@toasdm
なんでこんな微妙な顔してるんだ、と指を差してげらげら笑う龍と英雄の前、彼女だけがにこにことしている。人の思い出を笑うな、と二人の手からその写真をひったくると、誠司は彼女の手にそれを戻して苦言を呈した。
「どうしてこんなところに飾るんだ!」
「だって、素敵な思い出だから」
晴れて公認となった二人の仲、最初のデートの記念写真の誠司は、ひきつったような笑いを浮かべてピースサインまでしている。彼女はそれをいとおしげにそっとなでて、ね?と誠司を見上げた。
初めてのデートはどこにしようか――。
それまで隠れ家バルやら隠れ家バーやらを本当の意味で「隠れ家」のように使ってきた二人の「公認となってからの初デート」は、太陽の下と決まった。
秋の平日の遊園地は人も少なく、ジェットコースターやコーヒーカップで無邪気に大人がはしゃいでも、誰も咎める者などいなかった。
「はぁ……」
「疲れたか」
柔和な笑みを浮かべる誠司が飲み物を手に、ベンチで休む彼女の元へと戻ってくる。ぜんぜん、楽しいです、と太陽の下に太陽の笑顔を見つけて、誠司は隣に腰掛けた。
「はしゃいじゃいましたね」
「ああ……自分も、楽しい」
こんなに楽しいのはいつぶりだろうか、と空を見上げる誠司の横顔は本当に楽しそうで、ご一緒できて嬉しいです、と飲み物を飲みながら、彼女はほぅ、とため息をついた。
「……む」
何かに気付いたような顔をした誠司の目線の先、この遊園地のマスコットキャラクター「いたずラビット」が親子連れの背後から、抜き足差し足、忍足で近付いている。
「い、一緒に写真を撮らないか!」
「はいっ!? えっ、ちょ、誠司さんっ?!」
誠司はやおら立ち上がり、彼女の手を繋いで強引に引っ張り「いたずらビット」へと近付いていく。混乱したままの彼女は言われるままについていき、誠司さん滅茶苦茶はしゃいでない?!と驚きのままスマートフォンの用意をした。
「やぁいたずラビット! よかったら俺たちと写真を撮ってくれないか!」
誰この人ーー!?
私の知ってる信玄誠司と違う個体ーーー?!
わざとらしすぎるほど大げさな身振り手振りを交えて、誠司は「いたずラビット」の肩に手を置き話しかける。そのあまりにも誠司らしくなさに面食らいながらも、彼女は誠司と二人で「いたずラビット」を挟んでパシャリと一枚。画面にはひきつった笑みを浮かべた誠司と、笑いを堪えきれない彼女の顔とが映し出される。しかし。
「あ……」
「いやーありがとういたずラビット! デートのいい記念になったよ!」
画面の隅に映りこんだ親子連れの姿に、彼女はじわりと胸が熱くなった。なんだよデートかよ、とでも言うように肘で誠司を小突いた「いたずラビット」は、そのま親子連れとは反対の方へ、スキップをして行ってしまった。
「誠司さん」
「……あー、すまない」
「ただはしゃいでたんじゃ、ないんですね」
彼女は写真の、親子連れの部分を拡大して誠司に見せた。
「この子のため、だったんですよね?」
「…………はは、なんだ。バレてしまったか」
後ろ頭をがしがしやりながら、誠司は照れくさそうに笑っている。
親子連れの子供の方は、よくみると手元に買ったばかりのソフトクリームを持っていた。あの角度では「いたずラビット」からは見えていなかったであろうそれを、誠司がどうして見逃さなかったのか、そこまではわからなかったが。
「あのままでは、あの子の思い出にケチがついてしまうと、思ってな……」
「っふふ」
私、そんな誠司さんが大好きですよ。
そんな思い出の詰まった写真を、彼女は大事にデスクに飾っていた。
「……はぁ。人の思い出にケチをつけないでくれ」
ひきつり笑いのその写真は、誠司の優しさがうんと詰め込まれた証拠写真だ。未だげらげらと笑う二人に、誠司は幸せそうな困り顔で言った。