レンがルークの夢を見る/原稿から削った部分だけどいつかの自分のために出しておく
@syuu_29
店の中は様々な種族で賑わっていた。でもみんなけっしてお上品じゃない。砂埃に汚れたゴーグルを首にさげた男も、顔を隠すように襟巻きを口元まで巻きつけた女もいるが、共通しているのは皆どこか周囲を警戒して鋭い目つきをしているのに、リラックスしている風を装って酒を楽しんでいるところ。ソファ席でも背もたれにゆったり体を預けた伊達男がテーブルの上でぶくぶくと水煙草をふかす合間で向かい側の男と話しているが、その片手は机の下にさりげなく降ろされている。側の机でバンドの生演奏を楽しんでいる風のトグルータだって、片手はさりげなく腰に置かれている。ちらりと両手を確認すれば、誰だって同じようなものだった。皆何かあれば素早くブラスターの引き金を引いて身を守れるように用心しているのだ。隣のジェダイ以外は。
僕が肘を乗せたカウンターには隣にいるのはルークだった。
彼のつむじを見つめていると、それに気づいた彼が顔を上げる。ルークの髪は色が抜けて白髪交じりで、あまり整っていない顎髭だってまだらだった。顔に刻まれた皺も増えていた。でもきらきらといたずらっぽく輝く瞳は僕を見て柔らかく微笑んだ。昔と同じみたいに。
でも、僕は昔と違っていた。その微笑みが嬉しいのに素直にそれを表せなかった。口を開くことすらうまくできない。視線から逃れるように手元に目を向ける。僕はルークみたいにグローブで両手を包んでいた。べつに義手ではないが、見た目にはまるで区別がつかない。
口のはしがむずむずするのをごまかすように、僕は自分のグラスの中身をあおった。オレンジ色の液体はアルコールで喉を焼くようだったが、混じっていた炭酸が舌を撫でて少しだけ気が紛れた。
「飲めるようになったか」
ルークは嬉しそうに言った。目を細める仕草が懐かしい。それに彼のその言葉がなぜだかまるでずっと会っていなかったみたいな言葉だと感じて、僕はぎゅっと目をつぶった。僕をいたわるように、彼は続けた。思慮深そうで穏やかで、決して大きな声ではないのに周囲の喧騒などまるで邪魔にならない声だ。
「あっという間だ。なにもかもが――すぐに変わってしまう」
そんなことを聞きたいわけじゃない。僕は言い返そうとする言葉を飲み込んで、そのままならなさに歯ぎしりした。
「あんたは――」
口を開くと、ようやく目も開くことができた。
ルークは僕をじっと見ていた。彼が次の言葉を開くのが怖くて僕は「あんたのせいだ」と鋭い語調で吐き捨てた。
「変わったのはあんたのせいだ。おれは――」
僕の言葉に、彼の瞳が揺れる。涙の膜が張ったのかもしれない。悲しみがさっと瞳の色を塗り替えてしまう。悲しみ。そして僕の胸の中にこみ上げる怒り。まるで互いの手を取り引っ張り合うようにこみ上げる二つの感情が僕の胸の中で軋む。そしてルークの瞳の中でも混ざり合って、一つの暗い色になる。
「ルーク」
僕は彼の手を握った。生身の手だ。ぎくりと彼が身構えるのがわかったし、握り返してくれなかったが、彼は拒絶もしなかった。
彼が目を伏せる。潤んだ瞳が瞼の下にすっかり隠れる。
僕はたまらなくなって「あんたの夢を見る」と吐き出した。
「何度もあの日の夢を見るんだ」
「そうだろうな」
ルークは頷いて「私だってそうだよ」と答えた。
「何度もお前の夢を見ているよ、ベン」
ようやく、彼の義手が握られた自分の手と重ね包むようにして僕の手を握り返した。まるで生身のように暖かさを感じた。嘘偽りのない本心が、フォースの助けを借りて僕に囁いているのだとわかる。だからこそ僕はその暖かなフォースを拒絶して、手を振りほどいた。
「こんなのは夢だ!」
ルークは否定しなかった。僕の手を追ったりもしなかった。
「そうだな」
彼は僕を柔らかな視線で見つめているだけだった。許してくれと言えば「許しているさ」と答えそうだった。なぜならば、こんなのは夢だからだ。
馬鹿げている、と僕は言葉に出さずに呟いた。
いっそ彼にこそ「許しを乞え」と迫れればいいのに、夢の中でさえそんな風に振る舞えない。
穏やかで落ち着いた微笑みを見つめる。皺の深くなったかつての師を。僕を殺そうとしてできなかった男を。いまだにうまく恨めない伯父を。
「――あなたに認められたかっただけなのに」
僕は呟く。奥歯を噛みしめるのとシンクロして、カウンターが歪み、軋む。それきりしんと静まり返った店の中、誰一人いないカウンターにぱたぱたと涙の雫が落ちる。夢の中でさえルークはもういない。