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酔いどれエツィオ三部作

全体公開 4879文字
2019-08-10 19:08:16
Posted by @acbh_dmc4

①BH酔

昔から酒には程よく弱く、飲めば自制が外れてしまうのかうっかり本音が出てしまう。
その為か何度となく年上の自分には酒を飲まされ失態を演じて来た。
その腹いせという訳ではないのだが、逆に飲ませる側になってみると過去の己の失態が面白く映り、ついつい酔わせては本音を引き出してしまう。
酒に酔い白い肌を紅潮させ、潤んだ瞳で素直に心を吐露する様は、ほんの少しの痛みと共に欲を刺激される。
そもそもこの男は私に媚びる様に仕込んでいる。
媚びることで私の激情をやり過ごそうとしているが、その心の内の何もかも知っている者としてはとみに意味のない対策だったと改めて思う。
駆け引きにもならぬ主導権はいつだって私のものだ。

何度目かの過去への旅で、調度テベル塔で宴が催されている夜にローマへと降り立った。
弟子たちが愛想よく私に挨拶をする。
導師も一緒に宴会に参加してくれればよかったのにと口々に惜しまれたが、苦笑してこんどまた、と社交辞令を返した。

見当たらないエツィオ達の所在を聞けば、上階にある寝所に休みにいったと教えて貰った。

階段からそれほど登っていない辺りで機嫌よく酔っぱらっている過去の私が、もう10数年ほど若い完全に潰れた私を運んでいる。
どうも運んでいるエツィオも相当酔っているようで、些か足元が危なっかしい。
目の前でぐらりとエツィオの体が傾いだのを咄嗟に支えてやれば、胡乱気な目が私を見上げた。

どーし」
「危なっかしいな。貸しなさい。彼は私が運ぼう」

了承を得る前に彼の肩から一番年下のエツィオを攫い、肩に担ぐ。
少々ムッとした顔をするエツィオに、あやす様に触れるだけのキスをしてやれば、むず痒いような嬉しそうな顔をした。
潰れた青年をベッドへと下ろすと適当に寝支度をしてやり、大人しくその姿を眺めているエツィオへと向き合った。

「私がここに来たという事は、分かっているな?」
「どうしのお屋敷にいかれるのですか?」
「ああ。酔い覚ましにもなるし、歩こう」

エツィオの手を取り、ゆっくりと歩く。
エツィオはとても気分が良いのか夜風が心地よく頬を撫でて、気持ち良さそうに目を細めた。
常にはない穏やかな空気が流れ、私はエツィオの腰を抱くと、ローマに構えた家ではなくわき道に逸れて小高い丘を目指した。

「今日は良い夜だな。二人で星見がてらもう少し飲むか」
「のむ?」
「実は1本ワインをくすねて来た。いい銘柄だったから私も飲みたくなってな」

丘に設置されているベンチに腰掛け、懐に忍ばせたワインの瓶を取り出す。
小気味いい音を夜空に響かせコルクを取ると、物欲しそうにエツィオがそれを眺めた。

「味見をしよう。品はないが、直のみで良いだろう。たまにはな」

先に一口ワインを口に含み、舌で転がす。
そこそこいい物で、調度良いワインの渋味と舌触りの良い液体がのどを潤した。

「良いワインだ」

エツィオにワインの瓶を渡すと、素直に手に取り私と同じように一口含んで味わうように口で転がすように飲み下す。
満足そうに鼻に抜けるような吐息を零し、瓶を手元でくゆらせる。
私はそっと彼との距離を詰めると、肩を抱きそのまま口づけた。

「ならず者にでもなった気分だろう?」
俺たちはならずものじゃないのか」
「まあな。だが、それにしては品が良いとよく言われる」

会話の合間に口づけを降らせていると、押し殺したような堪えきれない笑いが唇から伝わった。
本当に気分が良いらしく、常ならば形だけの拒否が入るのに、その気配もない。
彼を抱きしめてじゃれる様にワインを口移しで飲ませる。
白い衣装を薄赤く汚して、猫が毛繕いをするように互いの口元や顎髭を舐め合った。
軽い触れ合いは徐々に熱を帯び、艶を増していく。
常になく上機嫌なエツィオは見過ごせない体の熱に焦れたように私の背を叩き、自ら誘いの言葉を口にした。

