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[北斗P♀]落としにくる

全体公開 1 2024文字
2019-10-07 13:01:09

「俺みたいなタイプが苦手、ってプロデューサーの意識、俺が変えてみせます」

ほくほくが苦手なPさんをなんとかしたいほくほくのお話です。

Posted by @toasdm

 彼女は彼が好きだったが彼が苦手だ。好きと嫌いと得意と苦手に分類すると、彼女にとって、伊集院北斗は好きだが苦手なタイプだ。もっと詳しく言うと、嫌いではなかったが苦手だ。ありていな表現をするならば、好みの男ではなかったのだ。チャラ過ぎる。女と見れば声をかけて、愛情の安売りをしているような男は、彼女には不誠実に見えた。
 ただ仕事ともなれば好き嫌いなど言っていられないし、ましてやそれが仕事に差し障りのあるものになるなど言語道断だ。伊集院北斗を一人の男性としてみると、どちらかというと嫌悪感の方が強いが、一人の担当アイドルとしてみると、魅力的だった。それがせめてもの救いではあったが、あからさまに嫌悪感を出されることはなかったとしても、これは好かれてはいないな、という感覚は、全ての女性を愛したい北斗にとって、決して面白いものではなかった。
「チャオ☆」
「ああ……お疲れ様です」
 その間と一瞬見えた怪訝そうな顔とが、今日も北斗の苦笑を生んだ。嫌われてるなぁ、と思っても口には出さず、北斗は彼女のデスクに小さな手提げをぽんと置いた。
「あの」
「限定のマカロンです、よかったら」
 手提げに印字されているシンプルながらも高級感のある店名は、確か彼女の記憶によれば、行列のできるパティスリーのものだ。わざわざ並んで買ってきたのか、はたまた誰か、いつものように粉をかけた女性からのいただきものか――どちらにせよ、彼女にとっては、困惑の種だ。
「いただけません」
「おいしいですよ? この時期限定のパンプキンマカロン」
「はぁ……
「あ、もしかして糖質制限とかしてました?」
……
 デリカシーがない。ギャグにしても面白くない。ついでにいうと糖質制限などはしていなかったし、別段マカロンという食べ物に思いいれもなにもなかった。彼女はため息混じりに違います、と答えて仕事の続きに逃げた。
……わざわざ並んで買ってきたんですか」
「はい」
 少し冷たい態度だったかもしれない、と考えを改めて、彼女は北斗に声をかける。できれば話したくないが、仕事に差し障りがあるのはいただけない。ほぼお義理で話しかけた彼女に、しかし北斗は嬉しそうに続けた。
「プロデューサーと仲良くなれたら、って思ったんです」
「別に」
 そうやってまた、調子のいいことを言う――彼女の苛立ちは、タイピングの音に少し出ていた。カタカタと手を動かしながら彼女はちらりと北斗を見た。
「仲良くなくても仕事はできますよ」
「仲良く仕事した方が楽しいじゃないですか」
「それは私が女だからですか?」
「あはは……嫌われちゃったかな」
…………
 良心の呵責で胸がちくりと痛んだが、これも北斗の作戦の内なのかと、勘ぐってしまう自分にも苛立つ。彼女が北斗をできれば避けたいのは、そうやって人の心の中にずけずけと入ってくるくせに、それを他の人にもやるという、まるで特別感のない女たらしな不誠実さに苛立つからだった。
「私以外の人にもそれやってますよね、別にいいですけど」
「俺みたいなタイプ嫌いです?」
 今度はストレートにはっきりと、北斗は彼女の退路を断った。さてどう答えたものかと一瞬悩んで、彼女はいい機会だと、言葉を選んだ。
「嫌いではありませんが苦手です。仕事じゃなかったらあまり関わらないタイプの男性なので」
「じゃあ」
 それなりにきっぱりとお断りをしたはずなのに、北斗の声が少し弾んで、嬉しそうなのが気になったが、彼女がそれに気付いた時には既に彼女は、北斗の術中に嵌っていた。
「まだ俺にも見込みはあるってことで、いいかな?」
「は?」
 今断ったんですけど、と振り返ると、不敵な笑みを浮かべた北斗が割とすぐ後ろに立っていて彼女は思わず身を引いた。
「俺のこと、男としてみてくれてるってことですよね」
…………は?!」
「あんまり関わらないタイプの、男性、って」
 どうしてそう都合のいいところだけ拾った?!と彼女は自分の発言を振り返り、それを驚くほどポジティブに捉えた北斗を二度見した。
「変えてみせますよ」
「な、にを」
 ずい、と寄って来た北斗から後ずさりをして、彼女は逃げの姿勢にスムーズに移行する。

「俺みたいなタイプが苦手、ってプロデューサーの意識、俺が変えてみせます」

 そういうの求めてないです、という言葉が出てきたのは、また落としにきますよ、と北斗が事務所を出て行ってからしばらく経ってのことだった。

 返事も待たずに一方的に出て行くところだとか、求めてもいないものを押し付けてくる強引さだとか、こっちの話も一切聞かずに心にするりと滑り込もうとする無遠慮さだとか、それを誰にでも向ける浮気性でチャラついたところだとか、そういう北斗のいいところの何もかもが、やはり彼女は苦手だ。取り込まれてしまいそうだ、と眼鏡をかけなおして、彼女はふぅ、とため息をついた。


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