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[圭P♀]Cのコードがなかったら

全体公開 1426文字
2019-09-30 13:40:39

「独占欲がなかったら、ほとんどの愛は存在しなくなってしまうのかもしれないね」

都築さんがPさんを意識するきっかけのお話です。

Posted by @toasdm

 それが誰であるのかを詮索するつもりはなかったし、詮索する権利は圭にはなかった。ただ親しげに話しながら彼女の隣を歩いていた男の横顔と、それを見上げて、見たことのない表情で笑っている彼女との間柄がなんであるのかを、圭は知るのが怖かった。

「そう……
 だから彼女から、こないだ久しぶりにいとこのお兄ちゃんと会ったんですよ、と何気なく言われた時に、ここ数日眠れないほどに頭を悩ませていたその光景が持つ意味が、親密に見えた理由が、恋慕によるものではないという事実にほっと一安心して、そして気付いてしまった。

 ああ、僕は君の事をそんな風に、特別に思っていたんだね、と。

「今は音楽関係のお仕事してるみたいでして」
「ふぅん……
 気のない返事に聞こえたかもしれない、とワンテンポ遅れて気付いたが、本当に、圭にとってはそれはどうでもよかった。
 一安心とはいえ、自分の知らない彼女の表情を知っている男がいるという事実にもまた、変わりはなかったのだ。
「って、私の話はどうでもいいですよね!」
「うん?」
 そんなことはないけど、と運転中の彼女をちらりと見て、圭はまた、車窓の外へと視線を戻す。
 特別に思うことと、独占欲とは、よく似ている。
 彼女を独占したいと思う気持ちの根源に、圭は自分が、彼女をそういう意味で独占したいと思っていたことに気付いて戸惑っていた。
 僕が?プロデューサーさんを?
 気付いたばかりの気持ちはまだ存在が朧気で、しっかりと形を成していないように感じられた。このまま放っておけばいずれは消えてなくなるかもしれない、と感じるようなその儚さを、儚いと思って手にとってしまった時点で圭は、彼女を意識する自分を止めることができなくなってしまっていた。
……プロデューサーさんは」
 何を言おうとしているのか、気づいていても、わかっていても止められない。暴走気味の独占欲が紡ぐ言葉を止める手段を、今の圭は持ち合わせてはいなかった。
「誰か、特別な人はいるのかい?」
「え……?」
 ちょうど赤信号、止まれといっているその色を、圭は視界の隅に捉えて彼女を見る。
「あはは……いない、ですねぇ」
「そう……
 本当かどうかはわからないけれども、彼女のその答えは圭を安心させるのに十分だった。独占欲を飼い慣らすのは慣れていない自分をくすりと笑って、圭は小さく呟いた。
「Cのコードがなかったら」
「?」
 Cのコード?とちらりと圭に視線を向けた彼女の方を見もせずに、圭は続ける。
「きっと、ほとんどのポップスは存在しなくなってしまうんだろうね」
……はぁ」
 その呟きに意味があるのかないのか、彼女にはよくわからなかったが、少しだけ盗み見た圭の表情から、何かを感じ取って彼女は黙って聞いている。
「もしかしたら」
 静かな、微かな、密かな囁きは。

「独占欲がなかったら、ほとんどの愛は存在しなくなってしまうのかもしれないね」

 彼女の胸に、深く突き刺さった。
 話の流れは全く読めなかったが、独占欲がなかったら、存在しない愛もあるかもしれない、という問いかけは、彼女に何かを考えさせた。
 そうかもしれませんね、と無難な返事を返しながら、彼女は車を走らせる。

 独占欲は愛の全てではないかもしれないけれど、愛しているからこそ独占したくなることもあるのかもしれない、という可能性は今もまだ、彼女の胸に深く突き刺さったままだった。


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