X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

六章開幕

全体公開 6854文字
2019-12-15 01:09:27

 『カルカタッタのしらべ』より。
 
 『カルカタッタ』は「死者が住まう」と言われる幻の街です
 『幸せの街』とも呼ばれており、慈善活動に積極的です。
 一見スラム街のように寂れた雰囲気の街ですが、至るところに色とりどりの花と街灯があります。綺麗な川も流れており、空気は新鮮です。所々に、美味しい匂いが漂う屋台が並んでいるので、賑やかさもあります。
 街の中心部には、教会つきの病院と、大きな日時計があります。人々はとても温かく、慈悲に溢れています。
 観光客が訪れることもあるようですが、この街の雰囲気に惹かれてそのまま永住する人が多いそうです。
 


 どうやら今日、この列車はカルカタッタに到着するらしい。
 搭乗人物たちは食堂車で、イヴァン、りんご、リズットの三人が作った朝食を食べていた。朝食はビュッフェ形式になっていて、搭乗人物たちの好きなものがずらりとならんでいた。
 
イヴァン「(モシャァ)……ん、ちゃんと出来てるな。足りなかったらまた作るし、みんな沢山食べてくれな~」
 
 希更「おいしー!(もぐもぐ)」
 
 イヴァンとりんごは「せっかく作ったから、食べてくれ」と言わんばかりに、出来立ての料理を盛り付ける。
 
 エマ「(ハムスターのようにサンドイッチをもっもっと食べている)」

 アイザック『ヒュー!!オレもなんかたべちゃおっと』
  
 一方でリズットは、まだ朝食を食べに来ていない怤藍のことが気がかりになっていた。
 「彼女はまた引きこもって、何か書いてるのか?」
 そう呟いてため息をつくと、静かに首を横にふった。
 
エマ「(目を輝かせながらサンドイッチを選び)ハムでしょー、キュウリでしょー、たまごでしょー、あとなにがいっかなー!!ツナ?」
 
アイザック『(にゅっとモニターから手だけ出して)……オレは優雅にブリオッシュを食うぜ!………ぅあちっ!』
 
 エマ「(らんらんと目を輝かせ)生ハムだーっ?!!これ、あの、豪華なやつでしょ?!!エマ知ってる!!(ぴょんぴょんと飛び跳ねた)」
 
 


 怤藍を除いた全員が朝食を済ませると、列車が汽笛をならした。汽笛のあとに、列車は緩やかに停車する。
 
 『ついにカルカタッタに到着したようだ』
 リズットのランタンに灯りがつき、久しぶりにメイズの声が聞こえた。

アイザック『……んあ?今回はそっちからなのか』
 
 『ふふふ。一人部屋にこもりっきりの子がいるけどとりあえず、いつものをよろしく頼むよ』
 
イヴァン「……着いた、のか
 
 メイズが言うと、リズットは「承知致しました」と、うやうやしく頭を下げた。
 
希更「あれメイズさん久しぶり?……ってマジ?ついたの?」
 
 「御乗車ありがとうございました。当列車は終点、カルカタッタに到着致しました。よって、ブーケエクスプレスでの搭乗人物の皆様は、これにて終了となります」
 終点、カルカタッタ。窓の外をみると………やけに白い景色が見えた。
 空の色も、建物の色も、花の色も。全てが白に見える。
 「ここまで皆様と同行出来たのが、わたくしの何よりの喜びでございます。皆様の記憶に『遺る』良い旅をご提供出来たのなら、わたくしとしては嬉しいです」
 リズットが挨拶をしていると、列車の扉があいた。
 「狭いところではなんですので、列車を降りて、ホームでごあいさつをさせてください」
 リズットはランタンを手に、列車から降りていった。搭乗人物たちもそれに続いて、列車を降りる。
 
希更「真っ白だ…………
 
エマ「~♪(生ハムのサンドイッチを口にくわえながらトンテンカンと降りた)」
  
 全員が列車を降りると、リズットは一人一人の顔を一瞥した。
 「皆様に助けられたこと、皆様に頂いたもの。これから先、わたくしは皆様と同行出来ませんが、これらはわたくしの宝です。皆様のお世話を出来たことを、光栄に思います。本当に、ありがとうございました」
 最初は無愛想なリズットだったが、この時はどことなく寂しそうな顔で、深々と頭をさげた。
 「この世界の結末はわたくしにもわかりません。けれど、皆様に強い意思があれば、前に進めるはずです。それでは皆様どうか最期まで、お元気で」
 そういって踵を返し、リズットが列車に戻ろうとした。
 
