土と花と本音

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2019-10-27 23:05:43

金木犀とクロシア。テーマは「素直になれない」

Posted by @Greas087


 久し振りに晴れた秋空の下を、自転車を立ち漕ぎをして駆けていく。夕方までに配達する牛乳を全て配り終え、バンドの練習の前に腹拵えをと思い、急いで事務所へと向かう。
 昨日までは雨の中を必死になりながら自転車を漕いで配達をしていたのが嘘のようだ。そして、日に日に肌寒い日が増えていき、最近まで暑苦しくて脱ぎ捨てたいと感じていたつなぎも、今では体温調節が苦手な俺にとっては丁度良い着心地だ。
 それにこの時期になれば嫌な程鼻に付く金木犀の花も殆ど下に落ちていて香りもしなくなっていた。
 金木犀の香りはどうも好きになれない。薔薇の香り以上に甘ったるくて、それが大量に咲いていて、思わず噎せた。それに、自分の苦手な冬がやってくる時期だと察してしまって憂鬱になる。
 しかし、金木犀の時期はもう終わり。噎せる事は無いし憂鬱になる事も無い。
 自転車を漕ぎながら地面に落ちた金木犀達を流し目で見ていると、突然事務所で見慣れた少女の蹲み込んでいる姿が目に入ってきた。長い黒い尻尾を揺らしているのは、間違いなくシアンだ。
 何故こんな所にこいつがいるのか。スルーをしても良かったが腹を壊して蹲っているのだとしたらと考えたら無視は出来なかった。
 ブレーキを掛けて自転車を止め、彼女に歩み寄る。それでもそんな俺に気付く様子も無く、シアンは蹲み込んだままだ。だんだんと楽しそうな鼻歌が聞こえてきたので、何処かを痛めている訳でもなさそうだ。
 後ろから何をしているか覗くと、思わずギョッとした。
「お、お前何してんだよ」
 落ちていた金木犀の花を素手で搔き集めるシアンにいつの間にか声を掛けていた。それに反応してやっと後ろを振り返り、俺の顔を見るとあっ! クロウちゃん! と嬉しそうな笑みを零した。今この訳の分からない行動を見た後なのでどうして笑っているのかと疑問を抱き困惑した。
「何って金木犀を集めてるにゃん?」
「何で集めてんだよ」
「良い匂いだからにゃん」
 淡々と答えてから、シアンは金木犀を集める作業を再開した。
 偶にこいつが考えている事が分からない時がある。否、女の気持ちなんて分からない事が殆どだがシアンは特別分からない。
 収集癖があるのは知っていて、アンティーク集めをする女はちらほら見かける。
 しかし、シアンは稀に特別キラキラした物などはゴミでも石でも事務所に持ち帰ってくる事がある。お前はガキか。
 俺はシアンの横に同じ様に蹲み込む。いつものフリフリな服では無く女学院の制服だからこいつも事務所に帰る途中だったのだろう。
「これはキラキラしてねえぞ」
「良い匂いだから持ち帰るにゃん」
「道端に落ちたの持って帰ってくるなよ、お前の爪の中にも土と花入ってんぞ」
「でも良い匂いだから何だかこのままだと勿体にゃいと思って、匂い袋に出来ればずっと良い香りを嗅げるにゃん」
 シアンは淡々と答えながら手を休めず持参していたポリ袋に金木犀を詰めていく。
きっとこいつなら簡単に匂い袋とやらを作ってしまう。
 しかし、俺は金木犀が嫌いだ。普段から構ってやってきた相手が嫌いな花の匂いを纏われては近付けられない。それだけは嫌だ。
 シアンの手からポリ袋を奪うととっとと中身を地面に捨てた。それを見たシアンは流石に眉を吊り上げて怒鳴る。
「クロウちゃん何するの? 意地悪しないでにゃ!」
「俺はただ金木犀が嫌いなだけだ」
「そんなの関係ないにゃ」
「俺にもお前にも関係あんだよ」
 今度は俺が愛想無く答えた。
 返事に全く理解があからさまに出来ていなそうなシアンは首を傾げた。
「あたしにも関係あるの? なんで?」
「あるけど、言わねえ」
「そんなの酷いにゃ! 教えてにゃ!」
「だったらお前が勝手に考えやがれ」
 俺は最後にそう吐きながら立ち上がり、逃げる様に自転車に跨る。シアンも釣られて立った様な気がするが、今は真面に見る事は出来なかった。

 シアンが再度金木犀を集めない様にポリ袋を奪い去ってシアンを置いて全力疾走で自転車を漕いだ。


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