X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[雨P♀]おやすみの読み聞かせ

全体公開 1553文字
2019-11-21 12:51:59

「ねむれないのか」
ちょっと寝付けないPさんに絵本を読み聞かせして寝かしつけてあげる雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 ふわふわと、意識ばかりが夜を漂う。目が冴えて、頭も冴えて、眠りはどこか、遠い場所にあるようだ。事務所においてきちゃったかな、帰りの電車で忘れちゃったかも、交番に届いてたりしないかな、と迷走する思考はまとまりがなく、さりとて眠れるような気配もない。眠れない時にベッドいるのは得策ではない、と、確か昔、ネットニュースの記事かなんかで読んだ気がする、と彼女はもそもそと、隣で寝ている雨彦を起こさぬようそっと抜け出した。
 はず、だったのだが。
「どこいくんだい?」
「ぁ」
 ごめんなさい、と引き止められた手首に、彼女はびくりと肩を揺らした。この男を起こさないようにベッドから抜け出すような芸当など、自分にはそういえば、到底できっこなかったのだということを痛感させられて、それと同時に、嘘もまるっとお見通しだということも思い出す。
「ねむれないのか」
「はい……ちょっと、なにか温かいものでも」
「ふとるぞ」
「うぐ」
 彼女の言う「温かいもの」が、砂糖たっぷりのミルクココアを指していることなど、雨彦にはお見通しだ。それ言わないでぇ、と顔を覆った彼女の後ろで、雨彦はむくりと上体を起こしてブランケットを引き寄せる。
「冷えるだろう、ほら」
「ん、ありがとうございます」
「んっ……は、ぁ」
 軽くのびをした雨彦は眠い目をこすりこすり、彼女の隣に腰掛ける。冷えるな、とカーテン越しの窓の向こうが、雨彦にはもしかしたら、見えているのかもしれない。北国では雪の便りもあったと聞いたが、そろそろこちらにも、冬が降りてくる時候だろうか。フローリングの床にぺたりとつけた足の裏から、ひんやりと、その知らせを感じるようで、彼女はぶるりと身震いをした。
「眠れないなら」
 すっかり覚醒した口調の雨彦は、すっと立ち上がりバッグをがさごそとやっている。なんだろう、と訝しむ彼女の隣に戻ってくると、雨彦はベッドサイドのライトをオンにしてまたベッドに転がって、隣をぽんぽん、と叩いて彼女を招く。
「なぁに?」
「眠れないお前さんにはこいつが効くかと思ってね」
 ブランケットを羽織ったままの彼女を寝かせて、雨彦は肘枕で横向きになる。片手でひらひらとやって見せたのは、ふんわりとしたパステル画の三日月が描かれた一冊の絵本だった。
「絵本……?」
「懐かしいだろう?」
 片手でぱらりと表紙をめくると、雨彦はゆっくりとした、落ち着いたトーンで語りかけるように読み始めた。
「三日月の浮かぶ空に、きらきら。きらきら……
 優しい声と、程よい明るさ。声のゆりかごが彼女の全てを、あるべき眠りの場所へとゆっくり誘う。
「ここは、あったかくて、優しくて……眠るには、ぴったりだ」
 雨彦の声の手が、彼女の胸を優しくトントンと叩いている。雨彦の声の手が、彼女のまぶたをゆっくりと閉じさせる。
「ぁふ…………
「ねえ、起きたら、何をしようか?」
 ぼんやりとした視界に、三日月が語りかけてくる。ぱら、とページを繰る音すらも、彼女の頭をゆっくりと、おやすみモードへと導いていく。
「そう、いいこだね。おやすみ」
…………ぅん……
 最後のページを読み終えて、ふ、と雨彦が彼女の顔へと目線を落とせば、すっかり落ち着いて規則正しい寝息を立てる、彼女のあどけない寝顔がそこにあった。
……お前さんはいい子だな」
 眠る頬に唇を寄せて、ぱたん、と雨彦は絵本を閉じた。

「おやすみ」

 パチンとライトをオフにして、絵本を脇へと置く。彼女に優しく布団を掛けなおしてから、雨彦もまた、同じ布団に潜って目を閉じる。
 おやすみの読み聞かせは無事成功、と小さな満足に胸をくすぐられながら、彼女の手をそっと握った雨彦は、小さなあくびと一緒に夢へと赴いた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.