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【レドヒツ】パラサイト・パラノイア

@tkaruno
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2014-11-30 19:32:50

リハビリを兼ねてレドヒツ(レッド→ヒィッツ)話。でもヒィッツは一言も喋ってません。
雰囲気先行SS。


* * * * *


 ドゥン!と突き上げるような音が聞こえた。
 次の瞬間レッドの頭上で派手な破裂音が響き、その場にそぐわない微小な煌きが降り注ぐ。それがガラスの破片だと気づくよりも早く、レッドは床を蹴って通路の屋根の下へ飛び込んだ。
 一階から最上階まで吹き抜けの造りであるこのタワービルは、外観のデザインと構造上の関係で最上階は強化ガラスで覆われている。
 もっとも、裏ではこの国の軍事産業を扱っている場所だ。一口に強化ガラスと言っても一般的な物ではもちろん無い。それこそ科学技術の最先端の結晶と言っても過言ではないのだ。
 そんなガラスが粉々に砕け散ったと言う事は、外でどれだけ激しい爆発が起きたのか窺い知れるというもの。
(向こうがミサイルでも突っ込んできたのか?それとも、)
 通路の床はまだ揺れている。建物自体がまるで震えているようだ。
 ガラスの破片は未だ粉雪の様に降り注ぎ、レッドの視界を銀色に染めている。

―――そんな人工的な雪景色の中を落下する、金色。

「!!ヒィッツ?!」
 咄嗟にレッドは屋根の下から飛び出した。
 まるで時間の流れが遅くなったように思えたその刹那、ガラスの破片と共に上から落ちてきたのは紛れも無いヒィッツの身体であった。
 普段の戦闘ならば決して汚す事の無いスーツは薄汚れ、寸分の隙も無く整えられている筈の髪は落下に抗う事無く風に乱れている。その赤い髪が金色に見えたのはガラスの破片が飛び散っていたからだ。
 だがそこまで観察できた事は奇跡に等しく、レッドが吹き抜けから身を乗り出した時には、ヒィッツの身体は既に眼下へと吸い込まれていく最中だった。
 重力に逆らったその手足は力なく上に伸びており、どうやら意識が無いらしい。
「チッ!」
 レッドはそのまま通路から躍り出ると、ヒィッツを追って自ら壁を蹴った。
 意識の無いヒィッツの自然落下よりも勢いをつけたレッドの方が落ちる速度は早い。ガラスの雪が頬を掠めて細い痛みを感じたが、レッドの目は真っ直ぐにヒィッツを追っていた。
 力なく落下していくヒィッツの表情は当然レッドからは見えないが、喉を逸らしたような首のラインが風に靡く髪に見え隠れする様に、レッドの鼓動は何故か早くなる。
 あと少しという所で腕を伸ばし、足首を掴もうとしたが失敗した。
 途端、レッドの口の中に何故か胃液が逆流する。
 目の前の光景は一刻を争うというのに、頭の中は沸騰したように熱く、思考が停止しそうになる。
 いくら超高層のタワービルとはいえ落下にそう時間はかからない。このまま追いつけなければ……ヒィッツを掴めなければ、二人とも床に叩きつけられて死ぬだろう。
(二人とも?)

  辺りに降り注ぎ飛び散るガラスの雪。
  レッドの目の前で床に落ちたヒィッツは、そのまま粉々に砕け散って消える。
  その後を追うレッドは黒いスーツを真っ赤に染め、汚れた肉塊となるだろう。
  半身を潰した果実の様に。

 鮮やかな白昼夢の様な光景がレッドの脳裏に浮かび、瞳孔が小さく引き絞られる。
 有り得ない妄想だ。自分がこのまま大人しく死ぬ義理は無いし、ヒィッツが消える事も無い。
 レッドはもう一度腕を伸ばした。
 ほんの僅か落下速度がヒィッツに追いついたその手は、今度は確実にその唯一無二の腕を掴んだ。
 同時にレッドの左手は鉤付きのワイヤーを懐から取り出し、勢い良く視界の隅を流れていく階層の壁に向かって放り投げる。
 狙い寸分違わず鉤は壁の一部に引っかかり、二人の身体は一度空中でロープの慣性のままに止まると、そのまま振り子のように壁に向かって投げ出された。
 その間にレッドはかろうじてヒィッツの腕を引き上げると、水を吸った土嚢の様に力無いその身体の腰を掴み、投げ出される反動で途中の階層の通路に飛び込んだ。
 二人は毛足の短い、オフィス用の絨毯の床上を転がったが、すぐに通路の壁に突き当たってその勢いは止まった。

 壁が振動している。
 外の様子を確認する事は出来ないが、未だ作戦は実行中なのだろう。
 否、それ以前に、ヒィッツが落下してくる姿を目にした瞬間から今まで、果たしてどれだけの時間が経過していたと言うのだろうか。
 まるで空気そのものがコールタールの様に重く、ねっとりとした流れにも思えたこの時間は、実のところほんの一刻だったのかもしれない。
 その証拠にレッドの目には吹き抜けを落下していくガラス片が見える。どれだけ大層な破損だったとて、そんな長時間破損片が落ちる事は無いだろう。
 レッドは息を吐いた。酸っぱい胃液の臭いが漂う。
 その時、レッドの腕の中でヒィッツの身体が身じろいだ。
 レッドが覗き込むと、頬や額が煤けてはいたが確かな生気を感じるヒィッツの顔があった。
「……フン」
 我ながら馬鹿げた妄想だったと、レッドは忌々しく思いながら立ち上がった。
 あれではまるで自分が何かをヒィッツに期待しているようではないか。お互いにそんなお綺麗な存在ではないとわかっている筈なのに。
 ただ、唯一譲れない事。それは。
「……俺の目の届かない場所で勝手にくたばるな」
 未だその白磁の眼を開かない男に向かって呟く。



 その日、一つの軍事都市が壊滅した。
 作戦の結果報告を受けた樊瑞はその制圧時間と予定外の範囲に目を見開いたが、続けてヒィッツカラルド負傷の知らせを聞いた孔明は納得したように一呼吸置くと、次に予定していた作戦の指示書を『完了済』のフォルダに放り込んだのだった。





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