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セキュアベースと血液の色。

全体公開 2202文字
2019-08-07 23:52:11

田町とかうんせらーさん。

その日は、いつも通りで。かつ、オフィスワークが多かった。
僕は弄らないように言われているから培養液には寄らなかった。パソコンはエラーを赤くしてくれるから間違ってるのが分かってよかった。僕の中でもまだできる業務だ。
隣にはいつも通り鈴城先輩がいて、カサンドラさんがいて、その外でモニカさんたちも作業をしていた。結構賑やかで、でも動いてないような日だった。
そんな感じで済むと思ってた。

廊下に出たときにそれは起きた。
僕のふつうに歩いていた廊下は急に歪んできてその先にいつもの彼がいた。
いつもの彼だ。
「あれ、どうしたの?」
口から言葉が出る。彼はふわふわ浮きながら廊下を通っていた。……彼がいるってことは、ゆめ?
「お刺身にはソースだよ」
いつも通りよく分からない。
「それはやだよ?」
「呼ばれてる……
神妙な顔つきでそんなことを言う。
「そうなの?」
「メグは行かなくてもいいの?」
なんで、と思った。来たところを振り返るとそこに、何故か、赤があった。その奥に、見える、見えるのは、きっと
きっと、あの人は、
髪の毛が流れていて暖かみもあるのに顔が見えない。
「おかあさん……?」
そっと足を進めようとして、僕は何かが吹き出す音を聞いた。
途端に触れ回る世界の形が変わっていく、床が落ちそう、液体、赤い液体が、垂れてる。僕は、僕はそっちには行けない。いっちゃだめって言われてる。ダメだ、ダメだ
流れてくるから逃げなくちゃ!
走る、走る、後ろから液体が迫ってくる、
目から垂れる何かさえ赤く見える。ふっと気がついて見ると僕の消えたはずの汚いのが見える。いっぱいある。いっぱいある。いっぱい。
きたない、きたない、きたない、きたない、きたない、
……うっ…………ひっ…………
足が動かなくて倒れる、はって、てをだして、立ち上がれなくてまたこけた。後ろから人のざわめきが聞こえる。叫び声がする。怖い、こわい、こわいよ、
立ち上がれたまた走る足がもつれそうになる眼鏡が斜めって前が見えない。痛みが身体の表面を撫でるように広がっていく、僕の中からそれは静かにかつ冷たく命を奪っていく気がした。
「だれか!」
叫んだ、叫んだつもりだったが僕の声はどこかに言ってしまうから誰にも聞こえない。聞こえない、聞こえない
「田町さん?」
え?
僕はぐるっとなって壁にぶつかりそうになりとめられた。
そこにいたのは、
「田町さん?大丈夫ですかー?」
臨床心理士の、蝶野さんだった。

カウンセリングルームの電話がなる。
彼女は変わらないトーンで話しかける。
「はい、カウンセリングルームです。……なるほど、夢分析君の仕業なんですねー。はーい、分かりました。田町さんはここにいますから大丈夫ですよー。他の人の対応はそちらにお任せしますねー。はーい。」
僕はとりあえずやわらかめのソファーに座って、何故かそばにあった鳥のぬいぐるみを持たされていた。ふわふわで、なんだか幸せな気持ちになる。
ギュッてすると、安心した。
でも、すぐに鳥さんが僕のことをつっついた。柔らかいから全然大丈夫だけど。
『あんまり強くしめるな。苦しいだろう』
「あ、ごめんなさい」
……そういうのが好きなのはあっちのしろもるふぉなんだ。あみ、もういいんじゃないのか?』
その声に、蝶野さんは時計を見て答える。
「あと3分はそのままでーす!」
『仕方ない。ほら、上から下にゆっくり撫でろ。』
言われたとおり、ゆっくり、上から下に手を動かす。すると、鳥さんは目を閉じて気持ちよさそうにしていた。
僕もなんとなく落ち着いた。夢ではないというか、あの男の子は夢分析っていう名前の哲学人らしい。……哲学人だったんだ。
「夢分析、って言うんです。分析心理学の起源ですね。専門ですからなんでも聞いてください?」
目の前で笑顔を見せる蝶野さん、すこし、怖い。見透かされてる気がする。なにがともいえないけど。
「えーと………
つい下を向くと鳥さんと目が合う。そのまま撫でると、嘴でぽふぽふと僕の手をつついた。
『子供か』
「だって……
『あみ、此奴はもともとこうなのか?』
「ふふ、あかねさんはサバサバしてますからねー。どうでしょう。」
蝶野さんが笑う。不思議な雰囲気の人だ。よくわかんないのは怖い。何も言ってないのに、なんだか居心地が悪い。
……逃げなきゃ、でも、迷惑になっちゃうし。
僕はどうしようもなくて、また、鳥さんをぎゅっとしそうになって、止めた。
鳥さんはなにも言わなかった。
視線を感じると蝶野さんは別の方を向いて紅茶を淹れ始めていた。と、山になってるトレイを僕の前に差し出した。
「おかし食べます?」
「えと……いいんですか」
「もちろん。食べないともったいないし。美味しいですよー。」
そう言われると受けとるしかなくなる。お菓子は罪ないし。おいしいもん。
適当にチョコチップクッキーをとったら、トレイはまた元の位置に行った。カップを取り出す音がして、また、色んなものを動かしてる。
と、
「ふふ、大丈夫ですよ。私はなーんとなく、お話したいだけですしー、それに。」
「それに?」
「貴方のセンパイよりぜーんぜん、お話できそうですから。うふふふー。」
せんぱい、という言葉。
蝶野さんは、少女のようにも大人のようにも見える笑みを浮かべていた。


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