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誰の文でしょうゲーム by新矢

@sin_niya_b
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2019-09-12 23:52:09

 昔、この世界には天気予報というものがあった。降水確率が何パーセントだとか、予想最高気温がどうとか、そういう内容のニュースを国民がこぞって見ていたという。確証のない情報を頼りに予定を組まなければならない彼らはどれほど苦労したか、想像に難くない。
 それよりもう少し時代が下がると、天気は晴天に固定されていた。日照時間が長い方が人間の精神は安定すると考えられており、必要な場所――農地だとか――にだけ適度な雨や雪を降らせ、居住区は気温の調整が必要な時以外は晴天に固定したところ、十年と経たないうちに人々は狂い始めた。清々しい青空の下である学校の生徒が全員殺されたのをきっかけに、晴天固定は解除された。
 今では天気はきっちり管理されているもので、雨が降る時間も、一日の気温も、事前に決まっている。人々は滞りなく日々を過ごしていて、晴天に狂わされる人間は減った。だがそれでも時折狂う人間は現れ、キハレは日々対応に追われている。
 気象庁機動晴天対策部(ルビ:きどうせいてんたいさくぶ)、通称“キハレ”。晴天が原因で狂ってしまった人間による事件に対応する部署である。


 ――ごく平年並みの気温、薄曇りの秋の昼下がりであった。
「N市より出動要請。機動晴天対策部、向かって下さい。詳細は移動中に」
「了解、三班向かいます」
 丁度車での警邏中であったキハレが、交差点でハンドルを切った。運転席には若い女、助手席には壮年の男が座っている。無線に返事をしたのは女の方で、茶色がかった黒髪をボブにした少し気の強そうな面差しの女である。一方男はぼんやりとした表情で窓の外を眺めていて、かけている眼鏡と線の細い体つきがあいまってどうにもデスクワーカー然としていた。
「佐藤さん、安全運転で頼むねえ」
「当たり前でしょう。まあちょっと急ぎはしますけど。加藤さんこそ寝ないで下さいよ」
「はいはい」
 答えた端から助手席で眠たげにあくびをした男に、女は呆れたように溜め息を吐いた。

  *  *  *

 そして目的地に到着した二人は、雲ひとつなく晴れ渡る空に眩しげに――あるいは憂鬱げに――目を細めた。本来この地域の天気は雨に設定されていた。この晴天は異常であり、すなわちここにはハレビトがいる。……“ハレビト”と呼称されるそれは、晴天固定期以降に出現するようになった、晴天に狂わされた人間である。彼らは人間の範疇を超えた力に目覚め、周囲を晴天にし、負の感情を爆発させて周囲に甚大な被害を出す。ただ「晴れていたので」という理由で人を殺す。彼らには普通の人間では対応出来ないため、キハレが生まれた。
「そこから東に二ブロック進んで、北方向に通りを入ったところにハレビトの反応があります」
「了解」
 オペレーターの指示に従って移動した先には工事中の空き地があった。既に周囲は封鎖されており、民間人は避難させられている筈である。女が表情を引き締めながら右手を前に差し伸べると、その手が触れた空中に漆黒の円――突如空中に穴が開いたようにも見えた――が出現し、その円が中心に向けて収縮するようにして消えるとその場所から、こぽり、と水音がした。何もない空中から突如水が流れ出し、重力に逆らって竜のように宙でうねりながら女の体の周囲を漂う。
「相変わらず見事な『雨』だねえ」
「どうも」
 そのまま空き地の中へ足を進める女の後に男も続く。……日差しがますます強まる。まるでこの一帯だけ夏に設定されているかのようだ。空き地には人影がひとつあった。が、どこか異質な空気を発していた。斜めに傾いで立っているその人影は、下手くそな操手に動かされているマリオネットのような動きで振り返る。まだ年若い青年である。
 その目は、晴天の色だった。目の中でちらちらと太陽の光のようなものが瞬いている。
「日差しまで見えてる、手遅れですね」
「そうだね、佐藤さん頼むよ」
 女が指を鳴らすと、宙を流れていた水が勢いよく流れ出し青年へと向かう。青年の周囲をぐるぐると取り囲み、そして、拘束するように絡み付こうとした、直後。青年が素手で水を弾き飛ばし女の方へと飛び出した。
「!」
 速い。女の迎撃は間に合わない。その瞬間、少し後方にいた男の背後に、上半分が半透明で下半分が黒い円が出現する。そして周囲に閃光。地表を這うように走ったのは、雷。青年はそれを避けるべく後方へ飛び下がった。女は男の方を一瞬見て軽く目配せをした。
「ありがとうございます、『雷』は連射出来ないのに」
「君が時間稼いでくれるでしょ?」
「まあ、はい。いつもの通りに」
 ……キハレは天候操作の権限を与えられている。とはいえ限定的なもので、一人につきひとつの天気を、ごく狭い範囲で行使できるだけである。その力をもって彼らはハレビトを鎮圧し、人々を守っている。ハレビトには通常の兵器は通用しないが、何故か天気には影響を受けるのだ。
 晴れ渡る青空の目をしている青年は、ハレビトに成り果てた彼は、徐々にその体までも異形に変えてゆく。腕が伸び、前傾姿勢になり、獣のように口が耳元まで裂ける。女は苦々しげに――悲しげに――表情を曇らせ、男は大儀そうに――諦念に――目を細めた。
 ここからは、キハレは、ただの人殺しとなる。 


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新矢 晋@企画用
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