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[雨P♀]お国言葉

全体公開 2 1639文字
2019-12-13 16:50:58

「ほんだら、方言で口説いたろか?」
酔っ払いPさんと雨彦さんの、方言のお話です。

Posted by @toasdm

 こたつテーブルの上に並んだ缶は、そのほとんどが空き缶だ。雑に広げられたつまみの類も、そろそろ片付けた方がよさそうな雰囲気で、つまり二人は、宅飲みで、そこそこ酒が進んでいる。長方形のこたつの長辺、二人は並んでぬくぬくと入り、ゆったり時間を過ごしている。まったり、という言葉を使わずに説明するのが難しそうなまったりとしたのんびり時間は、ぼんやりと、テレビを見ながらちまちまと酒とつまみとを往復するだけで、どのくらい経過しただろうか。
「んー」
 緩んだ口調は、仕事で見せる普段の彼女の様子とは随分かけ離れていて、そろそろ水でも飲ませてやるか、と雨彦は立ち上がろうとする。だ。
「だぁ、めー」
「お前さん、飲みすぎだ」
 実際は、雨彦の方が飲んでいる量は多いはずなのだが、日頃の疲れがたたっているのか、あるいはハイペースで飲みすぎたのか、今日の彼女は少々酔いすぎのようにも見えた。水持ってくるから、と絡み付いてきた彼女の腕をなんとか振りほどき、雨彦はコップに水を汲む。
「っと……
 勢いが良すぎたのか、反応速度が鈍かったのか。コップから盛大に水を溢れさせながら、どうやら俺も酔ってるようだな、と一人苦笑を零す。まずは自分が一杯飲み干して、今度は溢れすぎないように、ともう一度汲んだ水を彼女の前にトン、と置いて、飲んどけ、と雨彦は軽く頭を撫でてやる。
「んーーーーーー……
「ん?」
 たった一音だけで、雨彦さんあのね、と、なんだい、とをやりとりできるようになって、かなりの時間が経過しているような気がした。隣にするりと滑り込んで、雨彦は彼女の視線の先、テレビの画面を見つめた。グルメ番組で、ちょうどお笑い芸人が食リポをしているようで、彼女はそれを見ながらぼんやりと言う。
「あめひこさん、関西人」
「奈良の出だな」
「なんでやねん、って言って?」
「なんでやねん」
 ビシッ、と手の振りまでつけて、雨彦は一応ノッてやる。関西の血が騒いだ、とおまけをつければ、彼女はけらけらと、手を叩いて笑った。
「関西弁、って、なんか、ドキドキしますねぇ」
「なんでやねん」
「あっはははははは!」
 それはドキドキしないー、とすっかり笑い上戸になってしまった彼女に、水飲めよ、と促してはみるものの、そんな気配はまるでない。人の話聞けよ、と半ば呆れながら、肩にもたれてくる陽気な彼女を、さてどうしたものかと雨彦はため息をついた。
「いいなぁ、関西弁」
……へぇ?」
 そいつはいいことを聞いた、と言わんばかりに、雨彦はにやりと口元を歪める。もたれかかってきているのをこれ幸い、と肩を抱き寄せ、顔を覗き込んだ雨彦は、きょとんとする彼女の瞳をじっと見つめて、そのにやけた口をゆっくりと開く。
「ほんだら、方言で口説いたろか?」
「っ」
 「きょとん」が「びくり」になっただけで、雨彦の心は躍る。そやなぁ、と少し考える素振りを見せた雨彦の、普段と違うイントネーションに、彼女の心も跳ねだす。
「お前さんのことは、大事にしゃんならん思とるよ」
 まるっきりわからないわけではない、意味がわかってしまった彼女の混乱が、雨彦の悪戯心を満足させる。ただでさえ酒で赤い顔をさらに赤く染めたのが自分の言葉だという満足感に、雨彦はにやけを抑え切れずに彼女をぎゅっと抱きしめた。
「せやから、おんづまり来る前に、水飲みや? 顔、こないあこなりよって……なぁ?」
「ひぇぇ……
 どこか柔らかな雰囲気のある雨彦のお国言葉は、彼女に大変効果的だったようで、落ち着くためにだろうか、慌てて彼女は水を飲み始める。
「ええ子やなぁ」
「っも、もう、いいです!」
 そうかい、といつもの調子に戻って、雨彦はそういえば久し振りにお国言葉を口にしたのか、と懐かしさに目を細める。

 たまに、こういうセンでいってみるのもアリか。

 よからぬ企てに雨彦の口元は、しばらくにやけっぱなしになっていたのを、彼女は知る由もなかった。


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