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血染めの牡丹雪〜恋の栞 Part.13〜

Posted by @natsu_luv
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2019-08-19 00:12:40

私のかつて愛した人、たくさんの傷跡。
どれも忘れたくないものばかり。
武者司書ラブストーリー、第13話。
※捏造設定注意!※

うだるような暑さが毎日のように私達を襲う。
真っ赤な太陽が眩い光を大地に降らせ、歩く道と人々を熱している。
図書館にいる文豪たちも、涼しい部屋で日々を過ごしていることが多い。
相変わらず私は特務司書として、浄化作業に明け暮れていた。
この日は久しぶりに帝國図書館の館長が訪れていた。
午前の仕事がひと通り終わったので、館長室を訪ねた。

「館長、失礼致します」
「桐島くん、待っていたよ」
「葉月先生!」
「中島くん! どうしてここに……?」

館長の向かいに座っていたのは、私のかつての教え子だった。
彼の名は中島祐輔、現在は桜川大学教育学部に在籍している。
中島くんは真っ黒なB5のノートを手にして、私に経緯を説明し始めた。

「これ、真雪の日記なんです。俺があいつの形見として持ってたんですけど、ある日突然真っ黒になってて……
「日記が侵蝕されるというケースか……
「はい、中身もほとんど読めません」

真雪くんこと冬馬真雪は、私のかつて愛した子。
中島くんは彼の親友で、武者くんにとっての志賀くんのような存在だ。
日記は表紙まで禍々しい黒に染まっていて、侵蝕の酷さが手に取るようにわかる。

「このままだと、この日記自体が無かったことになってしまうわ。何とかしないと……
「人は二度死ぬって言いますし、俺はあいつを二度も死なせたくないんです」

中島くんがこちらを見据えて、強く訴えかけた。
私も想いは同じだった。
真雪くんとの恋路は決して平凡なものではなかった。
たくさんの傷を負ったけれど、私にとっては忘れたくないものばかり。
私は館長から有碍書を受け取り、司書室へ戻った。
第一会派と有島さん、多喜二くん、直くん、重治さんを呼び寄せ、今回の有碍書の浄化をお願いした。

「この本は私の教え子の日記なの。忘れ去られてはいけない、形見でもあるの」
「かしこまりました! 僕らに任せてください」
「忘れ去られるのは辛いことだからね。僕も頑張るよ」
「ありがとう。あなた達なら出来ると信じてるわ」

忘れ去られることは辛いこと、高村先生の言葉が心に響いた。
私は第一会派のメンバー全員に賢者の石入りの巾着袋を渡した。
モニタリングは重治さん、有島さん、多喜二くん、直くんは控えの要員になってもらうようにお願いした。
今回の有碍書も一筋縄ではいかないだろう。
私は皆の無事を祈りながら、潜書へ向かう背中を送り出した。



モニター越しに見える有碍書の世界は、何処か灰色がかった雪景色だった。
遠くの方に校舎のような建物が見える。
第一会派は校舎の方へと足を進めていた。
降り積もった雪から、踊り子のような侵蝕者が姿を現した。
ちらつく雪のような舞を見せながら、第一会派を襲ってくる。

「そこ、どいてくれない?」
「先を急いでいるからね」

高村先生の放った弾丸が新雪の上に線状痕を創り出した。
荷風先生の弓矢も真っ直ぐに放たれ、雪の踊り子たちの舞を終焉へと導いていく。
さらに、志賀くんと武者くんが剣の舞で踊り子たちを圧倒していく。
踊り子たちを薙ぎ払い、第一会派は校舎の中へと駆け込んでいった。

「侵蝕者の親玉は何処なんだ?」
「志賀、校舎の中なのに雪が降ってるよ」
「これは……雪なのかな?」
「血のように赤い色をしているね」

おかしなところは建物の中に降る雪だけではなかった。
校舎の中なのに教室らしい部屋がなく、長い廊下だけが続いている。
何処かからピアノの旋律が流れてきている。
奏でられる音色は哀愁を帯びたものだった。
武者くんが耳をすませている。
どうやら、前方から聞こえてきているようだ。
第一会派は侵蝕者の群れを退けながら、廊下を走り抜けていった。
私はモニター越しに摩訶不思議な雪景色と校舎、戦いに身を投じる第一会派の様子を眺めていた。

「ねぇ、重治さん。武者くんが初めて図書館に来た日のこと、覚えてる?」
「あぁ、覚えてるよ。武者さんが司書さんのかつての恋人にそっくりだって僕に打ち明けてくれたんだよね」
「えぇ、そうね。もしかして、今回の侵蝕者の親玉は……

あの子かもしれない。
嫌な予感で心の中がざわついている。
先程から聞こえてくるピアノの旋律は、あの子がよく弾いていた楽曲のものだ。
長い廊下の先に小さな部屋があった。
中心にクラシックピアノだけが置かれた真っ白な部屋だった。
仮面を付けた少年が旋律を奏でている。
音色がピタリと鳴り止んだ。
第一会派がやって来たことに気付いたのだろう。

「お待ちしてましたよ。武者小路先生……
「あっ、あなたは一体……?」

少年は武者くんの方へと歩み寄り、自ら仮面を外した。
仮面の下の素顔が暴かれた瞬間、私の心臓は凍りつきそうになった。
モニター越しの光景に目を疑いそうになる。
けれど、モニターは残酷なほどに真実を映し出していた。



