@875108Express_
『カルカタッタのしらべ』より。
『カルカタッタ』は「死者が住まう」と言われる幻の街です
『幸せの街』とも呼ばれており、慈善活動に積極的です。
一見スラム街のように寂れた雰囲気の街ですが、至るところに色とりどりの花と街灯があります。綺麗な川も流れており、空気は新鮮です。所々に、美味しい匂いが漂う屋台が並んでいるので、賑やかさもあります。
街の中心部には、教会つきの病院と、大きな日時計があります。人々はとても温かく、慈悲に溢れています。
観光客が訪れることもあるようですが、この街の雰囲気に惹かれてそのまま永住する人が多いそうです。
どうやら今日、この列車はカルカタッタに到着するらしい。
搭乗人物たちは食堂車で、イヴァン、りんご、リズットの三人が作った朝食を食べていた。朝食はビュッフェ形式になっていて、搭乗人物たちの好きなものがずらりとならんでいた。
イヴァン「(モシャァ)……ん、ちゃんと出来てるな。足りなかったらまた作るし、みんな沢山食べてくれな~」
希更「おいしー!(もぐもぐ)」
イヴァンとりんごは「せっかく作ったから、食べてくれ」と言わんばかりに、出来立ての料理を盛り付ける。
エマ「(ハムスターのようにサンドイッチをもっもっと食べている)」
アイザック『ヒュー!!オレもなんかたべちゃおっと』
一方でリズットは、まだ朝食を食べに来ていない怤藍のことが気がかりになっていた。
「彼女はまた引きこもって、何か書いてるのか…?」
そう呟いてため息をつくと、静かに首を横にふった。
エマ「…(目を輝かせながらサンドイッチを選び)…ハムでしょー、キュウリでしょー、たまごでしょー、あとなにがいっかなー!!ツナ?」
アイザック『…(にゅっとモニターから手だけ出して)……オレは優雅にブリオッシュを食うぜ!………ぅあちっ…!』
エマ「…(らんらんと目を輝かせ)…生ハムだーっ?!!これ、あの、豪華なやつでしょ?!!エマ知ってる!!(ぴょんぴょんと飛び跳ねた)」
怤藍を除いた全員が朝食を済ませると、列車が汽笛をならした。汽笛のあとに、列車は緩やかに停車する。
『ついにカルカタッタに到着したようだ』
リズットのランタンに灯りがつき、久しぶりにメイズの声が聞こえた。
アイザック『……んあ?今回はそっちからなのか』
『ふふふ。…一人部屋にこもりっきりの子がいるけど…とりあえず、いつものをよろしく頼むよ』
イヴァン「……着いた、のか…」
メイズが言うと、リズットは「承知致しました」と、うやうやしく頭を下げた。
希更「あれメイズさん久しぶり?……ってマジ?ついたの?」
「…御乗車ありがとうございました。当列車は終点、カルカタッタに到着致しました。よって、ブーケエクスプレスでの搭乗人物の皆様は、これにて終了となります」
終点、カルカタッタ。窓の外をみると………やけに白い景色が見えた。
空の色も、建物の色も、花の色も。全てが白に見える。
「ここまで皆様と同行出来たのが、わたくしの何よりの喜びでございます。皆様の記憶に『遺る』良い旅をご提供出来たのなら、わたくしとしては嬉しいです」
リズットが挨拶をしていると、列車の扉があいた。
「狭いところではなんですので、列車を降りて、ホームでごあいさつをさせてください」
リズットはランタンを手に、列車から降りていった。搭乗人物たちもそれに続いて、列車を降りる。
希更「真っ白だ…………」
エマ「~♪(生ハムのサンドイッチを口にくわえながらトンテンカンと降りた)」
全員が列車を降りると、リズットは一人一人の顔を一瞥した。
「皆様に助けられたこと、皆様に頂いたもの。…これから先、わたくしは皆様と同行出来ませんが、これらはわたくしの宝です。皆様のお世話を出来たことを、光栄に思います。本当に、ありがとうございました」
最初は無愛想なリズットだったが、この時はどことなく寂しそうな顔で、深々と頭をさげた。
「この世界の結末は…わたくしにもわかりません。けれど、皆様に強い意思があれば、前に進めるはずです。それでは皆様…どうか最期まで、お元気で」