イヴァン「……
 
 すると突然、それを塞ぐように列車の扉が勢い良く閉まった。
 「………え?」
 扉に手なんて触れていない。はっと顔をあげると、閉じたドアの向こう列車の中から怤藍がこちらをじっと見ていた。
 「怤藍?」
 「何をしてるんだ」と言わんばかりに、リズットが扉の窓ごしに怤藍を見上げる。怤藍は無視して一両目にかけこむと、汽笛を鳴らした。ポッポーという典型的で間抜けな汽笛の後、彼女は窓を開けて顔を出した。
 
 「リズットくーん!悪いんだけど、あたしの代わりにカルカタッタで観光してきて!」
 予想外のことを言われて、リズットは思わず「はぁ!?」と声をあげる。
 「ちょっと待てよ!今すぐ降りてこい!」
 「希更ちゃーん!これ預かっといて~!」
 リズットの言葉を無視して、怤藍は何かを窓から放り投げた。
 
希更「えっえっ何……!?」
 
 「あぁもう!昔っからいっつもこうなんだから!!」
 リズットのことなどおかまいなしに、希更がそれを受けとったのをみて、怤藍は満足そうに頷いた。
 「それからえっとえっとあっ、パピィちゃん!リズットのことは好きにしていいから、何かあったらよろしく!この子ねー、言いたいことがいっぱいあるのに、パピィちゃんに全然言えてないみたいだから、話きいてあげてね~!」
 「勘弁してくれよほんと!!あぁくそっ!扉が開かない!」
 リズットが扉をガンガン蹴っていると、列車が緩やかに逆走し出す。
 「今後の指揮は希更ちゃんに、緊急時の対応はよーし、独断と偏見で、アイザックさんとイヴァンさんにお願いしよう!うん!じゃああたしは今から、ちょっとした『けじめ』をつけに行ってくる!じゃーねー!」
 
イヴァン「????偏見??いや、別に頼まれるのは構わないけど……
 希更「どういうことかわかんないけどわかった(?)あたしちゃんに任せて……!!」
 アイザック『おー、任せなー!ま、のんびりやってこいよ』
 
 列車はぐんぐん加速し、気がつくと怤藍だけを乗せたブーケエクスプレスは、逆走しながら何処かに消えていった。
 取り残されたリズットと搭乗人物たちは、カルカタッタの駅ホームで呆然とたちつくしていた。

 希更「む……(開けてみる)」
 
 希更は先ほど怤藍が投げつけてきたものを、いそいそと開封した。あらかじめ衝撃を和らげる素材が詰め込まれており、それらを取り除くと、きらりと輝く一本のガラスペンが入っていた。

希更「綺麗なガラスペン……でもなんで……?」
 
 「それは……!」
 ガラスペンをみるなり、リズットが目を丸くした。
 「それ、わたくしが彼女に贈ったものなんです。かつて虚ろな目をして、筆圧の薄い鉛筆で、原稿用紙に小説を書いていた彼女に。どうせ書くのなら、もっといいもので書いて貰おうと思って」
 リズットは目を閉じて、深く頷いた。
 「……そういうことなのか」
 
 希更「そうだったんだ……
 
 


 リズットが一人で納得していると、彼の背後に、そろりそろりと何者かが忍び寄ってくる。背丈はリズットより低めで、黒い髪をしている女性だった。
 リズットは全く気づいていないが、搭乗人物たちからみるとあからさまに『それ』をみて、思わず声を出しかけた。彼女はそれに気づくなり、口元に人差し指を当ててそっと微笑んだ。どうやら「黙ってて」という意味らしい。
 固唾を飲んで成り行きを見守っていると、彼女は立ち止まり__
 