「はやくお屋敷に行かないのですか?」
「そうだな。少々、肌寒くなってきたし、ベッドで温め合おう」

軽くリップ音を響かせて彼に口づけ立ち上がり、彼の腰を抱えて速足で屋敷へと向かう。
屋敷へと入り、扉を閉めると同時にエツィオを抱きすくめ、熱く甘い口づけの雨を降らせた。




カーテンの隙間から漏れ出る清廉な日差しに目を覚ます。
隣で私の肩を枕に眠るエツィオの顔を眺めて、昨夜を思い出す。
結構酔っていたために中々イケず辛そうだったが、その分長く楽しめた。
そして随分素直にお強請りする彼に、飛び切り甘く愛を囁いて受け入れて貰えたのがこの上なく嬉しかった。
幸せを噛み締め、この幸福な気持ちのまま一日を過ごしたいと思った私は、過去の飛び切り甘やかされた時を思い出していた。

眠る彼の体を抱き込み、そして顔中にキスをする。
むずがるような声を上げ、鬱陶しそうに顔を顰めて目を覚ます。
機嫌が良く微笑んで彼の唇に掠めるような口づけをし、おはようと挨拶をしたが、未だ夢現の彼は不思議そうに私を見つめていた。

「エツィオ、これは夢だ。夢だからいくら素直になっても大丈夫だ」
……ゆめ」


*************

②R酔

導師を酔い潰してやろうと酒を注いだ事は何度もある。
だが導師は未来の俺の為、俺の思惑などとうに知っており、思い通りになる事はない。
それは俺が過去の自分を連れ去って、青年が俺に対して何かを仕掛けようとするたび全部を防いで悔しがる様を楽しんでいることからも明白だった。
経験を積んだ者に経験の浅い若造が太刀打ちできる訳がない。ましてやその人生を先に歩んだ者に敵うものではないのだ。

しかし何の謀のない青年からの無邪気な勧めというのは最強だった。
心底から懐いている導師に青年が酒を勧める。半ば自棄に近いヤケクソな勧めを、何故だか青年に甘い導師は断らない。
俺が帰ってきたときには両者共に既に出来上がっており、命を懸けて任務を全うし心身ともに疲れ切って帰って来た俺の苦労など知らぬとどんちゃん騒ぎをしている。
また俺が帰った事にも気づかずに、二人して俺の愚痴を延々と垂れてるその言い草に米神の血管が怒りでピクピクと震えた。

「アイツってほんっとーにサイテーなんだ!俺のこともてあそんでじぶんばっかりすっきりして!ひどいよな!」
「わたしはあの子のことをホントウにあいしているのに、なんで素直にあいされてくれないのか本当はエツィオだってわたしのことをあいしているのに」
「俺もくやしいけど、アイツすき……
「そーか、わたしもすきだ」
「うぅっしゅきぐすっ」

泣き出した青年の頭をナデナデする導師を見届けてから、俺はそっと部屋を出た。
正直泣きたいのは俺の方だ。
面倒な時期に面倒な人間が、非常に面倒くさい理由で絡んでくるのだから。
そもそももうあの男に振り回されるのは真っ平御免だ。恋人のカテリーナの無事も分からぬまま、毎日を焦燥と共に過ごしてただでさえ消耗するというのに。
何故か人っ子一人いないテベル塔よりも、眠る狐亭にでも行ったものか、と考えながら出入り口の戸を開こうとした。
トンと僅かに開いた扉が閉じられる。
俺の背後から見覚えのある腕が伸びて扉とその腕に閉じ込められた。
僅かに顔を背後に向けると、酒臭い息を感じ、どれだけ飲んでいたのだと呆れた。

「エツィオ、すきだ。あいしている」

フード越しに項へと口づけられ、ドクリと心の臓が音を立てた。
ゆるりと抱きしめられて肩口に彼の頭が擦り付けられる。

「導師、エツィオはどうしたのですか」
「エツィオは、わたしのうでのなかにいるよ
はぁ、俺ではなく青年の方です」
「わたしのエツィオはおまえだけだ」

さわさわと不埒に這わされる掌を叩き落として、Uターンで導師と青年が飲んでいた部屋へと戻る。
導師は動き出した俺に抱き着いたまま引き摺られた。鬱陶しい。自分で歩け。

