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三種類の人たち

全体公開 1353文字
2019-11-06 20:57:54
Posted by @koma_jinro

「この店を訪れるお客さんにはね、三つ種類があるの。」

グラスへ氷を摘まみ入れながら、女は話し始める。
モナ・ネイベル、歳不相応に若々しいバーの女店主は今夜の語る相手を定めたらしく
カウンターの向こうへ腰を下ろし、立ち上がる様子もない。

『へぇ、それはどんな分類何だい?気になるね。』
ついでにそのグラスに何が注がれるのかも気になるな、と話し相手に選ばれた男は軽口を飛ばす。
もっとも、今の店内にいるお客は丸眼鏡を鼻の頭に乗っけたその男と、後はソファの向こうから天井に突き出した脚の持ち主だけだ
如何におしゃべり好きな女店主とは言えども、鼾を相槌に靴の先へ話しかけたくはないだろう。

「まずは。現のことをお酒で流して、夢見心地に浸りたい人。」
「そういう人には、とても優しくて、とても美味しい一杯を。」

幾つかの飲料をシェイカーに注ぎ、小気味よく振り、グラスへ注ぐ。
蒼く、薄暗い店内で白を基調とした服装と、彼女の所作はその一挙手一投足が目を引き付ける

「誰だって、一日の終わりには嫌なことは忘れていたいもの。」
あそこの人は、ちょっと色々忘れすぎたようだけれど。と、ソファの向こうを見て苦笑する、その紅が蒼い空間に一点浮かんでいる。

『そうだね、その点この店はうってつけって訳だ。』
何分静かで、互いの所作が目に入らない程度には薄暗い、おまけにソファの沈みようと言ったら沼みたいだもの。
舌を回し、紅から目を逸らす様に視線を下げれば、グラスに注がれたさわやかな黄色が目に入る。
思わずその黄色を口に含めば、スッキリとした味が口に広がり、喉を滑り落ちていく。
『それで?次はどんな人がここを訪れるんだろう。』

「次はそうね。」
「夢の世界から、目を覚ますための刺激が欲しい人。」
女店主は手持無沙汰に肘をつき、組んだ両手の上に顔を乗せて悪戯っぽく笑う。
「そういう人にはとびっきり刺激的で、とびっきり美味しい一杯をご馳走してあげるの。」

『ああ。フェアリーテラーか、僕も気を付けないとな。』
この世界に魅了され、人の道を踏み外した妖精たちを思う。
『でもさ、店長。彼らがわざわざ図書聖堂を離れてここまで来るのかい?』
心囚われた妖精への成りかけたちは、すべてを忘れ、自らの興味のあることへしか反応しない
わざわざ都市部の、それも入り組んだ路地の奥を目指す道理はあまりないな、と首を傾げる。

「あまり多くはないけれど、それでも時々はやってくるわ。」
「思索のついでに散歩でもしようと思ったのかそれとも、灯りに釣られて迷い込むのか。」
それは知らないけれど、と。入口の向こう、地上の看板を照らす灯りの方へ視線を向ける。

『不思議なこともあるもんだね、と。』
男は腕の時計に目をやり、慌てたように席を立つ
『最後の種類について聞きたかったところだけど、またの機会にお願いすることにするよ。』
慌ただしく勘定を置き、階段を駆け上がっていく男の背中を見送り、店主は残されたグラスをつつく。


「最後はそう。」

———現の人は、夢見心地に浸るために、また訪れる。
———夢見の人は、夢につかる度、覚めるために、また訪れる

「貴方みたいな人。」

———女店主は待ち続ける。灯台を灯して。


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