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四章狭間

全体公開 1830文字
2019-08-09 22:45:30

 これは、誰かの記憶。
 
 「それってつまり『ストーリーの質を落とせ』ってことですか?」
 白い髪の少女が、背の高い銀髪の男に問う。
 「そうだ。お前は俺を越えてはならんのだ。俺の理想通りのシナリオを書いてればいい。余計なことはするな」
 そういって男は、少女の手に持っていた一冊のノートを奪い取った。パラパラとそれをめくり、ノートに綴られた文を、次々と墨で塗りつぶした。塗りつぶしてはめくり、塗りつぶしてはめくり、しまいには何ページかまとめて破り捨てた。
 少女はその様子を、黙ってみていた。ぼろぼろと流れる涙を止めることもせず、声を殺して、身を固くしてその様子をじっと見ていた。
 男は『添削』を終えると、ノートを地面に投げ捨てた。
 「人形ごときの駄作が、世に受け入れられる訳がない」
 男はそう言って、少女の元を去った。男と入れ替わるように、一人の少年が少女の元にやってきた。少年はノートを拾い、少女に手渡した。
 「大丈夫?」
 少年が心配そうに訊ねると、少女はその場で崩れ落ちた。少女はそのまま、ガシガシと自分の髪をかきむしった。かきむしる手に髪が絡み付き、するすると抜けているのがわかる。
 「何があったんだ?なぁどうしたんだよ!」
 少年が狼狽えていると、少女は拳を地面に叩きつけた。少年はしゃがんで、彼女の側に寄り添った。
 「紅茶でも、淹れようか?」
 振り絞るように少年が問うと、少女は顔をあげた。
 「ココアなら飲みたい」
 「ココアだね、わかった。待ってて」
 少年は立ち上がって、ココアを淹れる支度をした。
 少女はそれを、ノートを握りしめたまま見上げていた。
 
 


 黒いの世界に、青白い電波が弾けては消える。棺のようなそこは、箱庭よりも小さくて窮屈だった。
 でも、不思議と居心地が良かった。ゴトンゴトンと揺れる音と、ぼんやりとどこかに感じる温もり。楽しそうな声と、淡い花の香り。そこにいないはずなのに、そこにいるような気がした。
 ここにいれば、私は許されるのかな。ここにいれば、私も息が出来るだろうか。
 手を伸ばそうとすると、そこにあったのは。
 
 殺風景な病室と、鼻をつくような消毒液の匂いだけだった。
 
 「………え?」
 
 体を起こそうとすると、突然体中に電撃が走った。
 そのまま気を失うと、意識は体をはなれ、何処かへと
 
 何処かへと『引き寄せられた』のだった。
 そうしてその体は、今も『彼』を繋ぎ止めている。
 


 これは『彼』の独白。
 
 人を縛るルールなんて、ほんとはどこにも存在しないのに、どうして人は誰かを縛ろうとするのだろうか。服従させたいから?名声をけがしたくないから?それとも己の課題から目を背けたいから?
 どうせ全部エゴなんだよ。どいつもこいつも、本気になんてならない。生かせたいくせに息の根をとめようとしたり、死にたいのにみっともなく生き足掻いたり、宛のない許しを乞うことで自分を正当化したりしてさぁ。
 
 そんなつまんない言い訳をしてる場合か?手にいれたいものは、己の手で掴みとれってのを教わらなかったのか?何もしなくても他人が全てを与えてくれる、なんて都合のいいことに甘えるな。この世界はあなたたちの想像以上に、簡単に出来ていないんだぞ。
 いつまでそんな、寝ぼけたことをぬかしている。お前が望んだことなんだぞ。あなたたちがどうしても『欲しい』と望んだから、僕はあなたたちにこの体を賭けているんだぞ。
 
 僕はこの体を、彼女は己の人生を賭けているんだぞ。
 
 どうせ平和ボケしてるんだろうから、もう何もいわない。彼女がこれで満足なら、特別口出しなんかしない。
 でも忘れるな。あなたたちのタイムリミットは、確実に近づいている。
 彼女のことだから、あなたたちのをことを「命がけでまもる」っていうだろう。
 だけどな、守られてばかりはかっこわるいと思ったことはないのか?己の命は、他人の命と交換なんて出来やしないんだぞ。
 
 手にいれたいなら掴んで、変えたいと思うなら行動してくれ。
 やろうと思えば、あなたたちの『結末』は変えられるのだから。
 
 あなたたちが本気になって願うのなら、僕は。
 僕はあなたたちの『最期』までついていく。
 
 なぁ、聞かせてくれよ。
 
 あなたたちが欲しいのが、何なのかをさ。
 


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