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孤独のヴェルト

全体公開 1483文字
2019-11-05 23:34:36
Posted by @soma_ITzDB

——囲まれている。いや、自分から囲みに入ってしまった、と言うべきだろうか。
視界に映り続ける”それら”は、こちらを強く惹き付け、脳髄を揺さ振って来る。
次元旅団の任務の後、長時間の任務や魔力の行使による疲労と焦燥は、私を随分と蝕んでいる。
焦燥感に押される様に少しぼんやりとする頭のまま、ふらふらと近づいてしまいそうになり……
ぐっ、と拳を握りしめ、耐える。そう。こんな頭で何も考えずに引き込まれてはならない。







——焦るんじゃない、私は腹が減っているだけなんだ







此処は時城市の商業地区、時城グルメストリート。
此処で食べられない物は無いと言われる程の、”食の包囲網”
店の競争も激しく、少なくともハズレは無い。が
だからこそ今食べたい物を冷静に見極める””””眼””””が重要となる。

正直な所、私は普段腹があまり減らない。だが魔法を使えば使ったエネルギー分は当然減る。
そして私の故郷であるライン帝国では、どちらかと言えば昼にしっかり温かい物を食べ
夕食は簡単な物で済ませる事が多い。これは既に故郷を離れて十七年経つが長年の習慣と言う物は変わらない物だ。
とは言え今日は任務中と言う事もあり昼を携行食料で済ませた、ならば夕食を多少豪勢に頂いても良いと言う物だろう。
さて、そう言う訳で今自分が何を食べたいかを考える訳だが……と、考えた所で視界に一つの店が入り込んできた。
……ドイツ料理専門店。店の前に置かれた簡素なメニュー表にはそれなりに親しんだ料理名が並んでいる。
何でも、私の故郷である次元ノルトラインの主要国家ライン魔法帝国は世界を統一した帝国ではあるが
首都近辺の食文化等はガイアで言う所のドイツ料理に近い所が多いと言うのが、私がガイアに来てから学んだ事の一つだ。

……久々に故郷の味に近い物を、と言うのも悪くないか

僅かばかりの郷愁と、そろそろ耐え難い物になって来た空腹。
期待感と共に料理店の扉を開く。中の調度品も実用重視の物が揃っていて中々私好みだ。
食べる物は表のメニュー表で既に決めていた。牛肉の煮込み料理、グーラッシュだ。
ここガイアの日本だと、ハヤシライスが近い料理だろうか。こちらはシチュー料理だが。
それと付け合わせにザワークラウト。はっきり言って面白みの無い定番の料理ではあるが
家庭でも作れる様な温かなシチューにやはり家庭でも良く作られるザワークラウト。

少しばかりの時間を経て来た暖かななそれを、口元へと寄せる。
……やはり、温かい料理と言うのは体内から活力を沸かせてくれる気がする。
私の肉体にそんな物が無いと分かっていても、エネルギーを使った分は補給せねばならないだけだとしても。
食べる、と言う行為は。豊かさの象徴の様な物だ。
柔らかく煮込まれた牛肉とジャガイモの旨味は勿論、付け合わせのザワークラウトも酸味が程良いアクセントになって料理を飽きさせない。


……
………
…………
……………


——非常に満足した。店を出て息を一つ吐くと共に、少しばかり暖まった身体を軽く動かす。
思えば、故郷でここまで食事を楽しんだ事はあっただろうか。
統一国家となるまでの歩み、全ての始まり。そして、十七年前の……


溜息を吐き、静かに歩きだす
……不便さ、あまり感じないけど。ゲートだけは面倒だなあ」

時と空間を操る時使いが、他の皆とトーチホールを使わなければ次元移動もままならないとは。
まあ、それも仕方ない
私は今は”英雄”であって、漂い流れる物では無いのだから。




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