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蝉の声

全体公開 その他色々二次創作 1337文字
2019-08-22 20:44:03

雷堂と夏

Posted by @syuu_29

雷堂と瓜二つの男はやはり同じように無口で、もちろん並んだところで会話が弾むということはなかった。弾む必要もないが、かといって何か居心地が悪いということでもない。もとより名もなき神社の裏山である。二人とも口を閉ざせば、まるで人などいないように静まりかえった。
その糸を張ったような緊張感と清廉さを、もう一人の自分はあっさりと破った。
「雷堂」
傷のない自分が表情一つ変えずに呼ぶので、雷堂は知らず落ちていた視線をあげた。それでつま先から学帽の鍔まで確認することになったが、最初に相見えた時と違うのは互いの制服が夏のものとなったことだけだった。半袖の白いシャツがちらちら差し込む陽射しで眩しく、外套で隠れていた装備品が互いに一つ残らずよく見える。その装備さえ瓜二つ。封魔管の中に封じた仲魔は異なるはずだが、目に見えてわかるものではない。再三確認したところで、二人の区別をつけるのは雷堂の顔にだけ残る傷跡と、目元に深く影を落とす帽子の鍔のわずかな切れ目以上にはなかった。
だから木漏れ日の中でさえ、向き直られると鏡を見るようで、雷堂は戸惑いに脳が鈍るのを感じた。だがそれは一方的なものでもない。傷一つない顔のほうも視線がかち合った瞬間に瞬き、言葉なく横を向いた。混乱を避けるように。そしてもう一人の自分が隣へやってくるのを待つと、側を流れる小川に屈み込んだ。
「何かあったか」
頷かれるのに促され、雷堂も小川を覗き込む。
澄んだ水はゆるやかに流れているが、水底に何か輝いているのが見えた。揺れる水面に映り込む二人の面差しの奥、蛍のように輝く緑の色はマグネタイトの色に見えた。
「ほう」
雷堂が思わず声をあげれば、傷のない指先が音もなく躊躇なく小川に浸かった。水面に揺れる二人分のおぼろげな像が歪む。そうすると学帽姿はまるで一人ぶんにも見えた。 白いシャツどころか明確に区別のつく傷跡という印さえうつろで境界は曖昧さにまるでわからなくなってしまう。むず痒いような、妙な居心地の悪さがあった。
だがもう一人の自分の指先が緑の光を探るのを見つめながら、雷堂はふいに気づいた。
音がしないのだった。なにひとつ。
名もなき神社といえど、夏である。昼間であれば蝉の鳴き声ぐらいは聞こえる。
雷堂は瞬きよりも早く赤光葛葉の柄を掴み、鞘から刀身を引き出しながら隣へ切りつけた。咄嗟の受け身さえとらない姿とちぐはぐに、確かな手応えがあった。かちりと刃が咬みあうのがわかる。
影のように瓜二つのシルエットが歪む。途端に、音が戻ってきた。
一斉に鳴き始める蝉の鳴き声に瞬き、後ろへ跳ぶ。目付役の叱責が二人分飛んできた。
『雷堂!』『ライドウ!』
まるで同じ声だ。だが雷堂はどちらが自分の目付役であるのかわかった。まるで糸で引かれるようにそちらを向く。
足元は欠けず手入れされた石畳で、小川などどこにもない。見慣れた神社の境内である。
刀を構え直したところで、そこにはもう誰もいなかった。もう一人の自分も、その目付役もいない。自分と、そこへ駆け寄る黒猫の肉体だけだった。
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お友達にもらったお題に「蝉の声」というのもあってぼんやりと書きたいなーと思っていたが思っていたのとだいぶ違う着地をしてしまった


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