そういって踵を返し、リズットが列車に戻ろうとした。
イヴァン「……」
すると突然、それを塞ぐように列車の扉が勢い良く閉まった。
「………え?」
扉に手なんて触れていない。はっと顔をあげると、閉じたドアの向こう…列車の中から怤藍がこちらをじっと見ていた。
「怤藍…?」
「何をしてるんだ」と言わんばかりに、リズットが扉の窓ごしに怤藍を見上げる。怤藍は無視して一両目にかけこむと、汽笛を鳴らした。ポッポーという典型的で間抜けな汽笛の後、彼女は窓を開けて顔を出した。
「リズットくーん!悪いんだけど、あたしの代わりにカルカタッタで観光してきて!」
予想外のことを言われて、リズットは思わず「はぁ!?」と声をあげる。
「ちょっと待てよ…!今すぐ降りてこい!」
「希更ちゃーん!これ預かっといて~!」
リズットの言葉を無視して、怤藍は何かを窓から放り投げた。
希更「えっえっ何……!?」
「あぁもう…!昔っからいっつもこうなんだから!!」
リズットのことなどおかまいなしに、希更がそれを受けとったのをみて、怤藍は満足そうに頷いた。
「それからえっとえっと…あっ、パピィちゃん!リズットのことは好きにしていいから、何かあったらよろしく!この子ねー、言いたいことがいっぱいあるのに、パピィちゃんに全然言えてないみたいだから、話きいてあげてね~!」
「勘弁してくれよほんと…!!あぁくそっ!扉が開かない…!」
リズットが扉をガンガン蹴っていると、列車が緩やかに逆走し出す。
「今後の指揮は希更ちゃんに、緊急時の対応は…よーし、独断と偏見で、アイザックさんとイヴァンさんにお願いしよう!うん!じゃああたしは今から、ちょっとした『けじめ』をつけに行ってくる!じゃーねー!」
イヴァン「????偏見??いや、別に頼まれるのは構わないけど……」
希更「どういうことかわかんないけどわかった(?)あたしちゃんに任せて……!!」
アイザック『おー、任せなー!ま、のんびりやってこいよ』
列車はぐんぐん加速し、気がつくと怤藍だけを乗せたブーケエクスプレスは、逆走しながら何処かに消えていった。
取り残されたリズットと搭乗人物たちは、カルカタッタの駅ホームで呆然とたちつくしていた。
希更「む……(開けてみる)」
希更は先ほど怤藍が投げつけてきたものを、いそいそと開封した。あらかじめ衝撃を和らげる素材が詰め込まれており、それらを取り除くと、きらりと輝く一本のガラスペンが入っていた。
希更「綺麗なガラスペン……でもなんで……?」
「それは……!」
ガラスペンをみるなり、リズットが目を丸くした。
「…それ、わたくしが彼女に贈ったものなんです。かつて虚ろな目をして、筆圧の薄い鉛筆で、原稿用紙に小説を書いていた彼女に…。どうせ書くのなら、もっといいもので書いて貰おうと思って」
リズットは目を閉じて、深く頷いた。
「……そういうことなのか」
希更「そうだったんだ……」
リズットが一人で納得していると、彼の背後に、そろり…そろり…と何者かが忍び寄ってくる。背丈はリズットより低めで、黒い髪をしている女性だった。
リズットは全く気づいていないが、搭乗人物たちからみるとあからさまに『それ』をみて、思わず声を出しかけた。彼女はそれに気づくなり、口元に人差し指を当ててそっと微笑んだ。どうやら「黙ってて」という意味らしい。
固唾を飲んで成り行きを見守っていると、彼女は立ち止まり__
「えいっ♡」
リズットの横腹を、人差し指でつついた。
ふいに横腹をやられたリズットは、声を出す間もなく、その場で膝から崩れ落ちた。
「あらぁ~ブーケエクスプレス御一行様じゃなぁい。思ってたよりも早く到着してたのね。汽笛が聞こえたから、迎えに来ちゃった♡」
のんびりとした色気のある口調の女性。…もしかすると、どこかで見たことあるような…ないような…。
「あらぁ♡私のことを覚えてくださってる方はいらっしゃるのかしら?ごきげんよう皆さん。イェーリア駅以来ね」
そう言って微笑みかける女性。そう、彼女はイェーリア駅にいた花売りであった。
