@toasdm
「は……?」
「いえ、ですから、昨日で三十二歳になりました、と」
虚を突かれた雨彦の表情は珍しかった。嘘だろ、と呟く声の調子も珍しく、彼女は思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、何歳だと思ってたんですか?」
「そういや気にしたことはなかったが……少なくとも、俺より下だと思ってたぜ」
「下っていっても、たかだか二歳なんてこの齢になったら誤差みたいなもんじゃないですか」
「そういや、そうか……」
納得度合いは半分程度だろうか、雨彦はしげしげと、彼女を見つめる。やはりどう見ても、自分より上には見えなかったし、見た目のエネルギッシュさからいって、二十代前半程度だと思っていた雨彦の勘違いは仕方ないのかもしれない。
「俺は、お前さんの年齢も誕生日も知らなかったんだな……」
「そりゃ、年齢や誕生日と一緒に仕事してるわけじゃないですからね」
苦笑する彼女について、自分はあまりにも知らなさすぎた。雨彦の中で入道雲のように、むくむくと、彼女に対する興味が沸き起こる。
「お前さん」
それは恋とも好意とも呼べないような、注意を向けなければそれこそ雲のように消えてしまうような、そんな感情だった。
「はい?」
「遅れちまったが、誕生祝でもさせてくれよ。晩飯、一緒にどうだい?」
それでも、雨彦にとってなにかきっかけになるような、そんな直感が働いて、思わず声をかけていた。
「お気遣いは無用です、と言いたいところですけど――…」
そして。
「一人ご飯も寂しいですから、ありがたくご一緒させていただきますよ」
彼女が独り身であることを知り、誘いを受けてくれたことがこんなに嬉しいと思う自分がいることも、雨彦は知らなかった。
彼女の色好い返事を受け、待ち合わせの時間をスケジュールに入力してから雨彦は、サプライズでケーキを出してくれる店をネット予約サイトで必死で探していた。