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鋼のフリオニール【0】(夢幻の枝/※注意書き参照)

全体公開 4066文字
2019-12-13 17:09:41

※自作の夢幻の枝シリーズに、フリオニール(FF2/DFF)を登場させています。なんでも許せる方向け。クロスオーバー、コラボ系のネタがお嫌いな方はお気をつけください。また、コピー本『Overlap!』の内容を一部含みます

Posted by @nasumiso77



 攻撃を受けた腕がしびれている。スピードは自分のほうが上だ。しかし溜めもズレもない正確さで数々の急所を狙われ、避けようと思っても避けきれない。攻撃動作は驚くほど小さく、尋常とは思えない間合いの広さを持って、予測不可能な動きをする。
 はじめはこうではなかった。こんな言い方はおかしいかもしれないが、少し手を抜かれている感じがした。だがある瞬間から、ほとんど殺意を帯びた攻撃へと変化したのだ。
 あのころに立ち戻ったような錯覚があった。こういう戦い方をする兵士と戦ったことがある。手加減をして押さえられる相手ではない。
 とどめを刺そうと首元に伸びてきた右手をぎりぎりのところで避け、引いた足に力を込めて体勢を立て直す。空振りになった手が防御に回らないうちに、右足を軸にして飛び上がり、相手の首の根元をもう片方で蹴りつけようとした。しかし信じがたいことに、普通なら間に合わないタイミングでありながら、反対側の手で受け止められた。
 掴まれたらまずい、咄嗟に距離を置いた。だが間合いを取ったところで、瞬く間に詰められ防戦に回ることになるだけだ。殺すつもりでやらねば殺される。
 隙はない。力も手数もスタミナもあちらのほうが上。あるのは速さだけだ。今回は徒手のみの模擬戦だが、普段使っている武器の癖か、向かってくる動作の中で、右肩が下がる瞬間を見つけた。武器を持っていればカバーできる程度の死角が生まれる。一瞬だ、瞬きもできぬほどの一瞬。だがその一瞬があれば、背後に回って覆いかぶさり、手足の動きを封じながら絞めにかかることができた。
 油断すれば返される。チャンスはもうないだろう。相手が途中でギブアップするとは思えなかった。何度も抜けられそうになりながら、腕の力を緩めなかった。やがて小さな呻きがあったのち、その男の意識は落ちた。
 完全に沈黙したのを見計らい、急に目覚めて襲いかかってこないよううつぶせに押さえつけてから、トレーニングルームの隅で怯えて固まっている係官に声をかけた。

「ロープを持ってきてくれ。いや……念のため、手錠も頼む。ロープだけでは抜けられそうだ」
「も、もう、動きません?」

 まるで猛獣扱いだ。無理もない。模擬戦でここまで苛烈な戦いを見せることなどないからだ。

「死んではいない。目的なく暴れていたわけではないのだから、怖がらなくていい」
「でも、起きたら急に凶暴になったりして……
「もう起きてるよ」

 驚いた。あれだけ完全に落としたのだ、こんなに早く意識を回復させるなんてあり得ない。なんて馬鹿げた体力。
 背中側で拘束された腕には、さほど力は入っていない。交戦の意思はないように感じた。

「続けるか?」
「やらないよ、今は」
「それはどういう意味だ」
「話次第ではあんたを殺すつもりだ」

 恐る恐る近づいてきていた係官が、ヒィと声を上げて逃げてゆく。いたずらに新人を怖がらせないでほしい。

「縛っても構わないよ。手錠をかけるって? どうせすぐに抜けられる」
……そうだろうな。場所を変えて、お前のことを聞かせてもらおう」
「俺から話すことは、あんまりないんだけど」
「ハンターになるつもりで試験を受けたのだろう? ならば明らかにしておかねばならないこともある」

 実技試験をとんでもない成績で通過し、筆記試験はとんでもない成績で落ちた。前者は良いほう、後者は悪いほうだ。当然不合格になるところだったが、たまたまギルドで噂になっていたところに出くわし、その戦闘技術の高さを知って興味を持った。一度手合わせをして、実力を試してみたいと思ったのだ。
 武器は持たせていないはずだが、どこに隠し持っているかわからない。記憶にある《その国》の兵士は、口の中にまで凶器を仕込んでいた。しかし猿轡をはめて拘束衣を着せてしまえば、まるで重罪人のような扱いだ。罪を犯したわけではない相手に対し、自分の安全のために、そこまでのことをしたくはなかった。
 今は戦わないと言ったのは本当のようで、案内されるまま別室に移ると、大人しく椅子に座った。とはいえ、しおらしいという言葉とは無縁のふてぶてしい態度だ。

……聞かれたことには素直に答えてもらおう。そのほうが物事がシンプルに進む。明白なことでも、確認のつもりで答えるように。俺の名前はシュウだ。お前は?」
「フリオニール」
「姓は?」
「ない」