侵蝕者の親玉は真雪くんによく似ていた。
白銀の髪と赤と黒のオッドアイ、血の気のない肌以外は真雪くんそのものだ。
彼と対峙した武者くんは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
一歩後ろにいた志賀くんも青ざめた表情で侵蝕者を凝視している。

「僕は葉月さんのかつての恋人です」
「えっ、僕とそっくりだ……

武者くんは私が特務司書になる前に教え子と交際していたということしか知らない。
私のかつての恋人が自分にそっくりだという事実を突きつけられた武者くんは、戸惑いながらも剣を構えていた。
侵蝕者も武者くんが持っているものと似たような剣を創り出した。
血のように赤い雪がちらつき始めた。
ふたりの戦いの幕が上がる。
侵蝕者が剣を振りかざし、血染めの雪をふぶかせた。
武者くんは剣撃をひとつひとつ受け止め、自らも真朱の旋風を巻き起こす。

「僕はあなたを許せない……! 僕だって、葉月さんと幸せな日々を過ごしていきたかった……!」
「やめてください!」
「武者、援護するぜ……うわぁぁっ!」
「僕の相手は武者小路先生だけです。あなた達はお呼びじゃない」
「何だって……!」

侵蝕者は紅い氷で志賀くんの足元を固めてしまった。
高村先生と荷風先生に至っては、足だけでなく腕まで封じられている。
侵蝕者が大きく手を振りかざした。
天井から氷柱が現れ、武者くんの頭上に降り注いだ。
武者くんは地面に磔にされてしまった。

「くっ……! 痛い……!」
「苦しんでください。死の苦しみを味わってください!」
「嫌だ、僕は死にたくない!」
「許せない! どうして……僕にそっくりな姿で生まれてきたの?」

侵蝕者は武者くんに跨り、剣を地面に突き刺した。
侵蝕者の瞳から紅い涙が溢れている。
志半ばで死んでしまったことへの悔しさや悲しみ、自分とそっくりな武者くんが幸せそうに生きていることへの嫉妬心が滲み出ていた。

「あなたの深い悲しみは僕にも伝わっています。ただ、僕を殺したら司書さん……葉月さんが悲しみます!」
「葉月さん……!」

侵蝕者の動きが止まった。
志賀くんたちを封じていた氷が溶け出した。
武者くんも氷から解放されて、地面から起き上がった。
再び剣を取り、侵蝕者へと力強い斬撃をお見舞いしてみせた。
志賀くんも武者くんの方へと駆け寄り、若緑の疾風を繰り出して援護した。

「これでとどめだ!」
「どうか、あなたの世界へ還ってください……!」
「僕は……まだ……うわぁぁっ!」

白樺の妖精騎士たちが織り成す剣の舞踊に侵蝕者が屈服した。
膝から崩れ落ち、姿がだんだん透明になっていく。
死にたくない、死にたくないと呟きながら、真っ白な雪の中へと消えていった。
するとその時、モニターの画面が急に真っ白になった。



ホワイトアウトでも起きたのだろうか。
第一会派の姿も有碍書の中の景色も何もかも見えない。
強制帰還させようとしたその時、真っ白なもやが一気に晴れた。
その中からひとりの少年が現れた。
黒紅の髪と瞳を持つ、可愛らしい少年--在りし日の真雪くんだった。

「武者小路先生、あなたが葉月さんの新しい恋人ですよね」
「あっ、はい……

真雪くんは満身創痍の武者くんの元へと歩み寄っていった。
武者くんの前にしゃがみ込み、何処か儚げな声色で語りかけた。

「葉月さんのこと、大切にしてあげてくださいね。僕の分まで幸せになってください」
「はい、必ず幸せになってみせます……!」
「ありがとう。やっと伝えられた……

真雪くんは白い牡丹雪となって消えていった。
その光景を見届けていた武者くんは地面に倒れ込んだ。
視界が滲んで、モニターが見えない。
私の双眸に土砂降りの雨が降っていた。
しばらくして、第一会派が有碍書の世界から戻ってきた。
傷付いてぼろぼろの武者くんは、志賀くんに補修室へと担がれていった。

武者くんが治療を受けている間、私と重治さんは館長室を訪れた。
真雪くんの日記は元通りになっており、内容もきちんと読めるようになった。
中島くんは安堵の涙を流しながら、館長と私達に感謝の言葉を述べた。

「本当にありがとうございました。真雪のことが忘れ去られなくて良かった……
「中島くん、この日記は君にお返ししよう。本文のデータは既に取らせて頂いた」
「はい……
「葉月先生、中野さん、今度は開架図書エリアの方に伺いますね」
「ええ、待ってるわね」
「じゃあね」

中島くんは深くお辞儀をして、図書館を後にした。
私と重治さんは補修室の方へと足を運んだ。
扉を開けると、目を覚まして志賀くんたちとお話ししている武者くんの姿があった。
私は武者くんの方へと駆け寄り、そっと抱き締めた。

「武者くん……。無事で良かった……
「司書さん……
「ごめんなさい。真雪くんがあなたにそっくりだったこと……ずっと黙ってて……
「構いません。これからもあなたと共にいさせてください……

誓いの糸を結ぶように、私達は身体を強く抱き締め合った。
私達、ちゃんと幸せになろう。
それが真雪くんの願いであるとわかったから。
この図書館で古い傷跡と新しい仲間たちと、時が分かつまで共に生きていこう。


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