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Harmonize〜女学生の観察記 Part.6〜

全体公開 3443文字
2019-11-21 20:38:45

これから始まる、私の恋物語。
真倫の図書館物語、第6話。
譲司書ラブストーリーです。

Posted by @natsu_luv

私が特務司書に就任して、もう三年の月日が経った。
新たな有碍書の浄化も無事に終わらせ、新たな先生もお迎えすることができた。
今回迎えることができた文豪は松岡譲、夏目先生のお弟子さんのひとりでもある作家だ。
譲さんは最初の方こそ緊張していたけれど、だんだんとこの図書館にも慣れてきたみたいだ。

季節が少しずつ冬へと近付いている。
特に朝晩はぐっと冷え込むことが多くなった。
今日のこの日も、相変わらず私は特務司書の仕事に追われていた。
時計の針が三時を指している。
私はひと息つくために、食堂のキッチンで紅茶とお菓子の準備を始めた。
ちょうど譲さんと寛さん、有三さんも一緒だ。
私はお盆に紅茶とケーキを載せて、三人が待つテーブルへと運んだ。

「みんな、お待たせ!」
「おお、サンキューな」
「今日の紅茶とお菓子はとびっきりのものだよ」

お菓子は苺と紅茶のショートケーキ、紅茶は後輩の鈴が勧めてくれた代物だ。
紅茶とケーキを目の前に出された譲さんたちは、すっかり顔を綻ばせていた。

「ありがとうございます。この香りは……苺とアールグレイですか?」
「ご名答! 姫いちごっていう名前の紅茶さ」
「可愛らしい名前だね。さぁ、頂こうか」

仕事の合間のお茶会が始まった。
ショートケーキはスポンジ生地に紅茶が使われていて、芳醇な香りが口に広がる。
そこに苺の甘酸っぱさが入り混じり、上品な味わいを演出してくれる。
苺とアールグレイの紅茶にもぴったりだ。

「美味しいですね。この紅茶に使われてる茶葉も高級なものですね」
「おい、マジかよ!」
「そうなのか! 私も知らなかった……
「甘みと渋みがちょうど良くて、香り付けの香料も天然由来のものですね」
「アンタ、さすがだね……

譲さんの鋭い味覚に私達は完全に目を丸くしていた。
そんな私達を差し置いて、譲さんは綿飴みたいな笑顔でお茶菓子を堪能していた。
三時のおやつ休憩が終わってからは、それぞれの仕事に戻った。
私は報告書の作成に取り掛かった。
端末に報告書の内容を打ち込んでいた時、司書室の呼び鈴が鳴った。
入るように申し伝えると、今日の助手である譲さんが顔を出した。

「司書さん、先程は美味しい紅茶とお菓子をありがとうございました」
「どういたしまして。喜んでもらえて良かったよ」
「貴方にお礼を持って参りました。こちらを受け取ってください」

譲さんが茶色い封筒を私の目の前に差し出した。
中身を見てみると、オーケストラのコンサートチケットが入っていた。
しかも、有名な交響楽団のコンサートである。
どうやってチケットを入手したのだろうか。
少し気になりながらも、私は譲さんにお礼を言った。

「譲さん、ありがとう。良い息抜きになりそうだよ」
「嬉しいです。よろしければ、僕とご一緒しませんか?」
「いいねぇ。では、お言葉に甘えて」
「良かったです。楽しみにしてますね」

譲さんはにこやかな表情で司書室を後にした。
コンサートの日時は次の休館日。
二人きりで行くので、今から少し緊張している。
カレンダーにもコンサートの予定を書いておいた。
近いうちのお楽しみが増えたと思いながら、私は仕事を再開した。



オーケストラコンサートの当日になった。
外は冷たい風が吹いているけれど、雲間から射し込む陽の光は温かい。
私は紫色の着物を着て、コンサートへ向かう準備を進めていた。
司書室を出ると、廊下に有三さんがいた。

「おや、綺麗だね」
「ありがとう。とっておきの着物なんだ」
「そういえば、今日は譲とコンサートに行くって言ってたね」
「その通りだよ」
「アンタのおかげで、譲の笑顔が増えたんだよ。さぁ、楽しんでおいで」

有三さんに見送られ、私は譲さんの待つエントランスへと向かった。
エントランスにたどり着くと、譲さんが温かく迎えてくれた。
物腰柔らかな微笑みは相変わらずといったところだ。

