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[夏P♀]10年間

全体公開 1239文字
2019-11-21 12:09:49

「もうすぐ……奥さん、に……なるから……そしたら、もう」
夏来君27歳、来年の春Pさんと挙式予定の朝のお話です。

Posted by @toasdm

 寝て起きて、目が覚めて、鼻の頭が冷えていないこと。
 カーテンを開けて、外が白くないこと。
 夏来が北海道を出て最初の十一月は、そんな些細な驚きの連続だった。
……おはよう、プロデューサーさん」
「ん……っふ、んん……
 布団の中で丸まっている彼女は、猫のようだと夏来は思う。起きて、と揺さぶって漸くミリ単位で開いた瞼の隙間から差し込む光は、夏来のいた北海道ではもっと強い白だった。冬が白くないことにも、目が覚めて一番最初に最愛の人がいる幸せにも、すっかり慣れた夏来は来年の春、彼女と式を挙げる予定だ。
「まだ……
「だめ」
「ん、ちがう……
 なにが違うのか首を傾げて、夏来は彼女の布団を無慈悲に剥ぎ取る。ひゃあ、と情けない声を上げてより一層縮こまる彼女の体を、今度は布団の代わりに夏来が、のしっと覆いかぶさった。
「まだ、なまえで、よんでくれないの?」
 もう結婚するのに、ともごもご言う彼女は、夏来の下で半潰れになって呻く。出会ってから今まで、夏来は彼女の下の名前よりもまだ、プロデューサーさんと呼ぶ期間の方が長いくらいだった。不満げな彼女の抗議の目線に、夏来はしかし悠々と、にっこり微笑んで頬に頬をすり寄せる。
「うん……まだ、もう少し」
「なんでぇ……
 呼んでくれないなら起きない、といじけた彼女は夏来に抱きつく。
「だめ」
「やぁ、だ」
「起きて……
 ちゅ、と軽く触れた唇も、すりすりと擦り合わせた鼻も、愛しさを乗せた肌と肌とは触れ合って、寒さの方が逆に遠慮をするような暖かさだ。時間の流れですっかり馴染んだ温もりを抱きしめて、夏来は、すり、と彼女に、甘えるように頬をすりつける。
「もうすぐ……奥さん、に……なるから……そしたら、もう」
「んぅ……
 くすぐったさに身を捩る彼女が、包み込んで覗き込む夏来の顔を見上げる。愛しさを紡ぐように、一文字ずつ、はっきりと。夏来の唇は、プロデューサーさん、と彼女を呼ぶ。

「俺たちの、始まりの……呼び名、だから……呼べなくなる、前に……心残り、しないように、呼んでおきたい」

 ひゅ、と鋭く息を吸い込んで、彼女は目を見開いた。穏やかな笑みがもう一度、プロデューサーさん、と暖かく呼ぶ。
「榊になったら、下の名前で……ちゃんと、呼ぶから」
 残りの人生はきっと、彼女のことを外で呼ぶよりも、家で呼ぶ方が多くなる。始まりの呼び名を大切にしたいと願う夏来の心を、彼女もまた大切にしたいと、自然に思えた。

 心残りのないように、自分たちのあり方を。

 出会った頃は高校生だった夏来は、体はもちろん心や愛情まで、しっかり大きくなったようで彼女は嬉しくなる。そんな風に言われたんじゃ、私どうしようもないですね、とくすくす笑い、彼女は夏来に思いっきり抱きついてからむくりとベッドで起き上がる。差し出された手を握れば、頼もしく力強く、夏来は彼女を引き起こす。朝の始まりにキスをして、二人はベッドルームを後にした。


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