@toasdm
「サウンドボール、ですか?」
「うん」
こたつにみかん、座椅子に腰掛け綿入り半纏を羽織る。古きよき典型的な日本の冬の景色に、圭はおどろくほどすんなりとなじんでいるように見えた。
容姿は完全に西洋のそれなのに、どうしてこうも「和」が合うのかと不思議に思ったこともあったが、「和」は「なごみ」とも読むことができる。調和の「和」だから、圭の持つ柔和な雰囲気はどんなものともなじみやすいのかもしれない。
いつだったか、僕は主体性があまりないから、と苦笑していたが、主体性がないんじゃなくて主張が強すぎないだけで、圭には圭らしさがきちんとあることを彼女は理解していた。そうでなければ、アイドルとしてどう売り出していいのかがわからなくなってしまうからだ。
そんな圭の膝の上、彼女は抱えられている。腰から下はこたつが担当し、背中は圭がぎゅっと固めた対寒気最強布陣。綿入り半纏からにょきっと伸びてきた手の中の、小さな銀色のボールを、圭は彼女の手に握らせた。
「振ってみて」
「……わ」
シャラ、と複雑な音が鳴る。どこかで聞いたことがあるような気がするのに、初めて聞くような不思議な音だ。鈴のようで鈴ではない、金属音だが角がなく、耳に心地良いその音に、彼女はほぅ、とため息をついた。
「すごく、綺麗な音ですね……オルゴール、みたいな。癒されます」
「うん。オルゴールボールとか、ヒーリングボールって名前もあるんだ」
「へぇ……」
シャラシャラと、彼女は幾度となく手の中でそれを転がした。中に何か入っているのだろう、小さな小さな球体の中で、重心がころころと移動するような不思議な感覚もある。
「オルゴールと、原理は一緒だよ」
空いている彼女の手をそっと取り、圭はそれを軽く広げる。
「ボールの中に、こんな風に、金属の歯があって」
「んっ……」
指一本一本をオルゴールの歯に見立てて、圭はそれを人差し指から小指までを滑らかになぞる。くすぐったさにすくめた彼女の肩の上、圭は顎を乗せたままくすくすと耳元で笑った。
「中で自由に動く金属片が、その歯に触れて音を出すんだ」
「だから、オルゴールっぽい音なんですね……」
「うん。綺麗、だね」
彼女の指を何往復もなぞって、圭はぎゅっと抱きしめる。抱きつく、といった方が近いような抱擁に、彼女の手の中、サウンドボールがシャラシャラと鳴る。
「ヨーロッパだと、お守りにも使われたりするんだよ」
「お守り……?」
「そう」
彼女の手の中にぎゅっとそれを握らせるように、圭は両手で彼女の手を包む。はぁ、とため息が、耳元で響く。
「いつも、僕が君を守ってあげられたら、いいのだけど……」
四六時中一緒にいるわけではなく、こうしてゆっくり二人きりで過ごす時間が貴重だと思えるくらいには、お互いに忙しくしている日々の中、圭の想いは彼女の手の中の、きらめく音に託される。
「そうも、言っていられないから、ね」
「……はい」
ありがとうございます、と肩口の圭に頬をすり寄せて、彼女はもう一度、手の中のサウンドボールを振る。
「音がひとつじゃないからかな……ほんとに、気持ちいい、音」
目を細める彼女の背中で、圭はゆっくり、うとうとしはじめる。
「ハーモニーボール、っていう別名も、あるから……」
「んっ、ちょ、圭さん、寝ないで」
呼吸の音の穏やかさと口調のゆったり具合、それと自分にのしかかってきた圭の重みから、彼女は圭の眠りを察知して慌てる。
「こたつで寝たら風邪ひいちゃいますよ」
「ひかないよ……君が、いて、くれるから……」
なにその全権の信頼!と慌てる彼女を膝に乗せたまま、圭はすぅすぅと寝息を立て始める。私を守りたいと思うならまずは自分の健康を守ってくださいよ、と思いつつも、圭の腕から抜け出せない彼女もサウンドボールの癒しの音色にやがてうとうととしはじめる。
シャラン、とサウンドボールの転がったこたつに、圭と彼女の調和の寝息が響くまで、そう時間はかからなかった。