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[北斗P♀]一日分の

全体公開 2 1801文字
2019-10-22 09:47:19

「ぷろでゅー、さー」
疲れてぐっすり寝てるほくほくの寝言なんだかなんなんだかよくわからないお話です。美形はなにしてても美形です。

Posted by @toasdm

 美形は何をしていても美形だ、と彼女は目を細める。くしゃみをしても食べていても、今のように眠っていても。ぼんやりと、眠りの暗がりから意識を少し浮上させ、彼女は眠る北斗を見つめてそう思った。
 この顔と付き合ってるんですよ、貴女は。
 いつだったか、彼女が北斗に「何をしてても格好いい」と素直な気持ちを吐露したときに、北斗は自信たっぷりにそう言った。そういうこと言うのずるいです、と轟沈したのもいい思い出だ。
 顔のいい男が自分の顔のよさを自覚している、ということがそもそもずるいのだ。元々持ち合わせている顔のよさと、それを効率的にセルフプロデュースする手腕と、後は知性と経験。全てにおいて完璧な北斗は、完璧じゃないところを残しているというところも含めて完璧だった。
 例えば、彼女は最初、北斗はカップラーメンを食べないと思っていた。だから夜中に一人でこっそり「すみません、お腹が空いてしまって……」と申し訳なさそうにカップラーメンをすすっているのを見かけた時、そのあまりの衝撃に何を口走ったのか、彼女はよく覚えていなかった。そのとき食べていたのがカレー味のカップラーメンだったことと、カロリー計算はしているんで大丈夫です、という謎の言い訳をしていたことだけは記憶しているが、体によさそうなものしか食べない、といったイメージをあっさりと覆すような、普通の、男子大学生らしい面もしっかり持ち合わせている不完全さが、北斗の魅力をよりいっそう深みのあるものにしているのかもしれない、とそのとき感じたのだ。ちなみにそのとき北斗は、夜中じゃなければとろけるチーズを入れて食べたかった、と言っていたのもなぜか覚えている。
「っふふ……
 完璧で、格好良くて、優しくて少しお茶目で、頭が良くて。
 でも、どこにでもいる普通の男子大学生。
 今日のように、仕事で疲れてほとんど会話もなく「すみません、眠たくて」と彼女を強引に抱きしめたままベッドにもぐって、ほんの数秒で寝息を立ててしまうような、そんな抜けたところも愛おしい。今日交わした会話といえば「ただいま」「おかえりなさい」と「おつかれさまです」「おやすみなさい」くらいなものだった。会話かどうかも怪しい。いつもなら、俺がどれだけ貴女を愛しているか教えてあげますよ、と手が伸びてくるところだったが、連日のミーティングとレッスン、営業、そして二日間に及ぶ大規模な公演ですっかり疲れ果てているのだろう。充実感とほんの少しのあどけなさを残した寝顔が、その全てを物語っている。
「んん……
 私も、疲れちゃったな……
 北斗のその疲れた寝顔に、彼女の眠りももう一度訪れ始める。元より、ほんの少し目を覚ましてしまっただけで、日付の変わる一歩手前の時間帯は本来、彼女はぐっすり眠っている時間だ。うとうとと、北斗の腕枕の中。彼女は胸板に額をすりつけて目を閉じた。
 目を閉じた、闇の中でも。寝息は耳に、温もりは肌に、香りは鼻に、北斗の存在を彼女に教えてくれる。無言の「俺はここですよ」を全身に感じる安心感をゆりかごに、彼女はゆっくり、ゆっくり、一呼吸ごとに眠りに落ちていく。
 その時。
「ぷろでゅー、さー」
……っん」
 しっかりと、眠っていたはずの北斗の腕に、ぐっと覚醒の力がこめられる。ごめんなさい、起こしてしまいましたか、とまどろみの声で問いかけてみるが、胸板にしっかりと抱きとめられて思うように頭が動かせない。
「北斗」
 返事をしたのは寝息だけで、彼女は少し安心した。起きたわけじゃなかったのかな、ともう一度額をすりつけた彼女の頭をぎゅっと抱えて、北斗はぽつりとつぶやいた。
「あいしてます」
「っ」
 夜の寝室の静寂、耳元のそれは彼女の耳だけでなく心にも、全身にもよく響いた。

「きょうの、ぶん、いいわすれて、ました」

 なにそのとどめ!と気恥ずかしい気持ちと、一日分の愛してるが決まってるのかな、というおかしみと、格好いいのにこういう可愛いところあるのずるくないですか、という感情とがない交ぜになって、彼女は北斗の腕の中で悶絶する。
 おやすみなさいの代わりに彼女の額にそっとキスをひとつ降らせて、北斗は今度こそ、ぐっすりと眠ってしまった。

 格好いい人は眠っていても格好いい。
 あどけなさの少し増した北斗の寝顔を見つめながら、彼女はそう、思った。


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