 「えいっ♡」
 
 リズットの横腹を、人差し指でつついた。
 ふいに横腹をやられたリズットは、声を出す間もなく、その場で膝から崩れ落ちた。
 「あらぁ~ブーケエクスプレス御一行様じゃなぁい。思ってたよりも早く到着してたのね。汽笛が聞こえたから、迎えに来ちゃった♡」
 のんびりとした色気のある口調の女性。もしかすると、どこかで見たことあるようなないような
 「あらぁ♡私のことを覚えてくださってる方はいらっしゃるのかしら?ごきげんよう皆さん。イェーリア駅以来ね」
 そう言って微笑みかける女性。そう、彼女はイェーリア駅にいた花売りであった。
 「ちゃんとした自己紹介をしていなかったわね。改めまして、はじめまして。私は真於(まお)というの。『花売りのお姉さん』とでも呼んで頂戴な♡」
 花籠を手に、花売りの真於は会釈した。

希更「お花売ってたお姉さん!久しぶり……!!」
 
 「あらぁ覚えててくれてたのね!嬉しいわ!ところで予定では『らんちゃん』がここにいるはずなのに、代わりに案内人のお兄さんがいらっしゃるわね。らんちゃんはどうしたのかしら?」
 『らんちゃん』とは怤藍のことである。
 真於の問いに、面々はちらりと線路の向こうを見た。
 「あらそうなのね。まぁいいわ。あの子のことだから、何か役目を果たしに行ったのね」
 真於は少し寂しそうに、密編みにしてある自分の髪をいじり始めた。
 「ダーリンもらんちゃんも大変なのね。おまけにらんちゃんからのお手紙で聞いてた、プログラマーのお兄さんもここにいるってことは並々ならぬ事情があったのね。とにかく皆、狭いけど一旦うちにいらっしゃいな。少し渡しておきたいものがあるの」
 真於に手招きされ、搭乗人物たちとリズットは、彼女の家に向うことにした。
 
イヴァン「……しかしまた再会するなんてな……何者なんだろ」
冬真「ありがとうお姉さん!」ついていく
イヴァン「…………(てってこついてく)」
希更 「はーい(ついて行く)」
  
 案内しながら、真於は搭乗人物たちに問うた。
 「ところで皆、この街は事前にどんな街かっていうのは聞いてた?」
 
イヴァン「どんな街、かぁ……。正直具体的に想起してたものはないけれど、穏やかで静かな美しい街かと」
リズット「死者が住まう街。もっと華やかな街だと伺っておりました。守崎様から」
希更 「もうちょっと怖いところかな……とか思ってたな……こんなに真っ白だとは思わなかった〜」
冬真「優しい人がいっぱいの、すてきなところ?」
 
 「そうだったのね。確かに、この間までは華やかで賑やかなところだったのよ。けど皆この街を見て。この街はね色や形がどんどん奪われていってるの」
 見渡すかぎり、白、白、白。
 真於をはじめとした街人や、一部建物には色彩があるが、ほとんどが白で塗りつぶされたような景色が広がっていた。あまりにも白すぎて、輪郭をなぞるのが困難に見えた。
 「この間は空を奪われたの。大きな嵐のせいで教会が被害を受けて、森は閉鎖された。シンボルである砂時計の形をした日時計は時を止めて、この街の花は色彩をなくしたの」
 行き交う街の人々は、色つきのチョークでどこに何があるかの目印を地面につけていた。
 「この街はね、幸せの街であり、死者が住まう幻の街。架空の街とも呼ばれていたのかしらね。架空だとか幻だとかと言われている理由はいろいろあるけど、そのうちの一つは、色や形がどんどん奪われていってるからなのよ。ほら亡くなった方って、日本では白装束を着られるでしょ?それに似たようなものなのかしら」
 真於は語りながら、空のない街を見上げた。
 「まぁこの街のことは、そのうちおいおい話してあげましょう。さて、うちはこっちよ」
 真於が真っ白なプレハブの小屋の扉をあけた。どうやらここが、彼女の家らしい。
 


 「原住民じゃないから、地元ならではのおもてなしは出来ないけど狭いからとにかく中に入って座ってて頂戴な。15人?で、あってるかしら?今なにか淹れるわ」
 
希更「お邪魔します……!(入る)」
イヴァン「…………(体格が良いからか、申し訳なさそうな顔してる)」
リズット「失礼します(端のほうに行って正座)」
  
 てきぱきと真於が人数分のレモネードを淹れて持ってくると、それを順番に配布し始めた。
 「ふぅ。死ぬか生きるかの瀬戸際で、とんでもない宿命を背負うことになったとは。やぁねぇ。でもそれが『生き延びる』ってことなのね」
 配布し終えると、真於は自分の分のレモネードを一口飲んだ。
 「さて。皆ここまでの旅はどうだったかしら?思いの外、今までにはない経験が出来たのではないのかしら。差し支えがなければ、皆の話を聞かせて貰いたいのだけれどいいかしら?」
 真於は少し微笑んで問う。
 「ほら、お花買ってくれた子もいるじゃない!あれからのこととかもいろいろききたいわ!」
 
