいじゃないか、という朱雀の考えはなかなか変わらなかった。
「うちには、北海道出身のアイドルが二人もいますしね」
「うーん……
「後は、七夕の由来ですね」
「七夕の由来? あの、織姫と彦星が年に一回会えるやつか?」
「はい。そもそも織姫と彦星が天の川を越えて会えるのは、旧暦の七月なんですよ」
…………?」
「ええと、昔のカレンダーって、今のカレンダーより一ヶ月遅かったんです」
「へー……
 くすくすと笑いながら彼女は下の方を飾り付ける。揺れる柳の葉に飛びつくにゃこを肩に回収して、朱雀は彼女の言葉を待った。
「だから、北海道とか東北、あとは神奈川の一部地域や山口なんかでは、旧暦に合わせて八月七日に七夕をやって、昔の人が大切にしていた文化や風習を感じましょう、ってことになってるらしいんですよ」
「おお、それならなんか、わかるぜ! いいよな、そういうの! おんこちしんとか、そういうやつだろ?!」
「はい!」
 どこかほっとしたような彼女の表情に、朱雀もニカッと太陽のように微笑み返す。わかってくれましたか、と飾り付けを終えた彼女は脇に除けておいた短冊を手にとって、ペンと共に朱雀に手渡した。
「というわけで、短冊には願い事を書きます」
「おう!」
 嬉々として短冊に願い事を書き始める朱雀は、ん、と隣の彼女を見る。
「あと五キロ……あと五キロ……
……プロデューサーさんよぉ」
 その彼女の、あまりにも真剣な横顔に一瞬ドキリと胸を高鳴らせた朱雀だったが、もしかして、という疑問を無視できるような男ではなかった。あと五キロ痩せたい、という切実な願いを一文字一文字真剣に書き込んでいく彼女に、朱雀は思い出したなけなしの知識を疑問としてぶつけてみることにした。
「七夕の短冊って、勉強できますようにとか歌うまくなれますようにとか、そういうの書くんじゃなかったのかよ……?」
 一瞬、ギクリと肩を震わせた彼女の動作を、朱雀の純真な目は見逃さなかった。これも自己研鑽ですよ、と目を逸らして誤魔化しにかかる彼女の目を、回り込んでじっと見つめて、朱雀はぽつりと呟いた。
「なんか怪しいんだよなぁ……
「あ、怪しくなんて、ありませんよ?」
 それなりに付き合いの深い朱雀には、なんとなく、直感でわかってしまったのだ。もしかして、と彼女の両肩に手を置いて、ギンッ、と音がしそうな真剣な目つきで朱雀は彼女を問いただす。
「短冊に二回願い事書きたかったのか……?」
……
「なぁ」
……はて?」
 目線だけを明後日の方へ向けた彼女を、やっぱりかよ!と朱雀は笑った。
「ずりぃな、プロデューサーさんは!」
「だ、だって!」
 欲望丸出しの自己研鑽をつまんで、朱雀はふむふむと考え込む。恥ずかしいからあんまり見ないでくださいって、と飛びつく彼女の手からひょいひょいと、朱雀の手は上手に短冊を逃がしている。
「別に、太ってねぇだろ?」
「そういう、問っ題、じゃ、なくっ!」
「軽りぃ軽りぃって」
「うわぁ!」
 飛び跳ねる彼女の手に短冊を返すと、両腰をがっと掴んで、朱雀はそれを軽々と空中へと持ち上げる。ぎゃあぎゃあと喚く彼女をさらに高く持ち上げると、朱雀はニヤリと笑って促した。
「ずるはダメだと思うけどよぉ」
 ちょうど彼女の目の高さに、短冊を吊るすのにちょうど良い柳の葉が見えている。吊るせということか、と色々な恥ずかしさで真っ赤になった彼女は観念して、大人しくそれを吊るした。
「女の人のそういうやつ、なんか可愛くて、いいよなぁ」
「うぅっ……
 もうおろして、と真っ赤になった彼女を地面へそっとおろすと、朱雀は明らかに不自然なほどに高い位置から吊るされた彼女の短冊を見上げて言う。
「あんだけお星さんに近かったら、願い事も叶うかもしれねぇよな」
「う……そ、そうだと、いいんですけど……
 なんか今ので痩せたかも、と調子のいいことを言う彼女の手を取って、朱雀は気合十分に叫んだ。
「よっしゃあ! ダイエットの運動なら付き合うぜぇ!!」
「え、えっ!?」
 まずは軽くランニングしようぜ、とぐいぐい彼女の手を引いて、朱雀は彼女を外へと連れ出した。
 朱雀君の願い事はいいんですか、と喚く彼女の願いが叶いますように、という願いを書いた朱雀の短冊は、後から来た他のアイドルたちが吊るしてくれたらしく、ランニングでへとへとになった彼女が確認したSNSには、賑やかな二回目の七夕飾りの写真が投稿されていた。


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