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大罪パロ 矛盾組生前主従説

@sin_niya_b
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2019-08-03 20:54:19

「あんたはいつも敵を作りすぎる」
 男はそう肩を竦めた。床に転がっている暗殺者の体を探り、特になにもないことを確認してから立ち上がる。葡萄酒のような深い赤紫色の目が前髪の隙間からのぞいた。
 それを見返すのは淡く薄ぼんやりと光る緑色の目で、持ち主は口を開けて面白そうに笑った。男より大分若いその青年は、仕立てが良く華やかながらどこか武人めいた衣服を身に付けている。……エドガルの騎士。アラステア・エンデ。そして、「主」。
「アラステア」
「聞こえない」
「『アラステア』、多少は控えてもらわないと困る。そりゃあ俺は必ずあんたを守るし、殺せないものなんてないけどねえ」
 主相手にあけすけな物言いをしているこの男──呼称の訂正を求められても完全に無視した──は、熟練の騎士であり、従者でもあった。
 ……先の暗殺者は窓から侵入し主たるアラステアを狙って襲いかかったが、控えていた男が即座に対処し事なきを得た。が、室内は惨憺たる有り様である。飛び散ったガラスを主が踏まぬよう先んじて己の靴でその範囲に踏み入っている男の所作に気付かぬ主ではなく、鷹揚に腕を組んで少し離れた位置から動かない。
「なら問題はないだろう、私を守る盾は素晴らしく堅固だ」
 男はその言葉を聞いて少し困ったように眉を下げたが、どこか嬉しそうでもあった。

  ※  ※  ※

 それは怪物の見ている夢。
 静寂に満ちたその街で、座して動かぬ《悲嘆》の前で、大きく裂けた腹から内臓ではなく肉色の触手をあふれさせたままうずくまっている男の見ている夢。
「ああ……こんな、なんてこと……」
 慎重に手を伸ばした《悲嘆》は、触れた指先から男の有り様に気付くと泣き出しそうに唇を震わせ、消え入りそうな声で呟きながらその体をさすった。こぼれ落ちている触手をなんとか腹の中に戻そうとしているようだが、その手付きは覚束ない。ぬるぬるとしたその肉は《悲嘆》の指を汚し、体ごと膝へ抱え上げようとすれば滑って邪魔をした。すえた臭いが廃墟の空気を濁らせる。
「ここまで壊れてしまわないとあなたは休めない、そんなのはとても……とても」
 緩く頭を振る《悲嘆》の目は涙をこぼし、男の頭を抱えるようにして撫で回した。はらはらと落ちた涙が男の髪に触れ、ぱさついた茶褐色を滲ませてゆく。
「どうか今だけでも」
 ──この程度では死ねぬ体なのだ、彼も、私も。
 傷が癒えればこの男は再び《怠惰》としてさまよい続けるだろうことを思い、《悲嘆》はまた涙をこぼした。


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新矢 晋@企画用
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