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[東雲P♀]パンプキンパイと泥棒猫

全体公開 1379文字
2019-10-21 12:49:44

「何回言ったらわかるんです、つまみ食いせんといてください」

パンプキンパイ作る東雲さんとつまみぐいする泥棒猫のPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋、そして。
「食欲の秋ですよ」
「そうやね」
 う、と思わず声が詰まった彼女の手首を、荘一郎は掴んだまま淡々と言い放つ。
「それとこれとは話が別です」
「ううぅ……だって……
 掴まれた彼女の手には、できたての、一口サイズのパンプキンパイがつままれていて、つまり今、彼女は荘一郎の目を盗んでつまみ食いをしようとしていたところだった。
「もう少し待てないんですか」
「むぅぅ……
 行儀悪い手、とその手からパンプキンパイを取り上げて、荘一郎はぺちんとひとつ、手の甲を叩いた。
「だって、だってすっごくおいしそうだし!」
「おいしいに決まってますよ」
 泥棒猫に軽くおしおきをして、荘一郎は再びパイの飾り付け作業に戻った。みっちりとパンプキンクリームの詰まった三日月形のさくさくパイにちょんちょん、とクリームの糊を乗せてから、その上に黒猫のチョコレートを乗せていく。意匠はさながら、三日月に遊ぶ黒猫だ。ハロウィンらしいその飾りつけに、彼女は思わずかけていた眼鏡を無意識に、くい、と上げて食い入るように見つめた。
「おいしそう……
「女の人やったら、先に可愛いが出てくるもんやと思ってましたけど」
 色気より食い気やね、と苦笑して、荘一郎は再び顔をあげる。
……ぁ」
…………プロデューサーさん」
 先ほどよりもさらに怒気をはらんだ口調に、再びつまみ食いをしようと伸ばしていた彼女の手が止まる。絞っていたクリームの袋を脇へと置いて、荘一郎は再びその、泥棒猫の行儀の悪い手を掴んだ。
「何回言ったらわかるんです、つまみ食いせんといてください」
「だって~……
 我慢できないですってば、といっそ開き直った彼女の手首をぐっと引く荘一郎の力は、見た目以上に強かった。
「う、わっ」
「我慢できなかったらなにしてもいいんです?」
 甘いお菓子の香りに包まれたのは、荘一郎の腕の中にすっかり閉じ込められたせいだ。目を白黒させた彼女の顔にずい、と顔を近づけて見下ろして、荘一郎はふぅ、と大きなため息をついた。
「だったら」
「んっ……!!」
 噛み付くような荒っぽいキスが一度、その後は、ちゅ、ちゅと軽い音を立てて繰り返されるキスが何度も。すっかり力の抜けた彼女が上気した顔で見上げれば、荘一郎は満足そうに舌なめずりをしてにんまりと笑って言う。

「行儀の悪い泥棒猫に我慢できんようになったら、こんなことしてもいいんですか?」

 今度つまみ食いしたらどうなるか、わかってますよね、と耳元で囁いて、荘一郎は彼女をゆっくり解放する。くたり、と力の抜けた彼女がソファに沈んだのを見届けてから、荘一郎はハロウィンのお菓子作りを再開する。ソファから眺めた荘一郎の後ろ姿は、なにやら楽しそうに見えて彼女は顔を覆って身悶えるしかなかった。

「ま、こんなものですか」
「うぅ……荘一郎さんのバカぁ……
「いつまで食らってるんです」
 だってあんなのずるい、と立ち上がる元気の復活した彼女に近づいて、荘一郎はそっとできたてのパイを差し出した。
……え」
「プロデューサーさん専用の作るまで待っててください、って言ったでしょう」

 おひとつどうですか、と試食に渡されたパンプキンパイの黒猫は、悪戯そうな笑みを浮かべた眼鏡をかけた黒猫だった。


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