「取れぬならー、取ってみせよう、その疲れー。寒くて疲れた時は温泉だよねー」
仕事詰まりすぎて疲れたPさんにご褒美あげる想楽くんのお話です。
@toasdm
寒い、疲れた、なにもしたくない。
頭を占めるそれらの負の思考が作業の進行速度を緩慢にし、心はここにあらずといった様子の彼女を見るに見かねて、想楽は背中からぎゅっと抱きついた。
「ねー」
「寒い……疲れた……」
声に出ちゃってるんだよねー、と苦笑しながら、想楽は彼女にすりすりと頬をすり寄せる。疲れた、もうやだ、なにもしたくない、と自暴自棄になる彼女の手から書類とマウスを取り上げて、想楽は休憩を言い渡した。
「おうちに持って帰ってきてまでお仕事するのはいいけど、効率悪いよねー」
「うぅ……したくないんですけど……」
べちゃ、とデスクに潰れた彼女をずるずると引きずって、想楽はソファに腰掛けさせる。お膝使いますかー、とぽんぽん膝をたたいて隣に座り、即座にごろんと転がってきた彼女の額をそっと撫で、想楽は忙殺の頬をつんつんとつついた。
「美人さんが台無しですよー」
「美人さんじゃないから別にいいですー」
「そうかなー?」
美人か可愛いかでいったら可愛いだけど、可愛いのは僕の前だけにしててよねー、とちゃっかり独占欲を表に出しながら、想楽の手はスマートフォンを手繰り寄せる。
「撮影するなら事務所通してくださーい」
「撮影はしませーん」
こういった軽口のやり取りだけでも、彼女の気はいくらか晴れるようだ。漸く緩み始めた彼女の頬を撫でながら、想楽はぽちぽちと、スマートフォンを操作する。
「何してるんですかー……」
「んー、ご褒美、検索かなー」
ご褒美くださーい、とだらしなく伸ばしてきた彼女の手をノールックで取って、想楽はその働き者の指先にそっと口付けを落とす。
「今は私をかまってくださいよー……」
「んーー……」
若者は暇さえあればスマホいじるー、と以前送ったストラップにちょいちょいと、彼女は猫のようにじゃれついて邪魔をしようとする。さっきまで僕のことほっといたの誰ですかー、とくすくす笑いながら何度か画面を操作して、想楽は彼女の顔の前に画面をさっと掲げてみせる。
「………………ん?」
「ふふ」
「んんっ!?」
「うわ、っと……危ないよー急に起き上がらないでー」
思わず跳ね起きた彼女の腹筋のすごさに驚きつつ、想楽は寸でのところで彼女の顔面とスマートフォンの正面衝突事故を回避する。もう一回、ちゃんと見せて、と色めき立つ彼女の肩を優しく引き寄せて、想楽はどうぞ、とまた画面を見せた。
「客室露天風呂、お部屋食、離れのお宿でゆったりプラン……?」
「取れぬならー、取ってみせよう、その疲れー。寒くて疲れた時は温泉だよねー」
画面に映し出されていたのは、二人の休みが重なる次の水曜の宿泊予約完了画面だった。なんで、どうして、何の日、とうまく状況の飲み込めない彼女の興奮した頬に唇を優しく押し当てて、想楽はそのまま、耳元で囁いた。
「夜は疲れちゃうかもしれないけど、ご褒美あるからお仕事頑張ろうねー……?」
ひぇ、と硬直した彼女をよいしょと抱えて膝に乗せ、向かい合わせに座りながら想楽はにんまりと笑みを浮かべる。
「ご褒美あった方が頑張れるでしょー?」
「そ、です、けどあの」
「僕もちょうどご褒美ほしかったんだよねー」
ありがたいことに、ここ最近想楽の仕事は増える一方で、確かに疲れていてもおかしくはないと思ったが、想楽の言うご褒美がなんなのか、先ほどの囁きでうっすらと透けて見えたそれにあわあわと慌てる。
「一緒にお風呂入ってー、ご飯食べてー、それから」
「具体的に言わないでください!!」
「っふふ、そっかー」
彼女に意図が伝わっていることに満足したのか、想楽はそれ以上は何も言わずにぎゅっと彼女を抱きしめる。お仕事もうひと頑張り、水曜までには終わるよね、と笑顔で圧力をかけてくる想楽の行動力に舌を巻きながら、彼女は言葉を飲み込み頷く。
これじゃどっちのご褒美かわからない、の一言は、黙っておく方が賢明だと思ったのだ。