「……どうせ、俺のことなんて、商品としてしか見てねーもんな、あんた」
ずぶ濡れあまとう回収したPさんと、Pさんに恋愛対象として見られてないことに落ち込んで思わず手が出ちゃったあまとうのお話です。
@toasdm
体温を奪う秋雨に、冬馬は上から下まですっかり濡らされ冷えている。誰かに傘を借りたり、連絡をしたり雨宿りをしたり、そういったことをする気力がないのは、放課後女子たちが話していた恋愛話のせいだった。
先生なんてうちらよりずっと年上なんだから、恋愛対象外だよね。
この年頃の女子にはよくある、先生への憧れと恋心とが一緒になったそれは、冬馬の柔らかい心に深く突き刺さっていた。彼女たちはいたって真剣だったし、先生にとって自分たちがビジネスによる関係を超えることがないからこそ苦しい、と悩んでいた。女子の恋愛話には微塵も興味はなかったが、年上で、ビジネスで、自分が恋愛対象外というのは冬馬にとって耳の痛い話だった。
はっきりとした形を成すような、強い想いではないはずだ。それでも、冬馬は、彼女が気にかかって仕方がない。年頃の男の子らしく彼女を思い描いては自身を慰め、嫌悪感に消えてしまいたくなったことだってあった。プロデューサーはそういうんじゃねーよ、と否定すればするほど気にかかり、心はひしゃげて音を立てた。そもそも女性全般が不得手な冬馬が普通に話せる家族以外の女性である彼女のことを、特別に思っていないわけもなかったのだが、そこはそれ。青春は、鈍くて鋭く、淡くて切なかった。
「……そうだよな」
雨音にかき消されてしまいそうなほどに小さな声で、冬馬は自身に言い聞かせるように呟いた。もし俺がそうだとしたって、プロデューサーはそうじゃない。仕事だし、年下だし、自分がそういう対象として見られることはこの先何年経ってもないのだと、痛いほどの優しい秋雨に冷やされた頭はそう言っていた。
だから、そんな状態の自分を拾い上げて部屋に連れ込み、風呂に入れと促す彼女が、自分を特別に思ってはいないという事実は、とにかく心に痛かった。がしがしと濡れてぺたんとなった髪の毛をバスタオルで大人しく拭かれている間も、脱いだジャケットを大事そうに受け取ってくれた時も、彼女が優しければ優しいほど、その優しさの根源が仕事としてみているからだと冬馬に教えていた。打たれるものが冷たい雨から熱いシャワーになったところで、冬馬の心は冷え切ったままだった。
「よし、と……」
質の良いウール混のブレザーを丁寧に手洗いして、彼女はそれをハンガーにかける。年頃の男の子はナイーブだからあんまりつっこんで聞いちゃまずいよね、と雨に打たれて表情の暗かった冬馬への接し方はいつもどおりにしようと決めて、シャワーの音を聴きながら彼女はハンガーを脱衣所の物干しにかけた。
「……やっぱり、男の子なんだな」
濡れて沈んだ色合いのブレザーの肩幅に、彼女は冬馬の体格を見る。結構肩幅広いよね、とぽつりと呟いてしまうほど彼女の目を奪ったそれは、彼女から注意力をも同時に奪う。シャワーの音が止まったことに気付かずしげしげと眺めていた彼女の後ろ、バスルームのドアは予告なく開かれた。
「っうわ、と、冬馬くんごめんね!」
反射で音に振り返り、飛び込んできた健康的な肌色に彼女は光の速度で顔を逸らす。着替えで見慣れていた上半身だけでなく、ちょうど湯気でいい具合にプライバシーに配慮された具合になった腰から下まで露になった冬馬の、一瞬見えた表情は相変わらず暗かったようだったが、とにかくなにか、羽織るものだけでも、と慌てて脱衣所から飛び出そうとした彼女の手首を、しかしながら濡れて温まった冬馬の熱い手がぐっと掴んだ。
「男としてなんて、見てねーくせに……」
「っ」
ぞくり、心臓に刃を添えられたような冷たい感覚が彼女の動きと抵抗をゼロにした。何を、と言い出そうとした瞬間、彼女の背中は壁にぐっと押し付けられて、下は見ちゃだめなやつだ、と見上げた冬馬の顔が、ぐっと壁際で彼女に寄った。
「男として見てんなら、なんで部屋にあげるんだよ」
「だ、だってあんな、風邪ひいちゃう」
「ほっときゃいいだろ!」
ダンッ、と壁に押し付けられた手首にかかる力の強さも、鋭い目線も、真剣な眼差しも全てが冬馬を男だと彼女に伝える。こんなことされるかもしれないんだぞ、と脅すようにさらに顔を寄せて、冬馬は自分がしたかったのはこんなことじゃない、と目を伏せた。
「……どうせ、俺のことなんて、商品としてしか見てねーもんな、あんた」
「…………それは、絶対に違います。担当アイドルじゃなかったとしても、私」
「なんでだよ!」
苛立ちも裸身も隠そうともしない冬馬は、彼女が見せた彼女の優しさに食らいつく。がぶりと噛み付くように奪った唇は冷えてはいなかったが震えていて、言葉だけでは足りない感情は全て、その唇から互いに伝わってしまった。
好きな相手じゃなかったら、こんなことはしない、と。
遠くで雷鳴が、もう後戻りはできないのだ、と低く轟いていた。