@satomi8429
「興味ありますわ」
片方だけ立てた膝にがっしりと筋肉のついた前腕を預けたまま、頬の傷を歪ませて男がにやりと笑った。無骨な手のひらにちょんと収まった、ひらべったい白磁の盃、その中で揺れる透明な液体。
「井宿はんから見た幻狼てのに」
たいして減っていない自分の盃に酒を注ぎ足しながら男が言う。
副頭と言っていたが、頭であるところの翼宿よりよほど組織の頭領らしさを備えているように思う。頭の回転が速く、瞬時の判断で動くことができ、統率力もありそうな。なにより、なにものも見逃すまいとした鋭い目つきには、こちらが首をすくめたくなるような、見透かされているような気持ちにさせられる。翼宿の熱く燃えさかる炎とはまったく別の、高すぎる温度のためにかえって青白く見える炎が宿る瞳だ。
「別に」
目を酒に落として呟くが、男は追及の手を緩めない。
「またまた。自分のガキのこと話すみたいやったで、さっき」
「そりゃあ、ようやく思春期を突破したとは言ったけれど」
「ほらやっぱり」
井宿はんかて、この子守りはよう骨が折れる思うとったでしょ。
そう言った男の顔は呆れながらも微笑ましさを隠せない、といった態で、井宿はつい噴き出してしまった。男のほうこそ、まるで保護者だ。
「…親は子どもに教えることより、子どもから教わることのほうが多いのだ」
井宿は酒器を取り、男の盃に酒を注いだ。もらえば断りはしないが自分から注ぐこともしなかった井宿の行動に男が驚く。おそらく今この瞬間、自分と男は翼宿を頂点にした二等辺三角形のふたつの点のように、翼宿と一定の距離をおいて向かい合っている。
今度はこちらが口の端を上げた。おもしろいなどと思うのは酒のせいか。
「そうじゃないのだ?攻児君」