@toasdm
聴きたかったCDは先週来た時には先に誰かが借りていて、人気があるのはいいことだ、と半ば負け惜しみのように諦めた心の広さを、神様はみていてくれたのかもしれない。レンタルショップの棚の中ほどより上にあるそれを見つけて、彼女は内心小躍りをした。
棚の中ほどより上、というのはつまり、背の低い彼女にとっては、踏み台のいる、若干手の届かない領域だ。しかし彼女はあくまでもポジティブに、踏み台があれば届く場所、と捉えている。さてどこだろうか、ときょろきょろ辺りを見回していると、ぬ、と目の前の棚に影が落ちる。
「見えるかい?」
「む……」
出たな妖怪セイタカノッポ、と胸で悪態をつきながら、彼女は見下ろしてくる影をぎっと睨んだ。かたや百九十一センチ、かたや百四十一センチ。五十センチの敗北感は、踏み台ひとつでは埋まりそうにもない。しかし生来の負けん気の強さは、その敗北感をもろともしないのだ。
「見えますよ!」
そうかい、と苦笑する雨彦は、届かないなら抱っこしてやるぜ、とさらにからかいを重ねてくる。葛之葉さんなんか嫌いだもん、とにやけ顔からふいと顔を背けて、彼女は棚の端にあった踏み台へと歩き出す。
「踏み台があれば届きます」
「これかい?」
そう言って雨彦が彼女に差し出したのは、踏み台ではなく今まさに、彼女が借りようとしていたCDだった。
なんで、わかるんですか……!?
一瞬、顔に出てしまったかもしれない、と慌ててとりつくろって、彼女はどうも、とそれをひったくるように受け取った。
「目を見りゃわかるさ」
「そんな上からでよく見えますね!」
お前さん気が強いなぁ、と苦笑する余裕すらも、彼女は気に入らない。葛之葉さんの馬鹿!と本日二回目の悪態を胸のう内でついてから、彼女はふ、と足元の棚を見る。
「葛之葉さんはこれですよね!」
さっとしゃがんでぱっと適当に、彼女は「どうよう・キッズソング」の棚から一枚取って雨彦にぐいっと押し付ける。そんな子供みたいなからかい方する葛之葉さんには、そういうのがお似合いですよ、という彼女なりの仕返しだ。
「ああ、お前さんよくわかったな。なんせ俺には下過ぎて見えなかったもんでなぁ、助かったよ」
「っ……!」
その余裕、ほんっっっっと腹たつ!と怒りを顔面いっぱいに広げた彼女の頭を、雨彦はぽんぽんとなでてやる。
「子ども扱いしないでください!」
「お前さんだって俺を子供扱いしてるだろう」
いいCDだな、ぴったりだ、と雨彦が検めているCDは、ちょうど時期柄にぴったりの、子供向けクリスマスソング集のようだ。赤と緑のパッケージがシーズンムードを漂わせていて、そういえばもう、そんな季節か、と彼女は店の入り口で見た気の早いクリスマスツリーを思い出す。
「あと六回日曜が来たら、今年ももう終わりだな」
「……年の瀬は仕事いっぱい詰まってますからね」
「はは、ほどほどで頼むよ」
「デートの約束でもあるんですか、残念でしたね!」
「ラッキーだったな、お前さんのために空けてある」
「では仕事とってきますね!!」
軽口の応酬はどこからどうみても、どちらも子供のようだった。相変わらずにやついたままの雨彦を無視して鼻息も荒く、彼女はカウンターでレンタルの手続きを取る。
「こいつも一緒に頼むよ」
「なんで葛之葉さんの分まで」
「一緒に聴こうぜ、帰りは送ってやるさ」
「けっこーです!」
そんな風に言い返してくる彼女をからかうのが、雨彦の日常になっているのは否めない。それでも、彼女は雨彦のことを心底毛嫌いしているわけではない。
「何日ですか?」
「日帰りで!」
「一日で聴くのか……ま、頑張るさ」
カウンターに置かれたクリスマスソングのCDも一緒にレンタルするのはつまり、そういうことだ。