@mary_hitman
その夜、魅上は堪えようのない虚しさに苛まれたまま、上手く眠ることもできず、何度も寝返りを繰り返していた。しかしそれすらもすぐに億劫になり、結局右隣に眠るその人へと視線を向ける。暗闇の中にぼんやりと、そんな彼のことなど知りもしないその人の、ただ安らかに眠る顔が見えた。魅上はそれを憎いなどとは思いもしなかった。
あんな行為でも、この人にとっては救済になり得たのだろうか――悲鳴を上げる精神を慰めるかのように、胸に立ち込める靄の原因を取り出して向き合ってみる。それはまるで悪夢のようだった。
性急に求められ、強引に始まった夜だった。奪うような口づけによって腰を抜かすように寝具に倒れ込み、馬乗りになったその人の主導で全てが進められた。言うまでもなく、彼にしては酷く身勝手さの目立つ行為だった。
思い返せば、あれはただの自慰行為であったのかもしれない。そんな風にさえ考えてしまう。視線の交わることのない肉交は、まるで魅上にはこの場所に自分が存在していることを相手から否定されているかのように思えたのだ。こちらからは触れることさえ許されなかったことからも、それが真実のように思えてならない。
心の通じ合わない交わりが、こんなにも気持ちの良くないものだとは知りもしなかった。
平生のそれは、例えそれが魅上であっても、言ってみれば「楽しい行為」だった。互いの愛を大事そうに持ち寄り、そっと見せ合うような、尊さを孕んだ行為だ。そこには二人だけの秘密といった甘美さまで備わっている。
それらが全てその人による演出であったことに、今の今まで気付かなかった自分を、魅上は恨めしく思った。
しかし、そうは言っても肉体の快感がなかった訳ではない。それだけに様々な嫌悪感ばかりが幾度となく生まれては薄れて行く。
吐き気に似た気持ちの悪さを感じ、再び寝返りを打って視界からその人を消してみる。勿論そんな簡単なことで気分が晴れはしないし、それが叶う行動であるとも思っていない。ただ、逃れたいという想いが強かっただけだ。
しばらくはそうして目を背けてみたものの、次第に隣に寝息を感じることすら苦しく思えた魅上は、その人に背を向けたまま寝具のふちに腰をかけ、別室にあるソファーへの移動を考えた。このままこの場所で時間を無駄にするくらいなら、いっそ朝まで起きていた方がマシなのではないかとも思えた。
だが、その人は眠っていてもなお、魅上を自由にはしなかった。
しなやかな腕がシーツの上をぱたぱたと動いていた。黙って様子を窺っていると、徐々により遠くへとその手が伸びる。その行動の意味を魅上はすぐに理解できた。
手探りで自分を探している。
いや、彼が真に求めているのは別の人物かもしれない。自分は恐らくその代用品に過ぎないのだろう。しかし、ならば彼は今誰を探しているのか。
思い上がった願望を宥めながら、それでも魅上はその人の手を取り、その動きを止めさせる。するとやっと見つけた体温に、もう片方の手も離すまいと絡みつく。
それだけで、もう十分だった。
相手の睡眠を妨げぬよう、慎重に自分の定位置に体を戻し、空いている腕で控えめにその人を抱き寄せてみる。ただ静かすぎる寝息だけが鼓膜を震わせる。
その人の安らかな眠りに比べれば、自分の苦悩など無意味に等しいと魅上には思えた。