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[雨P♀]正夢

全体公開 1658文字
2019-09-16 13:25:28

「眠れなかったのかい?」

夢オチPさんと雨彦さんがデートするお話です。

Posted by @toasdm

 っやばい!という自分の叫び声で彼女は目を覚ました。家を出る時間を三十分オーバーした時刻を示したスマホの画面は、雨彦からの着信が何件か、あとは静かに「遅刻ですねぇ」と言っているだけだった。
「人間やればなんとかなるんですよ」
「そうかい」
 必要最低限の身支度だけを整えた彼女は、家の前に停められた車の中で待っていた雨彦の隣にするりと滑り込み、シートベルトをカチリと締めた。俺は気にしてないさ、と苦笑する雨彦はハンドルを握ったまま、ちら、と彼女を見た。
 目の下にくっきりとした隈、それを隠すこともできないくらい慌ててしてきた化粧はとても気合が入っているとは思えなかったがよくみると、彼女の爪はほんのりと色づいていた。ふっ、と笑って息を漏らして、雨彦はからかいを混ぜて彼女に尋ねる。
「眠れなかったのかい?」
…………そうですけど!?」
「っはははは!」
 逆ギレする彼女が可愛らしくて雨彦は思わず吹き出した。笑わなくなっていいじゃないですか、と憤懣やるかたない彼女がむくれているのもまた愛らしく、雨彦はくつくつと笑いながら続ける。
「っふ、くく……っそんな、楽しみにしててくれたのかい?」
……そう、ですけど」
「嬉しいよ」
 目線は前に向けたまま、雨彦の左手が彼女の膝の上に伸びてくる。うわ、と小さく悲鳴をあげた彼女の手をそっと包んで、雨彦はとろけそうな顔で笑いながら言った。
「嬉しい」
 服だけは用意しておいたからなんとか着替えられたがメイクは完璧にできなかったことも、前日眠れなさ過ぎて緊張しながら手入れをしたネイルも、不完全でちぐはぐな彼女の身なりも遅刻の申し訳なさも、雨彦のその一言がさっとキレイに拭い去る。雨彦さんずるい、と漸く本来の笑顔を取り戻した彼女を乗せて、雨彦は高原を抜けた。

 都心から三十分離れるだけでこんなのどかな風景が広がっているのか、と彼女は窓の外から吹き込んでくる風に目を細める。風の心地よさに今朝の失敗などどうでもよくなっていると、雨彦が前方を指差した。
「そこ、前言ってたところだぜ」
「前……あ!」
 ソフトクリームと牛の看板に彼女の目はきらきらと輝き、メイクいらずになる。お前さん現金だな、ときっちり駐車して苦笑する雨彦に手を引かれてソフトクリームワゴンへと向かった。が。

「意外としつこかったな」
「はい……
 伝家の宝刀、事務所を通してくれが使えなかったのが、取材の長引いた原因だった。まさかこんなところで、有名ファッション雑誌のカップルコーデの取材を受けることになるとは思わなかったのだ。彼氏の方は芸能人みたいなイケメンですよね、と言われて吹き出さなかったのは耐えた方だ、と二人は顔を見合わせて笑う。お互いに、上手く一般人に変装して溶け込めていたのだという功績を湛えて食べたソフトクリームは、夢のような味がした。

「さて」
 あっという間に訪れた夕暮れを、不審に思わなかった時点でおかしいのだが。車の中で彼女は、まだ帰りたくない、という気持ちを抱えて夕日のように沈みかけていた。行きの車の中でされたように、また雨彦の手が彼女の手に伸びてきて、ぎゅ、と優しく包まれる。違和感はあっという間に消えていく。
……今夜は帰さない、なんて言っても、許してもらえるのかい?」
 ドクン、と高鳴った心臓、気がつけば外は真っ暗で、見渡す限りの高原の広い空の代わりに、外ではいかがわしいネオンが躍る。
……
…………ホテル、行こうぜ」

 がば、と身を起こした彼女は、自分が頷いたかどうかもよく覚えていない夢の内容に冷や汗を垂らした。っやばい!と慌てて確認したスマホは静かに、家を出る一時間前をさしていた。着信もなく、あまり眠れなかったことに変わりはなかったが、デートに遅刻はしなくて済みそうだ。
 デート中に取材とか受けませんように、と祈りながら身支度を済ませた彼女は、家の前で雨彦の迎えを待ちながら、正夢を回避するには雨彦に話せばいいのか、と一人苦笑していた。


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