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舞台裏の日常

@erindyll
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2019-11-06 08:26:01

セレスティア開幕卓・前日譚

セレスティア次元
水都セレスティア

■図書聖堂 居住区域

 部屋の四方の壁と天井までもが本棚に埋め尽くされていた。
 魔法で重力場をいじられているのか、床以外蔵書に囲まれたその部屋の宙空には、ロッキングチェアがふわりふわりと浮いている。
 そしてそこに一人の女性が腰を下ろし、椅子と共にふわふわくるくる漂いながら、一冊の書物を読み耽っていた。

 ちりんちりんと音が鳴る。

 それを皮切りに、ちりんちりん、ちりんちりんと最初の音を追うように、部屋のあちこちからか細いベルの音が鳴り響く。
 宙を舞う椅子で読書をしていた女、メアリー・ドローレンスは舌打ちを一つしてページの外に視線をやった。
 部屋の本棚に収められた本のいくつかが背表紙を赤く明滅させている。ベルの音は、その光る本から鳴っているようだ。
 溜息を一つついて、彼女は本から片手を離して指を鳴らそうとする。
 しかしそれよりわずかに早く、部屋の扉がコンコンコンと、丁寧に三度ノックされた。

「構いませんよ」

 落ち着いてるようにもどこか不機嫌なようにも取れる冷静な声は、ベルがりんりんとなり続く部屋の中でもすっとドアの外まで聞こえた。なにか魔法が施されてるのかもしれない。

『ではでは。少々失礼しまして』

 メアリーとは打って変わって柔らかな声で返事を返した人物は、その声色とは正反対の無機質な容姿をしていた。
「どうしました?」
『街の方で、規模の大きな騒ぎがありまして、マリー様のお耳に入れるべきかと』
 錆びた鉄のような色をしている二足歩行の機械人形。並みの男性のゆうに超える高い身長。表情の読めないレンズの瞳。
 セレスティアでゴーレムと呼ばれる、土と魔法によって生まれる機械だ。
 そのゴーレムは『やれやれ、困りましたね』と肩をすくめて言葉の通り困ったようなジェスチャーをする。
 機械の身に似合わぬ人間臭さだった。
「詳細をお願いします、イナバ」
『市街地の方で巨大化した……、トカゲらしき生き物が二足歩行で闊歩しております』
 メアリーはイナバと呼ばれたゴーレムの言葉に、大きく溜息をつきながら天を仰ぐ。
 そしてその手に持った本を面倒臭そうに後ろに放った。その本は床に落ちることなく、空中でくるくると回転してからパタンと閉じられ、自ら本棚へと収まりに飛んで行った。
『闊歩しているだけではありますが、この図書聖堂すら越える全長のため、水路や街路に被害が出ておりますね』
「……ワイドマジックと魔法薬のちゃんぽんと言ったところですか」
『恐らくは』
 メアリーはロッキングチェアから降り、重力のままにすとんと床へ着地する。
『それと、もう一つ問題点が……』
「当ててみせましょう」
 パチンと彼女が指を鳴らすと、部屋を鳴らしていたベルの音がいっせいに止み、赤く明滅していた本もなりを潜めた。
「本日、次元旅団が捕縛した魔道士をプリズンに移送中でしたね。騒ぎに乗じて逃げられた……。違いますか?」
『その通りです』
 ゴーレムの彼は、申し訳なさそうに深く頭を垂れる。
 表情の無い彼だが、所作の一つ一つから感情があるように見えた。
「地下区域中層に侵入者です。件の魔法使いでしょう」
『なるほど。マリー様の方でも察知されたのですね』
「旅団の方に被害は?」
『幸いにして御座いません。逃走した魔法使いも、既に“リング”を三点装着済みで、ほぼ無力化されております』
 あちゃあ、と言ってメアリーはこめかみを抑える。
「魔法を封じられて地下に逃げ込むとか、自殺行為ですか……」
 放っておけば逃走者は死ぬだろうが、そもそも捕まえてこちらに運んで来てる以上、野垂れ死なれては旅団にとってもそう都合の良い話ではないだろう。

 ──なんて頭痛の種が彼女を悩ませていると、ズズンと建物全体が小さく揺れた。

 その揺れで天井に収められた本が一冊が抜け落ち、それはまっすぐメアリーの頭頂部に落ちてスコンと小気味の良い音を立てた。
「ぐえ」
『マリー様!?』
 わたわたと行き場の無い手を彷徨わせながらゴーレムが心配そうに彼女の様子を伺う。
「大丈夫です……。しかし、手が足りませんね。こちらの落ち度なので、こっちの人間でどうにかしたかったのですが……」
 イナバと呼ばれた彼を制しつつ、床に落ちた本を拾う。
「仕方ありません」
 そして先程と同じように本をポイと後方へ放り捨てると、本は勝手に元の場所へと飛んで行く。
「先輩に連絡をしましょう。あちらに手が空いている者がいれば地下への応援をお願いします」
『はい』
「その巨大トカゲとやらは、私たちで片付けますよ」
 コクリとゴーレムが頷く。
「ストーリーテラーの方には、騒ぎに近付かないよう連絡を。街の人は念のため聖堂内に入れて。エルには、彼らに紅茶をお出しするように指示を。それから今の話を春原くんにも連携してください」
『畏まりました。それとマリー様、一点だけ補足が』
 カツカツと歩き出しながら指示を出す彼女に、人間臭いゴーレム、イナバPは表情があれば笑顔であったろう優しい声音で話しかける。
「なんですか?」
『件の巨大トカゲは、妖精たちの間で“ゴジラ”と呼ばれ親しまれているようです。彼らから話を聴く際には参考に──』
「ハァ〜〜!?」
 メアリーは足を止めて、感情を露わに声を上げる。

「まーたガイアの娯楽ですか!? ほんと誰ですか、持ち込んだのは!!」

 これは、
 稀によくある“水の妖精郷”の日常だ。



夜明けの時代5 次元旅団
開幕卓・セレスティア
『地下迷宮逃走劇』



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