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四章終幕

全体公開 4618文字
2019-08-13 22:18:05

 目を閉じた時に、『彼』はこの黒い世界に四つの扉があることに気づいた。四つの扉には、それぞれこうあった。
 『己』の延命、『偽造』の愛、『再会』の時間、隣人の『笑顔』。所々かすれていたが、何とか読み解くことが出来た。
 彼は躊躇いながらも『偽造の愛』の扉を開けた。とてつもなく重たいそれを開けると、ヒューヒューと冷たい風が流れ込む。そして、彼を拒むようにドアノブから静電気が走る。
 どうやら彼は、作り物の愛にすら拒まれてしまうらしい。
 彼の手は思わずドアノブを離してしまったが、左足で扉がしまるのを食い止めた。身をよじらせて扉をくぐると、まずそこにあったのは『拍手』。次にステージ、続けてスクリーン、スポットライト、観客席。そして拍手。
 拍手。
 拍手拍手拍手。
 まばらな拍手を送る、同じ表情の顔。怒りもせず、悲しみもせず、にこりともせず、ただ無表情で拍手を送る顔達がずらりと並ぶ。ひとつ、ふたつ、みっつ……ざっと見て三十人程だろうか。
 「主催でも書き手でも主人公でもない脇役が、舞台挨拶にでも来たのか?」
 観客席の真ん中で、銀髪の男が問いかけた。彼はふと、背後にあるスクリーンを眺めた。
 そこに写し出されていたのは、更地同然の小さな町。そこに汽笛と共にやってくる、ブーケエクスプレス。
 ブーケエクスプレスでは、書き手が搭乗人物達に声をかけていた。
 
 『皆、文化祭の準備はばっちり?それじゃあ、いよいよ行くよ!』
 
 搭乗人物が拳を掲げ、きらびやかな衣装を身に纏った搭乗人物達が、町の人々をブーケエクスプレスに呼び寄せるのだ。
 
 「はろーレグルシアの皆!ブーケエクスプレスの文化祭、始まるよ!」
 
 書き手が宣言すると、彼は意識を失い、その場に倒れこんだ。
 
 


 リズットが部屋から出ると、ブーケエクスプレスはいつもより賑わっていた。レグルシアの人々は老若男女関係なく、搭乗人物達の文化祭を楽しんでいた。
 
 いつから文化祭が始まっていた?
 
 絵画展のワークショップは大盛況だったらしく、ワークショップが予定より早く定員になった。そのため絵画展チームは、ココアを飲んで休憩をとっていた。
 
🍎「プラネタリウム、まもなく第一部、開演だよ~!!」
 
 プラネタリウムはこれから上映とのことらしく、プラネタリウムのチームは呼び込みを始めていた。
 
 一方ファッションショーのチームは、ショーの前の衣装チェックをしていた。
 
周「この衣装を着てランウェイを歩くんですかぁ? 緊張するなぁ」
 
 一人衣装が後ろ前になりかけていたが、チームのメンバーは気にすることなく最終チェックを進めていた。
 それらの様子を呆然と見ていると、コンサートに使う衣装を抱えていた怤藍に声をかけられた。
 「リズットくんおはよう!このねぼすけさんめ!!プラネタリウムはじまっちゃうよ!」
 予想外のことを言われ、リズットは首を傾げる。
 「皆の朝御飯が終わった後、『頭が痛いから、プラネタリウムが始まるまで休んでおく』ってこっそりあたしに言ってきたでしょ!」
 怤藍はそういうが、リズットはそのことを全く覚えていなかった。
 「……もしかして、まだ頭痛い?他の三人に言っておこうか?」
 心配そうに怤藍が提案するが、リズットは首を横に振った。
 「じゃあ、無理しないでね?」
 怤藍にそう言われたリズットは、一礼した後にプラネタリウムチームに合流しようとした。
 「待ってリズットくん!」
 何かを思い出したかのように、怤藍がそれを呼び止める。
 「何ですか」
 リズットが立ち止まって振り向いた。
 「リズットくん、変なこと聞いてもいい?」
 「どうぞ」
 どことなく違和感を感じながら、承諾した。
 「リズットくん。今日リズットくんが出してくれた朝御飯のメニュー、覚えてる?」
 怤藍が不安そうにそう質問した。
 予想外の質問に、リズットはさも当然のように「トマトと生ハムのパニーニに、カボチャのポタージュとシリアルですよね」と答えた。しかし。
 