部屋にはワインの瓶を抱えた青年がソファに寝ころんで幸せそうに眠っていた。
ため息を吐いて導師を引きずったまま青年を抱き上げる。瞬間背中に張り付いていた導師が俺の首を締め上げる様に抱き着いてきた。

「そのこぞうばかりおまえは、わたしのものなのに」
「くっ絞め、殺す気かコレは上に寝かしに行くんだ。俺が運ぶのが気に食わないならアンタも手伝え!」

導師をきつく睨みつけて顔を向ければ、ジッと不機嫌に俺の顔を見つめていた導師が音を立てて口づけて来た。
一瞬心が浮つきかけたが、導師の酒臭さに一瞬で正気に戻り、思わず頭突きをかました。導師が顔面を抑えて踞る間にさっさと青年を上階へ運ぶ。
ベッドへと横たえて靴を脱がし、丁寧にアサシンローブを脱がせる。
すよすよと心地の良い息遣いを聞いて、仕様のないとため息を吐いた。

今朝方、任務に着いて行きたいと言い募る青年をきつく言い含めて置いてきたのだ。
酒でも飲んで悠々自適に過ごせばよかろうと、手近にあったあまり旨くないワインを放ってやったのだ。
そうやって俺にあしらわれた後、大層腹を立て、ならば言うとおりにしてやろうと、眠る狐亭から大量に良い酒を買い付けて(ほぼ貰ったようなものだが)テベル塔で飲み始めた。
そこへ丁度良く導師がやって来たものだから、自棄気味に酒を勧めて思うさま管を捲いたのだ。
明日は二日酔いに苦しむのだろうと青年の寝顔を見つめ、目蓋に掛かる前髪を払ってやる。

……好きだなどと、馬鹿を言ったものだ」
「そんなことはない。気付くのは遅くなったが、私はお前を常に求めていた」

虚しい呟きに答えが返り、しかしその言い草に腹が立った。
俺は、今嘗ての導師の心を追っているのだ。
この男が何を考え俺に触れていたのかを俺は知った。

ちっとも俺のことを見ていなかったくせに、俺のことなど常に煩わしいと思っていたくせに。
そして俺がこの子に応える事もない。
健気に俺に愛を乞うても、愛してやる事などできない青年を哀れに思い、そしてそれ以上の感情が湧くことはない。

「二度も馬鹿を見る気はない」
「それどころか、私は今、三度目の馬鹿を見ている

ギッと睨み返せば、男はドア枠に身を預けてどこか遠くを諦めたような眼差しで見つめていた。
嗚呼、本当に嫌になる。
何度だって裏切られる。

今でさえ、この男が見つめるのは俺じゃない。

「最低なのは理解している。お前を想い、同時に導師の事も想っている。だが可笑しいな。どちらも自分だ」
「はっ、もう俺は他人を愛せないとでも言いたいのか?」
「そうかもしれない。だが、そうではない」

ゆっくりと此方を振り返る導師は、青白い月明かりに照らされ、切な気に目を細めた。
真っ直ぐに寄越されるその視線を俺は避けた。どうしたって、導師に拒絶され最悪な別れをした過去が、俺にこの人を信じさせなくさせる。

「あんな別れをしたくなかった。だが、それは私が招いた結果だ。どうしたらいいか分からなかった」
「黙れ!俺を拒絶したくせに!アンタもあの男と一緒だ!」

気まずげに男が顔を顰める。そして

「ああ、くそっ知っている筈なのに、なぜ私はこうも間違うのだ

片手で顔を覆い、悔いたような声で独り言ちる。そして悔しそうに続けた。

「私がどうしようと、お前は私を信じない。信じられるはずがない。それも知っている」

静寂が落ちた。
男はもどかしそうな顔をして俺をまっすぐに見つめてくる。
嘗て見る事はなかった余裕のないその顔に目が離せない。


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