「譲さん、お待たせ!」
「お待ちしておりました。さぁ、参りましょう」

エントランスを出ると、太陽が燦々と輝いていた。
空気は冷たいけれど、陽の光のおかげで幾分か寒さは和らいでいる。
コンサート会場まではさほど遠くないので、並んで歩いて向かうことにした。
男の人と並んで歩く機会は多少なりともあったけれど、何だか今回は妙に照れくさい。
まるで、デートしているかのように見えるからなのだろうか。
頭の中で思考を巡らせそうになっていたところに、譲さんが話しかけてきた。

「コンサートまでまだ時間がありますから、温かい紅茶でも一緒に飲みませんか?」
「そうだね。確か、近くに喫茶店があったような……
「久米と観劇に行った時に見つけたカフェがあるんです。貴方にもそのお店のロイヤルミルクティーを飲んで頂きたくて」
「久米さんと行ったのか。それは楽しみだね」

譲さんに連れられて入った喫茶店は、英国風の洒落たお店だった。
少し待つと、ロイヤルミルクティーがお出ましになった。
茶葉の香りがふんわりと立ち込め、そっと鼻を掠める。

「美味しい……!」
「気に入っていただけて何よりです。僕も初めて飲んだ時には感銘を受けました」
「私もこんなに美味しいロイヤルミルクティーは初めて飲んだよ。教えてくれてありがとう」

落ち着いた空間で、私は心ゆくまで濃厚なロイヤルミルクティーを堪能した。
実に贅沢なひと時を譲さんと一緒に過ごした。
お店を出て、私達はコンサート会場へと足を運んだ。
人気の交響楽団の演奏会だからか、会場内が人で賑わっている。
ちょうど見晴らしの良い席が空いていたので、そこに並んで座ることにした。
次第に会場の照明が暗くなってきた。
コンサートの幕が上がる。

指揮者のタクトが振られた瞬間、華々しい音楽の世界が広がっていった。
重厚なチェロとコントラバスの音が地を這うように鳴り響き、その上にバイオリンとヴィオラが奏でる旋律が重なり合っていく。
管楽器の演奏も弦楽器が織り成す音の世界に花を添えている。

「「綺麗だ……」」

私達の声までもがハーモニーを奏でてしまった。
それに気付いた譲さんは、少し顔を赤らめていた。
完全に音楽の魔法にかかってしまった。
広々としたホールが一気に鮮やかな世界と化していた。
曲が変わるごとに、世界も変わっていく。
軽やかな曲には爽やかな風の吹く草原、重厚な曲だと礼拝堂といったところか。
魔法が解けるまで、私達は一曲ごとに違った世界を楽しんでいた。



コンサートがフィナーレを迎えた。
いつだって時が経つのは早い。
会場を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
クリスマスが近いからか、イルミネーションがきらきらと輝いている。
ホールから少し離れた場所で、譲さんが立ち止まった。
そして、私の方をじっと見つめて語りかけてきた。

「真倫さん、貴方にお伝えしたいことがあるんです」
「いきなりどうしたんだい?」

譲さんは真剣な表情を浮かべている。
この後に続く言葉は一体何なのだろうか。
男の人が真剣になって話すことといえば……まさかそんなはずはないだろう。
私は続きを待ちながら、譲さんの目を覗き込んでいた。

「真倫さん、貴方のことが好きです。これからも貴方と一緒に大切な時間を過ごしたい……そう思っております」
「譲さん……!」
「驚かせてしまって申し訳ございません。あっ、答えは急いでおりませんから」
「何言ってるんだよ! 嬉しいに決まってるじゃないか……

顔から火が出そうになりながら、私は譲さんの手を取った。
「嬉しい」という言葉を聞いた譲さんの表情が一気に綻んだ。
私の手を優しく握り返して、少年のような眩しい笑顔を浮かべている。

「ありがとうございます。今生の僕は幸せ者ですね」
「驚いたのは本当なんだ。今までこういうこと言われたことなかったからさ。だからこそ、すごく嬉しいんだ」

私の顔も花のように綻んだ。
外の空気は乾いていて冷たい。
だけど、握った手からの温もりは、ひと際暖かかった。
手を繋いで、私達は図書館の方へ歩き出した。
心の中でふたりの恋路にふさわしい唄を奏でながら、笑顔で歩いた。
一緒に過ごす日々の中でハーモニーを創り出して、メロディを奏でて生きていこう。
心の中で誓いを立てながら、私は足を進めた。


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