 「……違うよ」
 
 リズットの答えは、不正解だったらしい。
 
 「今日出してくれたのは、エビとアボカドのサンドイッチと、コーンスープと、フルーツサラダだよ
 
  怤藍がそう言い残してラウンジに向かうのを、リズットは無言で見送っていた。
 


 文化祭はその後も、問題なくとり行われたようだった。
 🍎「ほへぇ~、みんなすごいねぇ~!!」
 🐤『ブンカサイトカイウノハタノシイモノナンヤナ!!』
 きらびやかなファッションショー。心踊るコンサート。神秘的な絵画展に、幻想的なプラネタリウム。
冬真「すごーい!!きれー!!!」
 皆が皆、とても楽しそうだった。
 
八重「〜〜♪〜〜♪ 今日は来てくれてありがとうー!楽しんでいってね!」
パピヨン「すごいすごい!こういうのって素敵!みんなと協力するっていうのがとっても素敵!」
イヴァン「へぇ、皆凄いな……。こういうイベント事とは無縁の生活だったから新鮮で楽しいね」
 🐤『プラネタリウムキテヤ!!コナイトツツクデ!!』
 🍎「アヒルチャンそれ脅迫だよ~その宣伝はやめとこ?」
 イヴァン「プラネタリウムかぁ……地元は星が凄く綺麗に見える所でね、なんだか懐かしいなぁ」
 パピヨン 「皆さんも是非おいでになって!みんなとっても可愛らしいの!私とっても嬉しくて!今度女子会するのよ!あ、ええとお待ちしていますわ!」
八重「プラネタリウム見たいなー( '༥' )ŧ‹”ŧ‹”」
🍎「プラネタリウム!!!!!!!!おいで!!!!!!!!楽しいよ!!!!!!!!おいで!!!!!!!!」
🐤『オチツケ』
 
 楽しい時間は、そろそろ終わりに近づいてきた。日が暮れて、レグルシア駅に夜がやってくる。レグルシアの人々は、意気揚々と帰っていく。
 だが、搭乗人物達にとってここからが本番である。
 満天の星空の下、ガラス張りの展望車の中央に、全員のランタンを集めて置く。まるでキャンプファイヤーをはじめるような感覚。全員がドレスローブを着た姿で、ランタンを囲んで円になる。
 
 「さぁ!おまちかねの後夜祭!ブーケエクスプレスのダンスパーティーだよ!」
 
 怤藍が搭乗人物達に号令をかける。
 「とりあえず最初はなんか二~三人のペアで踊ろうと思う!うん!というわけで、これをきっかけにお近づきになりたい人とペアを組んで!なんかそれっぽく踊ってね!」
 
