@875108Express_
目を閉じた時に、『彼』はこの黒い世界に四つの扉があることに気づいた。四つの扉には、それぞれこうあった。
『己』の延命、『偽造』の愛、『再会』の時間、隣人の『笑顔』。所々かすれていたが、何とか読み解くことが出来た。
彼は躊躇いながらも『偽造の愛』の扉を開けた。とてつもなく重たいそれを開けると、ヒューヒューと冷たい風が流れ込む。そして、彼を拒むようにドアノブから静電気が走る。
どうやら彼は、作り物の愛にすら拒まれてしまうらしい。
彼の手は思わずドアノブを離してしまったが、左足で扉がしまるのを食い止めた。身をよじらせて扉をくぐると、まずそこにあったのは『拍手』。次にステージ、続けてスクリーン、スポットライト、観客席。そして拍手。
拍手。
拍手拍手拍手。
まばらな拍手を送る、同じ表情の顔。怒りもせず、悲しみもせず、にこりともせず、ただ無表情で拍手を送る顔達がずらりと並ぶ。ひとつ、ふたつ、みっつ……ざっと見て三十人程だろうか。
「主催でも書き手でも主人公でもない脇役が、舞台挨拶にでも来たのか?」
観客席の真ん中で、銀髪の男が問いかけた。彼はふと、背後にあるスクリーンを眺めた。
そこに写し出されていたのは、更地同然の小さな町。そこに汽笛と共にやってくる、ブーケエクスプレス。
ブーケエクスプレスでは、書き手が搭乗人物達に声をかけていた。
『皆、文化祭の準備はばっちり?それじゃあ、いよいよ行くよ!』
搭乗人物が拳を掲げ、きらびやかな衣装を身に纏った搭乗人物達が、町の人々をブーケエクスプレスに呼び寄せるのだ。
「はろーレグルシアの皆!ブーケエクスプレスの文化祭、始まるよ!」
書き手が宣言すると、彼は意識を失い、その場に倒れこんだ。
リズットが部屋から出ると、ブーケエクスプレスはいつもより賑わっていた。レグルシアの人々は老若男女関係なく、搭乗人物達の文化祭を楽しんでいた。
…いつから文化祭が始まっていた?
絵画展のワークショップは大盛況だったらしく、ワークショップが予定より早く定員になった。そのため絵画展チームは、ココアを飲んで休憩をとっていた。
🍎「プラネタリウム、まもなく第一部、開演だよ~!!」
プラネタリウムはこれから上映とのことらしく、プラネタリウムのチームは呼び込みを始めていた。
一方ファッションショーのチームは、ショーの前の衣装チェックをしていた。
周「この衣装を着てランウェイを歩くんですかぁ? …緊張するなぁ」
一人衣装が後ろ前になりかけていたが、チームのメンバーは気にすることなく最終チェックを進めていた。
それらの様子を呆然と見ていると、コンサートに使う衣装を抱えていた怤藍に声をかけられた。
「リズットくんおはよう!このねぼすけさんめ!!プラネタリウムはじまっちゃうよ!」
予想外のことを言われ、リズットは首を傾げる。
「皆の朝御飯が終わった後、『頭が痛いから、プラネタリウムが始まるまで休んでおく』ってこっそりあたしに言ってきたでしょ!」
怤藍はそういうが、リズットはそのことを全く覚えていなかった。
「……もしかして、まだ頭痛い?他の三人に言っておこうか?」
心配そうに怤藍が提案するが、リズットは首を横に振った。
「じゃあ、無理しないでね?」
怤藍にそう言われたリズットは、一礼した後にプラネタリウムチームに合流しようとした。
「待ってリズットくん!」
何かを思い出したかのように、怤藍がそれを呼び止める。
「…何ですか」
リズットが立ち止まって振り向いた。
「リズットくん、変なこと聞いてもいい?」
「…どうぞ」
どことなく違和感を感じながら、承諾した。
「…リズットくん。今日リズットくんが出してくれた朝御飯のメニュー、覚えてる?」
怤藍が不安そうにそう質問した。
予想外の質問に、リズットはさも当然のように「トマトと生ハムのパニーニに、カボチャのポタージュとシリアルですよね」と答えた。しかし。
「……違うよ」
リズットの答えは、不正解だったらしい。
「今日出してくれたのは、エビとアボカドのサンドイッチと、コーンスープと、フルーツサラダだよ…」
怤藍がそう言い残してラウンジに向かうのを、リズットは無言で見送っていた。
文化祭はその後も、問題なくとり行われたようだった。
🍎「ほへぇ~、みんなすごいねぇ~!!」
🐤『ブンカサイトカイウノハタノシイモノナンヤナ!!』
きらびやかなファッションショー。心踊るコンサート。神秘的な絵画展に、幻想的なプラネタリウム。
冬真「すごーい!!きれー!!!」
皆が皆、とても楽しそうだった。
八重「〜〜♪〜〜♪ 今日は来てくれてありがとうー!楽しんでいってね!」
パピヨン「すごいすごい!こういうのって素敵!みんなと協力するっていうのがとっても素敵!」
イヴァン「へぇ、皆凄いな……。こういうイベント事とは無縁の生活だったから新鮮で楽しいね」
🐤『プラネタリウムキテヤ!!コナイトツツクデ!!』
🍎「アヒルチャンそれ脅迫だよ~その宣伝はやめとこ?」
イヴァン「プラネタリウムかぁ……地元は星が凄く綺麗に見える所でね、なんだか懐かしいなぁ」
パピヨン 「皆さんも是非おいでになって!みんなとっても可愛らしいの!私とっても嬉しくて!今度女子会するのよ!あ、ええとお待ちしていますわ!」
