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[雨P♀]ストーカー/前編

全体公開 1 1746文字
2019-11-27 12:52:01

「葛之葉……お前さん、ふざけてるのかい?」
「いいえ、お疲れ様です、山村さん」
ストーカーにストーキングされているPさんを雨彦さんが機転を利かせて助けてあげるお話(前編)です。

Posted by @toasdm

「そうかい、わかった。話あわせてくれ」
「はい……
 電話口の震える声はその一言で、幾分落ち着いたように聞こえた。車のキーをさっと手に取った雨彦は玄関でブーツを履き、肩と耳とで電話をはさんだまま話を続けた。
「一人なんだな?」
「そうです」
「家の近くか」
「はい」
 たまたま連絡をしようと思ったのはもしかしたら、虫の知らせだったのかもしれない。その虫には今度感謝してやろう、と落ち着いた口調のまま、雨彦は少しでも情報を求める。
「相手は複数かい?」
「いえ」
「一人、か……前から異常はあったのかい?」
「そうですね……はい、どちらかといえば、そうかもしれません」

 雨彦の質問が多いのは、彼女からの電話が開口一番「はい、葛之葉です」と出たのが原因だった。

「葛之葉……お前さん、ふざけてるのかい?」
「いいえ、お疲れ様です、山村さん」
…………お前さん、今、外かい?」
「はぁっ……そう、です」
 今にも泣き出しそうな声の彼女のため息から、雨彦は彼女が置かれている状況をすぐさま推察する。
 葛之葉です、と電話に出たのは、彼女の名前を、そこにいる誰かに知られたくなかったのと、雨彦ならその異常事態に気づいてくれるかもしれないという彼女の知略だったのだろう。実際雨彦は瞬時にそれを理解して、彼女をその状況から救い出すべくすぐに行動に出た。

「今、自分の名前を出したくなくて、一人で歩いて帰っていて、誰かにつけられてるってことであってるかい」
「はい、そうです」
「家の前はちゃんと通り過ぎたかい?」
「いえ、まだです。確か来週締め切りだったかと」
「お前さんは賢いな……いい子だ、今から迎えに行くから安心してくれ」
……っはい」
 話をあわせられるだけの冷静さは彼女にはまだあって、落ち着かせることもできた。雨彦にできることはといえば、できるだけ安全な場所に彼女を誘導しながらすぐに迎えに行くことだ。ぎゅ、と電話を握り締め、雨彦は頭の中に彼女の最寄り駅から彼女のアパートまでの地図を描き出す。
「ハンズフリーに切り替える、今から車で拾いに行くが、そこは人通りがほとんどないだろう」
「そうですね、はい」
 素早くハンズフリー通話に切り替えると、雨彦はエンジンをかけてアクセルを踏む。最寄り駅からまっすぐ帰れば十五分ほどで自宅に着くだろうが、今彼女がいる場所がいまいちうまくつかめない。焦りを押さえ込んで、雨彦は頭をフル回転させた。
「さっき、駅の近くの踏み切りの音が聞こえたが、駅からお前さんの足で五分くらいの場所だろう。確か近くに小学校がある」
「っそう、です」
 わかってくれた、という安心感で、声音は更に明るくなる。いいぜ、その調子だ、と場所を絞り込んで、雨彦は器用に運転と通話とを続けた。
「小学校は過ぎたかい?」
「そうですね、ちょうど昨日」
 昨日、ってことはついさっきか、と彼女のいる場所を特定しつつ、さらに人気の多い場所を探す。
「その先、お前さんの家とは反対方向に向かったら比較的一軒家の多いエリアがあるな」
……なるほど、でしたらそちらへ」
「いい子だ」
 一軒家の多いエリアなら、在宅している家族も多く、もし万が一彼女になにかがあっても大丈夫だろう、と判断して、雨彦は彼女をそこへと誘導する。
「もう一度、お願いします」
「ん?」
 ぐす、と電話口で鼻をすする音がして、雨彦は彼女の涙を知り苦々しさで顔をしかめた。ここから十五分の距離だというのに、その十五分が雨彦にも彼女にも、永遠ほどの長さに感じられる。胸が軋む音を自分の内側で聞いて、雨彦は、そのもう一度におまけをつけて彼女に手渡した。

「いい子だ。お前さんはいい子だよ」

 泣いてくれるなよ。十二分以内に迎えにいく、そこならまだ人気はあるはずだぜ。
 そんな思いを込めた雨彦の言葉に、彼女はふぅ、とため息を漏らす。彼女を付け狙うなにかの正体も気にはなったが、まずは彼女を保護することが先決だ。
 頭の地図に目的地を設定して、雨彦はできるだけ彼女を落ち着かせるような声音で話しかけながら車を走らせる。

 轢き殺してやろうか、と思うような人影を追い越したその先で、雨彦は震える彼女を拾い上げた。


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