@satomi8429
お題「雨宿り」
キャラ「飛皋」
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「なにぼーっとしてんだ、行くぞ」
耳元で声がして、右手が前へぐいとひっぱられる。つんのめるように上半身が傾いだが、両足はちゃんと交互に前に出た。無数の水の輪、その下にある泥を跳ね上げながら駆ける四本の脚。
「ああびっくりした。いきなりあんなに降ってくるなんて反則だよな」
袖口で乱暴に顔を拭いながら彼が言う。髪の毛が首筋や額にへばりついて不快だった。しかしともかく、ここには屋根がある。
「でもよかったね、ちょうどこれがあって」
いつから使っていないのだろう、扉が壊れて開きっぱなしになった物置小屋の庇は破れ箇所だらけだったが、息がつけるだけの余裕をもたらしてくれた。
安堵のため息とともに前髪を左右にかきわけて隣を見ると、彼は忽然と消えていた。
「飛皋?」
声の限りに何度も呼んだが、そこにあるのは激しく降り続く雨の音だけだった。物置の中。小屋の周り。声が枯れるまで呼び続けたが、彼の気配はどこにもなかった。
「飛皋…」
彼は今でも雨の中にひとりでいるのだろうか。ひとりで、俺が探しに来るのを待ってるのだろうか。
いや、と井宿は首を振る。それは疑問ではなく確信だ。
きっとどこかでひとりで濡れている。涙もわからないくらいに。
顔を上げて錫杖を握りしめると、あらわな傷に雫が流れた。
今度は俺が手をひっぱってやる番だ。
彼が濡れないところまで。もうこれ以上、濡れずにすむところまで。