 とんでもなく雑な説明だが、搭乗人物達はなんだかんだで、言われるがままダンスのペアを探すことにした。
 
希更「誰と踊ろっかな……?」
冬真「しゃる、うぃー、だんす?」
常磐「あはは、みんな綺麗だね。とっても似合ってる」
冬真「イヴァンおにーさん!常盤おにーさん!!」
常磐「ん?冬真くんか。こんばんは。ダンス、かっこよくエスコートしておいで(ひらひらと手を振って)」
八重「え、と。イヴァンさん、良ければ一緒に踊りませんか」
イヴァン「おや、二人ともありがたいね。ぜひ、ご同伴お願いしたいな」
八重「……!ありがとうございます。ダンスとかやったことないので、下手なのは気にしないでくださいね」
怤藍「ところで、そこで一人たそがれてるリズットくんと踊りたい人いない?」
パピヨン「あらあら、素敵。……リズ!!!!一緒に踊らない……?私ね、あなたと踊りたいの!……駄目かしら、」
リズット「(目を丸くして)………えぇ。喜んで(パピヨン様の手をとる)」
 「え、いいの!?!リズどうしたの!?!?風邪!?!?!?!??!風邪かしら、熱は無いみたいだけど……
リズット「ほんとに嫌なら手をとったりはしませんよ」
パピヨン「う、うん。うん、リズ、ありがとう、お友達とこんな風にできるなんて素敵、素敵ねぇ、ありがとう、素敵だわ、初めて知った。」
怤藍「あ!あとね!希更ちゃんいる?いたら踊ろう!いなかったら虚無と踊る!!!(?)」
希更「もちろんいるよ!虚無と踊らないで〜;;;;」
怤藍「やった!!ありがとう!!」
パピヨン 「良いわよね、お友達だものね!!任せて私男性パートも踊れるのよ!!……あ、ふらんちゃん!!!!あのね、ふらんちゃんも!お友達だもの」
怤藍「いいよ!じゃあリズットくんの次に踊ろっか!」
冬真「ふらんさん!ぼくと踊りませんか?」
怤藍「あたし?!いいよ!踊ろっか!(冬真様の手をとる)」
🍎「うーん、誰誘えばいいんだろ」
🐤『サァナァ……
冬真「みんなと仲良く、くるくるおどってたのしいです!!」
怤藍「わかる。ねっ!リズットくん」
リズット「そうですね」
 
 「ペア決まった?いくよー」
 怤藍が合図を送ると、ランタンが一斉に明かりをともした。そして、どこかからピアノの音楽が流れてきた。おそらく、ラウンジからのものだろう。
 音楽にあわせて、たどたどしくもダンスを踊る搭乗人物達。
 ステップを間違えても、誰かとぶつかっても、皆とても楽しそうだった。
 
 この時おそらく、大半がこう思っただろう。
 
 楽しいな。こんなに楽しいの、もしかしたら初めてかもしれない。このまま、楽しいことがずっと続けばいいのに。
 ずっとずっと、終わることなく続けばいいのに。
 
 それなのに、どうしてこの『タイムリミット』は、それを許してくれないんだろうか。
 
 


 ダンスパーティーが終わった後、怤藍は全員を談話室に呼んだ。リズットがホットミルクを淹れて配るのを眺めながら、怤藍は全員に告げた。
 「今日は皆、お疲れ様!ほんとに楽しかったよ、ありがとう」
 怤藍が深々と頭をさげる。
 「皆様のご協力、本当にありがとうございました。わたくしも、初の体験で少し充実した1日を過ごせた気持ちで、いっぱいです」
 ホットミルクを配り終えたリズットも、怤藍の隣に立って頭をさげた。
 二人揃って顔をあげると、リズットが何やらもの言いたげな表情をした。しかしリズットは、例によって静かに首を横に振った。
 何かを察した怤藍は、咳払いすると面々に向き直る。
 「今日はお疲れだから、これでお開き。でね、明日なんだけど、皆に聞いて欲しい話があるんだ。よかったら、聞いてくれるかな?」
 怤藍が問うと、リズットは目を丸くした。
 「とても大事な話なんだ。皆のこれからに関わる、大事な話」
 
 「大丈夫誰も傷つかない、優しい話だから」
 怤藍が笑いかけると、リズットは少し険しい顔をした。
 
 「(あなたの大丈夫は、自分への戒めにしか聞こえない)」
 
 そんなことを思いながら、リズットはまた、静かに首を横に振った。
 


 ジッ
 ジジッジーッ……
 …………………………
 
 カウントダウン5秒前。
 
 5、4、3、2、1。
 
 ぐしゃり。
 
 ……………
 
 銀髪の男は、舞台越しに『それ』をみていた。
 
 「随分と大盛況だったようだがお前らのくだらん御遊戯はもううんざりだ」
 
 ニタリと笑う彼の手には、枯れたネリネの花が握られていた。


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