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[圭P♀]おはようの嘘

全体公開 1 1729文字
2019-11-01 12:52:54

「プロデューサーさん、朝、だよ」
寝起きの悪過ぎるPさんを起こしてあげる都築さんのお話です。

Posted by @toasdm

 人のことを言えた義理ではないけれど、と寝惚け眼をごしごしこすり、圭はスマートフォンを手繰り寄せた。電源を入れるとロック画面には、アラームが三回鳴った通知と起きる予定の時間を十分過ぎたデジタル時計の数字が並ぶ。寝る前確かに腕に抱きしめていたはずの彼女の体は、広いベッドの壁際の方まで転がってしまっている。はだけた布団からにょきっと飛び出した足は、足の裏を壁につけた豪快な寝姿で、寝相のエキセントリックさを競う大会があれば、それなりに高い芸術点をたたき出せそうだ、と考えて、圭はくすりと笑った。
「ねえ、おきて」
 掠れても透明感のある寝起きの声が、彼女の耳を優しく揺さぶり起こす。うんともすんとも言わない無反応は、当然かもしれないね、と圭はまたベッドでくすくすと苦笑した。
「ねえ」
 今度は、手を触れる。もぞもぞと彼女の背中ににじり寄って、ぴったりと胸板をくっつけて、腕の中にまだ眠る温もりを、圭はそっと抱きしめた。折れてしまいそうだといつだったか、思ったことをそのまま言ったときに彼女は、都築さんの方が折れちゃいそうです、とはにかみながら言ったことを思い出し、くすくすの苦笑は止まらない。
「ほら、起きる時間だよ」
 朝を告げる透き通った声は、漸く彼女の耳から頭に到達したのか、うぅん、とやっと無反応から微反応へと切り替わる。君は本当に寝相も寝起きも悪いね、と壁についたままの足を下ろしてやれば、もぞ、と腕の中、温もりは縮こまりむにゃむにゃと言い出す。
「起きて」
 寝たら起きない者同士、相性はいいのかもしれないが朝にはそれは致命傷だ。遅刻するようなことはないものの、圭も彼女も、何度か肝を冷やしたことがある。
「プロデューサーさん、朝、だよ」
 ふっ、と彼女が弱い耳元に、圭は息を吹きかける。くすぐったそうに肩を竦めて手で払う仕草はするものの、覚醒度は百を上限として、圭の目から見てもまだ三十程度だ。同じユニットの麗にすら、都築さんに起こされるとなると相当ではないのか、と苦言を呈されたことのある彼女の寝起きの悪さと、普段のきりりと引き締まった彼女とのギャップは、圭にとって愛おしいものではあったのだが、そろそろ起こしてあげないと、という気持ちは圭を、悪戯へと駆り立てた。
「ふぅ……こーら……おー、きー、て?」
「んぅー……?」
 もうそろそろ、僕の話をわかるようになってきたかな?とぎゅっと抱きしめ、圭は圭らしからぬ、にんまりとした悪戯めいた笑みを浮かべて彼女の耳元で囁いてみた。

「おなかがすいてしまったよ、起きてくれるかい?」

 彼女がカッと目を見開いたのと、バッと跳ね起きたのとはほぼ同時で、圭の方もまだ眠気の残る体で、避けきることは難しかった。
「んぁっ!?」
「っ痛……たた…………
「ごっ、ごめな、ごめんなっ、ごめんなすって、あ、ごめんなさい!」
「うぅん……
 ごぢんっ!と派手に鈍い音を響かせて、跳ね起きた彼女の頭と圭の額とはがっつり衝突事故を起こしてしまったのだ。チカチカと星の散る頭を軽く振ってゆっくりと、圭も体を起こして笑う。
「すぐ、すぐ作ります、珍しいですね、え、あの、都築さんご飯、ご飯食べる、何食べたいですか?!」
 口にするものは水くらいなもの、という圭がお腹が空いたというのなら、彼女にとってそれは絶好の、餌付けチャンスだ。健康的なアイドル人生の為にも、たまに訪れるそのチャンスを逃すわけにはいかない、と色めき立つ彼女にふらりともたれかかるようにして、圭はくすくすと笑った。
「嘘をついたばちがあたってしまったようだね」
「え…………?」
「ごめんなさい」
…………ええと」
 起こしてくれてありがとうと言うべきか、ご飯食べないんですかと聞くべきか、彼女は言葉を選びあぐねて、さすっている圭の額を、髪をかきわけて検めてみるが、こぶにもなってはいなさそうだった。
……お、おはよう、ござい、ました」
「っふふ……うん、おはよう」
 眉尻を下げながらもどこか楽しそうに、圭は謝罪を口にする。こうでもしなくちゃ起きてくれないと思ったんだ、と申し訳なさそうな圭を叱ることは、彼女には土台、無理な相談だった。


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