八重「プラネタリウム見たいなー( '༥' )ŧ‹”ŧ‹”」
🍎「プラネタリウム!!!!!!!!おいで!!!!!!!!楽しいよ!!!!!!!!おいで!!!!!!!!」
🐤『オチツケ』
楽しい時間は、そろそろ終わりに近づいてきた。日が暮れて、レグルシア駅に夜がやってくる。レグルシアの人々は、意気揚々と帰っていく。
だが、搭乗人物達にとってここからが本番である。
満天の星空の下、ガラス張りの展望車の中央に、全員のランタンを集めて置く。まるでキャンプファイヤーをはじめるような感覚。全員がドレスローブを着た姿で、ランタンを囲んで円になる。
「さぁ!おまちかねの後夜祭!ブーケエクスプレスのダンスパーティーだよ!」
怤藍が搭乗人物達に号令をかける。
「とりあえず最初はなんか…二~三人のペアで踊ろうと思う!うん!というわけで、これをきっかけにお近づきになりたい人とペアを組んで!なんかそれっぽく踊ってね!」
とんでもなく雑な説明だが、搭乗人物達はなんだかんだで、言われるがままダンスのペアを探すことにした。
希更「誰と踊ろっかな……?」
冬真「しゃる、うぃー、だんす?」
常磐「あはは、みんな綺麗だね。とっても似合ってる」
冬真「イヴァンおにーさん!常盤おにーさん!!」
常磐「ん?冬真くんか。こんばんは。ダンス、かっこよくエスコートしておいで(ひらひらと手を振って)」
八重「え、と。イヴァンさん、良ければ一緒に踊りませんか」
イヴァン「おや、二人ともありがたいね。ぜひ、ご同伴お願いしたいな」
八重「……!ありがとうございます。ダンスとかやったことないので、下手なのは気にしないでくださいね」
怤藍「ところで、そこで一人たそがれてるリズットくんと踊りたい人いない?」
パピヨン「あらあら、素敵。……リズ!!!!一緒に踊らない……?私ね、あなたと踊りたいの!……駄目かしら、」
リズット「(目を丸くして)………えぇ。喜んで(パピヨン様の手をとる)」
「え、いいの!?!リズどうしたの!?!?風邪!?!?!?!??!風邪かしら、熱は無いみたいだけど……」
リズット「…ほんとに嫌なら手をとったりはしませんよ」
パピヨン「う、うん。うん、リズ、ありがとう、お友達とこんな風にできるなんて素敵、素敵ねぇ、ありがとう、素敵だわ、初めて知った。」
怤藍「あ!あとね!希更ちゃんいる?いたら踊ろう!いなかったら虚無と踊る!!!(?)」
希更「もちろんいるよ!虚無と踊らないで〜;;;;」
怤藍「やった!!ありがとう!!」
パピヨン 「良いわよね、お友達だものね!!任せて私男性パートも踊れるのよ!!……あ、ふらんちゃん!!!!あのね、ふらんちゃんも!お友達だもの」
怤藍「いいよ!じゃあリズットくんの次に踊ろっか!」
冬真「ふらんさん!ぼくと踊りませんか?」
怤藍「あたし?!いいよ!踊ろっか!(冬真様の手をとる)」
🍎「うーん、誰誘えばいいんだろ」
🐤『サァナァ……』
冬真「みんなと仲良く、くるくるおどってたのしいです!!」
怤藍「わかる。ねっ!リズットくん」
リズット「…そうですね」
「ペア決まった?いくよー」
怤藍が合図を送ると、ランタンが一斉に明かりをともした。そして、どこかからピアノの音楽が流れてきた。おそらく、ラウンジからのものだろう。
音楽にあわせて、たどたどしくもダンスを踊る搭乗人物達。
ステップを間違えても、誰かとぶつかっても、皆とても楽しそうだった。
この時おそらく、大半がこう思っただろう。
楽しいな。こんなに楽しいの、もしかしたら初めてかもしれない。このまま、楽しいことがずっと続けばいいのに。
ずっとずっと、終わることなく続けばいいのに。
それなのに、どうしてこの『タイムリミット』は、それを許してくれないんだろうか。
ダンスパーティーが終わった後、怤藍は全員を談話室に呼んだ。リズットがホットミルクを淹れて配るのを眺めながら、怤藍は全員に告げた。
「今日は皆、お疲れ様!ほんとに楽しかったよ、ありがとう」
怤藍が深々と頭をさげる。
「…皆様のご協力、本当にありがとうございました。わたくしも、初の体験で少し…充実した1日を過ごせた気持ちで、いっぱいです」
ホットミルクを配り終えたリズットも、怤藍の隣に立って頭をさげた。
二人揃って顔をあげると、リズットが何やらもの言いたげな表情をした。しかしリズットは、例によって静かに首を横に振った。
何かを察した怤藍は、咳払いすると面々に向き直る。
「今日はお疲れだから、これでお開き。…でね、明日なんだけど、皆に聞いて欲しい話があるんだ。よかったら、聞いてくれるかな…?」
怤藍が問うと、リズットは目を丸くした。
「とても…大事な話なんだ。皆のこれからに関わる、大事な話」
「大丈夫…誰も傷つかない、優しい話だから」
怤藍が笑いかけると、リズットは少し険しい顔をした。
「(あなたの大丈夫は、自分への戒めにしか聞こえない)」
そんなことを思いながら、リズットはまた、静かに首を横に振った。
ジッ…。
ジジッ…ジーッ……。
…………………………。
カウントダウン5秒前。
5、4、3、2、1。
ぐしゃり。
……………。
銀髪の男は、舞台越しに『それ』をみていた。
「随分と大盛況だったようだが…お前らのくだらん御遊戯はもううんざりだ」
ニタリと笑う彼の手には、枯れたネリネの花が握られていた。