 どこぞの王族のような言い回しだ。隠しているのか、本当に持っていないのか。何度か戦ったことがあるだけで、《その国》の文化やしきたりはよく知らないのだ。

「ハンターを目指したきっかけは?」
『あんた、ロマリアにいたことがあるだろ』

 急なロマリア語だ。問いかけに対して、適当な答えとはいえない。むしろそれは告発のようなものだった。何も言わずに見つめ返すと、楽しげににこりと笑われた。

『戦えばわかる。あんたの体術はロマリア式だ。それも特殊暗殺部隊の。型はちょっと古いようだけど』
…………
『俺はロマリア軍の残兵を追ってる。だからあんたがそうなら、やっぱり殺すよ』
『何故ロマリアの兵士を殺そうとする?』
『あんたも気づいただろ。俺のふるさとはもうない。攻めたのはロマリアの兵士だ。みんな殺された。俺が生きているのは仇を取るためだ。ハンターになれば情報が手に入る。だからハンターになりたい。でも元ロマリア兵のあんたが上官になるっていうなら、あんたを殺すほうが重要だ』

 言葉を切り替えたのは、誰かの盗み聞きを警戒したからかもしれないし、アルディア語よりもそのほうが馴染みがあるからかもしれない。亡国の少年兵は、潜入工作に備え敵対する国の言語を母国語と同レベルにまで使えるよう教育されたという。
 本当のことは誰にも打ち明けていない。エルクにも、友人にも。地位も名誉も興味はないが、もし過去が明らかになれば、多くの人々に迷惑をかけることになる。
 正直に答える必要はない。受け流すべきだ。

……九年前に逃げて抜けた』

 それなのに、告げていた。そうしなければいけないような気がして。

『なんで祖国のために戦わなかった?』
『町でくすぶっていたときに拾われた。連れ去られたと言ったほうが正しい。自分の意思ではどうにもならなかった。生き方を選べなかった。お前はそうではなかったのか?』
『生まれたときからそうなるように育てられた。でもそれを嫌だと思ったことはない。戦うことが誇りだった』
『そう思えたのなら、俺も逃げなかった』

 大人びているが、まだ大人とは言えない年齢のはずだ。終わらない戦争が子どもを縛る。そんな世界を変えたくて、あれから二年、がむしゃらに働いてきた。それでもまだ過去は追ってくる。すべてを清算することはできない。
 フリオニールはじっとこちらを見つめている。心のうちを見透かすように。戦争という名のもとに生き方を縛られたとは思えぬほど、澄んだ瞳だった。
 やがて、肌をぴりぴりと焦がすような敵意が和らいだ。

『もうひとつある、ハンターになりたいと思った理由。友だちを探してる。ふるさとを離れるときに別れたきりの。生きていてほしい、会いたいんだ』

 その目線の先に、小さな子どもの姿が笑う気がした。守りたかったのだろう。復讐以上に……会わせてやりたい。その想いは自らに重なる。

……ロマリア兵との私闘は認められない。絶対にだ。だがそれを守れるのなら……推薦してもいい。どうする?』


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「ベッドの上に靴を乗せるな」
「なんで? こうしないと紐が結べないだろ」
「そういうときは、自分が屈むんだ」
「いやだなぁ、面倒だ。結んでくれる?」
……自分のことは自分でしろ」

 さっきから、こんな小言ばかりだ。疲れて声も掠れてきた。精神的な疲労が肉体的な疲労を誘うというのはこういうことで、最近は名前を聞くだけで胃がきりきりと痛む。
 いくら元気そうとはいえ、普通の人間なら昏倒して目覚めないような高熱に見舞われていたわけだから、事件のあと、一応休養を取らせるように手配した。そばで見張っているわけにもいかずギルドのほうに任せていたのだが、帰国後、もう二度とごめんだと泣かれるだろう。

「空港までの送迎はアレクに頼んでおいた。アレクも多忙なハンターだ。迷惑をかけずに大人しく言うことを聞いて速やかに空港に向かうように」
「ちゃんと言うこと聞くよ」

 誠意ある言葉が誠意のあるように聞こえない。見送った後のアレクの疲労が目に浮かぶようだ。すまない、ここは耐えてほしい。この町の平穏のために。
 残った武器をひとつずつ身に着けるのを見ていながら、ふいに、出会いのときを思い出した。まいったな、すっかり気を抜いている。今、襲い掛かられたら間違いなく死ぬだろう。あれから彼は、約束を忠実に守ってその話題を蒸し返さないが、ロマリアへの敵意は消えていないはずだ。
 目が合って、おかしそうに笑われた。

「どうしたの? ハンサムが台無しの顔してる」
「あのな……誰のせいだと思ってるんだ」
「シュウはいつも難しい顔してるけど、もっと笑うといいと思うよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「久しぶりに一緒にできて楽しかったな。戦いながら思ってたんだけど」

 自分から振ったくせに、気まぐれに話題を変える。最後に二本の剣を腰に差してすっと立ち上がる姿だけを見れば、呆れるほどの男前なのに。

「俺たち、けっこう年が離れていてよかったな、って」
「どういう意味だ」
『殺し合わずに済んだ。仲間でいられてうれしいよ』

 思いがけず降ってきたその響きに驚くうちに、「エッダをよろしく」なんて爽やかに言って、鋼のフリオニールは去って行った。言い返す暇もなかった──ああ、もちろん、俺だって。


おわり


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