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贈り物

全体公開 2888文字
2019-11-25 13:16:19

紅い宝石の指輪したエッちゃんが書きたかった。

Posted by @acbh_dmc4

昔、導師から真っ赤な石のついた指輪を贈られたことがある。
大きめの深い赤のルビーが金に縁どられて存在感を主張する豪華な指輪。
それは教団の活動資金のために大分前に売り払ってしまったが、かなりの金額となり驚いた。

確か、あの男がローマの貴族が集まるパーティーだかに、潜入調査をした後に貰ったような気がする。
男曰く俺が金に困るとき、金策として持っていればいいと、ぶっきら棒に差し出された指輪。
確かに過去に大きな金が要りようになった時、その指輪の金で難を逃れたことがあった。
あれがなければ金を作るため、方々駆け回る必要があっただろう。


そんなことを目の前の男から差し出された箱を開けて思い出した。
豪華な小箱に収められた血の様に赤い大粒のルビーの指輪。
以前手放した嘗ての指輪が再度己の手の中に戻り、思わず唸った。

この男は、俺に贈ったこの指輪を単に横流ししただけで、当時は俺に渡したことに何の意味もなかったのだ。
それどころか、忌々しいこれを処分する先として俺を選んだに過ぎない。要はゴミ箱だ。

「何のつもりだ」
「そろそろ必要になるだろうと思ったのだ。ボルジア兵がうようよ警備しているパーティーに参加するなら、その指の印は不利になる」
「それで?指輪とこの衣装をわざわざ用意してくれたと?」
「今、それ程お前の財布は芳しくないだろう?なんせ全財産を失ってそれ程経ってない。お前にとっては渡りに船と言うものだ」

しゃあしゃあと言ってのける男の顔は緩み切っている。
何が嬉しくてそんなにニヤついているのかと苛っときた。
確かに衣服や装飾品の出費は痛いかもしれないが、施しを受けるほど落ちてはいない。
腹立たしく男を睨みつけると、肩を竦めて仕方がないと言わんばかりに弁解した。

「別にお前がこの程度の金を出せない等とは思っていないが、なんせ急だろう?
それに私が用意しようとお前が用意しようと同じじゃないか。ただそれが未来か現在かの違いであって」
この指輪には覚えがある。まさか横流しした物とはな」
「とはいえ、この贈り物には私の愛が込められている」
「下心の間違いではないか?」
「ああ、本当に。贈ったこの服を脱がせる機会がないことだけが口惜しい」

わざと大げさにしょげて見せるポーズをとる導師に、本格的に腹が立って蹴りを入れる。
俺の黄金の右足が男の急所を捕らえる前に、ひらりと身を翻すとその流れる動作のまま箱と左手を取られて教団の焼き印を大きな指輪に隠された。
その早業に我ながら呆れると同時に、指を飾る赤い指輪を呆然と見下ろした。

初めて男に物を贈られた、青年の頃に感じたような感情は一つとてない。
それどころか、この指輪の出自を知って益々心が白けてしまった。

「俺は本気でアンタの事なんてこれっぽっちも愛していないと思い知ったよ。よってこれも嬉しくない」
「それはちょっと違うな。お前は私に腹を立てて拗ねてるだけで、本当は愛しているし、私に愛されたいと思っているとも」
「それはアンタの願望だろう!在りもしないことをほざくな!」

指輪を外して投げつけてやろうと指に手をかける。
その直前で左手の指をわし掴まれて、指輪を外すのを阻まれた挙句、右手を彼の手に絡め捕られて足払いを掛けられた。
ボフリと寝椅子に強制的に押し倒されて、男に圧し掛かられてしまった。
目の前の男は得意げな顔をしながら、俺の左手を取って、自らつけた指輪に口づける。
当然様になっているその姿に、見惚れかけて舌打ちをした。

「私の気持ちだ。これは、お前の事を考えてちゃんと選んだ指輪だ」
「あの時適当な気持ちで渡したくせに!」
「そんなことはない。あの時だってお前の為になると思って渡したのだ。実際助かったしな。
勿論お前はこれを彼に渡さなくたっていい。寧ろ私はそうしてくれることを望んでいる」

今度は掌に口づけられる。
切なそうに目を伏せて、窺うように俺を見つめた。
その視線が時折俺に見せる青年のような表情で、チクリと胸が疼いた。
ああ、こんな指輪を持っていても碌なことはない。
それは俺が未来から自分の時代に戻った後に嫌と言う程味わった想いだ。

アンタは何のつもりでこれを俺に渡したのだろう、と。
淡い希望を持っていた。愛されていたらいいと、俺に少しでも思いがあったのだと。
だが何の感情もなかった。何もなかったんだ。それなのに。

「本当に大切に選んだのだ。何もなかったわけではない」

俺の心に被せる様に男が俺に囁きかける。
この男は狡い。
いつだって人の心を掻きまわして傷つけて、まるで悪魔の様に酷い男だ。
そんな男から優しく口づけられて、甘く苦しい時間を過ごした。


***


パーティーでは煌びやかな衣装に人目を引いてしまい、内心で冷や汗と導師に対する文句を連ねていたが、俺の身なりの上等さを気に入った枢機卿や貴族連中が、口を軽くしてくれたおかげで随分とやりやすかった。
流石欲望の権化、ボルジアが噛んでいるパーティーだけあり、派手さを好む連中ばかりで感謝した。

マキャベリや狐に事の報告を済ませて宿へと帰る。
いつも通り置いて行かれた事に腹を立てた青年が、そっぽを向いて抗議のようなものをしていた。

ホッと息を吐いて着替えをする。
ローブを解いて夜着に袖を通すと、僅かに袖が指輪に引っかかった。
まだこれをしたままだったかと、指輪を外す。
すると、抗議を諦めた青年が俺の手にある指輪を見て、どうしたのだと問うてきた。
嘗ては珍しくもなかった大きな装飾の指輪だが、アサシンとなってからは殆ど無縁だ。

昔はそれなりにこういった装飾具にも興味があり、女性に贈ったり自分に誂えたりしたものだ。
少しだけ羨ましそうに見つめられ、思わず青年の手を取っていた。

土産だ。やる」

するりと指輪を青年の指に飾ってやれば、青年は驚きに赤い指輪を見つめて、そして嬉しそうな、俺の真意を測りかねて困惑するような顔をした。
まじまじと自分の手の指輪を見詰めて、何故か頬を染めて戸惑い気味に俺に問うた。

その、なんで左手の薬指なんだよ

言った瞬間に自分の言葉に照れたのか、途端に顔を真っ赤に染め上げた。
その姿をみて、一気に罪悪感が心を引っ掻く。
何の気なしに、導師にやられたように彼の手に指輪を嵌めてしまったが、彼にとっては阿呆らしい誤解を誘ってしまっていることに気が付いたのだ。

「アサシンの証だ。それと、それは売るなり好きにしろ。多少は足しになる筈だ」
……わ、わかった」

青年が大切そうに左手を握る。
キラキラと目を輝かせたかと思えば、俺の視線に気が付いて何でもない風を装う。余程嬉しかったのか頬や耳が真っ赤だった。
感情を隠すのがまだ得意ではない青年の姿が今の俺には荷が重い。
ズキズキと襲う、心の痛みに思わず頭を抱えたが後の祭りだ。

せめて次彼に何かを渡す時は、ちゃんと彼に向き合ったものを渡そう、と心に深く誓ったのだった。


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