 イヴァン「……そうだねぇ……うん、色々あった。いや、遺恨は無いから言うけれど、電車に轢かれそうになった経験は中々新鮮だったね……
リズット「(胃痛の音)」
 「まぁそんなことがあったのね?大丈夫だったかしら?」
 イヴァン「もちろん、大丈夫だからここにいるのさ。(周囲を見回して)ここにいる皆ともう一人の仲間のおかげでね(にこ!)」
 「そうだったのね~。大丈夫そうで安心したわ!」
 
希更「リズットくんが目を覚まさなくなったり、イヴァンさんが居なくなったり、大変だったよ……。まあクリスマスパーティーとかは楽しかったよ!また皆でやれたらいいなぁ……
 「あららんちゃんったら、そんな大事件のことはあんまり教えてくれなかったのよ!もうらんちゃんったら!それにしても、パーティーは素敵ね!」
 
リズット「お陰様で、業務連絡以外の会話も苦ではなくなりました。肝心なことはいつも言えずじまいで終わるんですけども」
 「案内人のお兄さん前より雰囲気が温かくなったわね。いい目をするようになったわ。前にあった時と全然違うわね。あとはそうねもっと男らしく、ね?」
 


 面々の話をきいて、真於は満足そうに笑った。
 「いろいろあったみたいだけどどれも貴重な体験ね。らんちゃんのもききたかったのだけど、らんちゃんはこの場にいないのよね
 真於はため息をついたが、パンパンと両手で自分の頬を軽く叩いた。
 「辛気くさい話はやめにしましょ。せっかく来てくださったのだもの。ここは仮にも幸せの街よ?思いっきり羽を伸ばして頂戴な」
 レモネードを膝の上に置いて、にっこりと笑いかける。
 「そうだわ。確か、皆宛の【ミッション】があると聞いたわ。よろしかったら挑戦してみて欲しいの。あなたたちの未来が、少し変わるかもしれないわ」
 思い出したかのように彼女が言うと、搭乗人物たちが首をかしげた。
 
イヴァン「……ミッション?」
希更「ミッション……?」
 
 「そう難しいものでもないはずよ~。とにかく挑戦してみて貰えると嬉しいわ。出題者がどなたなのかは存じ上げないけども」
 ミッションと聞いて、やる気を出すものから不安そうな表情をみせる者もいた。
 
希更「わかった!あたしちゃん頑張るね!」
 
 「その意気よ~♡この街の何処かに、ミッションがかかれたお手紙が置いてあるらしいの。皆ミッションの内容はバラバラって聞いたわ。きっとお腹がすく頃にミッションが終わるはずだから、終わったらまたうちにおいで。お昼ご飯にカレー作って待ってるから」
 コトコトという音がキッチンから聞こえる。あれはカレーを煮ている音なのだろうか。
 「とりあえずこれ飲んだら、一時解散。美味しいカレー作って待ってるから、頑張ってね♡わからないことや悩んでることがあれば、私や街の人に頼って頂戴な」
 ポケットから財布を取り出すと、真於は搭乗人物たちの手にコインを握らせた。真於は一人三十枚ずつコインを握らせた後、今度はリズットに一枚の地図を手渡した。
 「あなたにはこれ。このまま死者が住まう街で消えるか、現実世界で永遠の夢を見るかはあなた次第。けど、あなたや皆が望めば運命は変えられる。祈りなさい、行動しなさい、伝えなさい。そうすればわかるはずよ」
 そっとリズットにそう告げると、真於は立ち上がった。 
 「それはあなたたちも一緒。ミッションが終わって、カレーを食べたらあなたたちの今後が、見えてくるはずよ。きっと」
 そう言い残してキッチンへと消えた真於の背中を、搭乗人物たちはじっと見つめていたのであった。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.