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[翔真P♀]日帰りなら

全体公開 1 1798文字
2019-10-18 12:50:10

「風流だねェ……
旅雑誌の紅葉特集を眺める翔真さんとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 ミーティングが終われば、それぞれが、それぞれのやるべきことへと向かう。レッスンと収録を控えたキリオと九郎は連れ立って、電車で移動する。なにやらひそひそと、内緒話をしていた二人がスタジオまでの間にある最近できた和スイーツのお店で旬の栗のパフェを食べるらしいということは、彼女の耳にも翔真の耳にもしっかり入っていた。
「秋はいいわねェ……
 豊かに波打つ艶めいた長髪をゆったりと束ねて、翔真はぱらぱらと、雑誌をめくっていた。翔真の次の移動は少し遠くの雑誌社で、彼女の同行が決まっている。準備を済ませてお疲れ様です、と秋の新茶を差し出した彼女は、何の気なしに翔真の手元をちらりと見た。
「わ、紅葉と温泉!」
 翔真が眺めていたのは旅行雑誌だ。暖かみのあるこっくりとした秋色に染まった山肌と、日帰り温泉の文字が躍って、彼女の目に秋を届ける。
「あら、アンタも好きかい?」
「ふふ、そうですね。おうちだとずっとシャワーばかりで、ゆっくり湯船に浸かる時間もありませんが、いいなぁ……日帰り温泉かぁ」
 首都圏から日帰りで行ける!紅葉狩り&温泉グルメ特集ページを、翔真は彼女にも見えるように向けてやった。
「熱海、伊豆、信州や草津なんかも日帰りで行けるみたいねェ」
「鬼怒川も箱根も、そういえば近いですもんね」
 いただきものなんですけど、と切った栗ようかんもお茶に添え、彼女は思わず翔真の向かいに腰掛けた。気が利いてるわね、とたおやかに微笑んで、翔真は革張りのソファをぽんと叩いた。
「そっちじゃ見づらいだろう、ささ、こっちへお座んなさいな」
「え、じゃ、じゃあ……
 竹の楊枝でようかんを切り、翔真はぽいと口に含む。あらおいしい、と口いっぱいに広がる和の甘味をお茶で流して、隣の彼女と並んで座って、翔真の手はページをめくった。
「わぁ……ロープウェイから見る紅葉、かぁ……
「日帰りとなると朝イチで大変そうだけど、新潟の白馬あたりも綺麗なのよ」
「そうなんですね……わ、ほんとだ、すごい」
 語彙力を失った口に栗ようかんを頬張りながら、ページを埋め尽くす暖色のグラデーションと温泉の湯気に彼女は目を奪われる。ページを繰る指先はしなやかなのに、手の甲に浮いた筋や骨ばった指の節は男性らしく、それもまた、彼女の視線を奪った。
「風流だねェ……
 ずず、と茶をすすりながら、翔真はほぅ、とため息混じりに呟いた。
「日本に生まれてよかった、って瞬間は多々あれど、秋は特にそう思うのサ」
 日本茶と栗ようかんと、紅葉と温泉。
 確かに翔真は今、日本の秋を堪能しているようにも見えた。
「次のお休みにでも行かれるんですか?」
「んー、そうねェ……
 ふ、と雑誌から顔を上げて、翔真はカレンダーをちらりと見た。次のオフは平日か、とスケジュールを確認して、それもいいかもしれないねェ、と旅路に思いを馳せる翔真の横顔は、彼女には珍しく、気の抜けた、リラックスした雰囲気にも見えた。
「ふふふ、じゃあ楽しんできてくださいね」
 ようかんとお茶とを反復横飛びしながら、彼女も次の移動時間をもう一度確認する。スマートフォンで経路を調べて、渋滞情報に気を配ってと、すっかり仕事モードの彼女のことを、もしかしたら翔真は、からかってやろうという腹づもりだったのかもしれない。
「ねェ、プロデューサーちゃん」
「なんですか?」
 片手間に返事をしたその油断に、するりと翔真の手が伸びる。肩にぽんと置かれた手に、へ、と思わず振り見た翔真の表情は、わかりやすいほど妖艶だった。

「日帰りなら、アンタを攫っていけるかしら?」

 意味深な笑みは、無防備な彼女の心臓に非常によろしくなかった。ヒュッ、と息を呑んだ彼女の頬をちょんと悪戯に突いて、翔真はからからと笑った。
「アハハ、なんだいその顔!」
「じょっ、なに、冗談、えっ」
 からかわれたのだと分かっていても、真っ赤になる自分の頬の熱に動揺が加速する。そんな彼女の頬の染まりを優しく包んで二度三度、翔真は撫でながらぽつりと漏らした。
「次のお休みはいつかしら?」
 からかいだとか冗談だとか、そんなものではないような雰囲気を漂わせた翔真の瞳に、雑誌の紅葉よりも真っ赤に燃えた彼女の顔が映りこむ。
 普段なら全ての予定が入っている優秀な彼女の頭は今、すっかり仕事を放棄していた。


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