「ちゃんとした自己紹介をしていなかったわね。改めまして、はじめまして。私は真於(まお)というの。『花売りのお姉さん』とでも呼んで頂戴な♡」
花籠を手に、花売りの真於は会釈した。
希更「お花売ってたお姉さん!久しぶり……!!」
「あらぁ覚えててくれてたのね!嬉しいわ!ところで予定では『らんちゃん』がここにいるはずなのに、代わりに案内人のお兄さんがいらっしゃるわね。らんちゃんはどうしたのかしら?」
『らんちゃん』とは怤藍のことである。
真於の問いに、面々はちらりと線路の向こうを見た。
「あら…そうなのね。まぁいいわ。あの子のことだから、何か役目を果たしに行ったのね」
真於は少し寂しそうに、密編みにしてある自分の髪をいじり始めた。
「ダーリンもらんちゃんも大変なのね…。おまけにらんちゃんからのお手紙で聞いてた、プログラマーのお兄さんもここにいるってことは…並々ならぬ事情があったのね。とにかく皆、狭いけど一旦うちにいらっしゃいな。少し渡しておきたいものがあるの」
真於に手招きされ、搭乗人物たちとリズットは、彼女の家に向うことにした。
イヴァン「……しかしまた再会するなんてな……何者なんだろ」
冬真「ありがとうお姉さん!」ついていく
イヴァン「…………(てってこついてく)」
希更 「はーい(ついて行く)」
案内しながら、真於は搭乗人物たちに問うた。
「ところで皆、この街は事前にどんな街かっていうのは聞いてた?」
イヴァン「どんな街、かぁ……。正直具体的に想起してたものはないけれど、穏やかで静かな美しい街かと」
リズット「死者が住まう街。…もっと華やかな街だと伺っておりました。…守崎様から」
希更 「もうちょっと怖いところかな……とか思ってたな……こんなに真っ白だとは思わなかった〜」
冬真「優しい人がいっぱいの、すてきなところ?」
「そうだったのね。確かに、この間までは華やかで賑やかなところだったのよ。けど…皆この街を見て。この街はね…色や形がどんどん奪われていってるの」
見渡すかぎり、白、白、白。
真於をはじめとした街人や、一部建物には色彩があるが、ほとんどが白で塗りつぶされたような景色が広がっていた。あまりにも白すぎて、輪郭をなぞるのが困難に見えた。
「この間は空を奪われたの。大きな嵐のせいで教会が被害を受けて、森は閉鎖された。シンボルである砂時計の形をした日時計は時を止めて、この街の花は色彩をなくしたの」
行き交う街の人々は、色つきのチョークでどこに何があるかの目印を地面につけていた。
「この街はね、幸せの街であり、死者が住まう幻の街。架空の街とも呼ばれていたのかしらね。架空だとか幻だとかと言われている理由はいろいろあるけど、そのうちの一つは、色や形がどんどん奪われていってるからなのよ。ほら亡くなった方って、日本では白装束を着られるでしょ?それに似たようなもの…なのかしら」
真於は語りながら、空のない街を見上げた。
「まぁこの街のことは、そのうちおいおい話してあげましょう。さて、うちはこっちよ」
真於が真っ白なプレハブの小屋の扉をあけた。どうやらここが、彼女の家らしい。
「原住民じゃないから、地元ならではのおもてなしは出来ないけど…狭いからとにかく中に入って座ってて頂戴な。15人…?で、あってるかしら?今なにか淹れるわ」
希更「お邪魔します……!(入る)」
イヴァン「…………(体格が良いからか、申し訳なさそうな顔してる)」
リズット「失礼します(端のほうに行って正座)」
てきぱきと真於が人数分のレモネードを淹れて持ってくると、それを順番に配布し始めた。
「ふぅ…。死ぬか生きるかの瀬戸際で、とんでもない宿命を背負うことになったとは…。やぁねぇ。でもそれが『生き延びる』ってことなのね」
配布し終えると、真於は自分の分のレモネードを一口飲んだ。
「さて。皆ここまでの旅はどうだったかしら?思いの外、今までにはない経験が出来たのではないのかしら。差し支えがなければ、皆の話を聞かせて貰いたいのだけれど…いいかしら?」
真於は少し微笑んで問う。
「ほら、お花買ってくれた子もいるじゃない!あれからのこととかもいろいろききたいわ!」
イヴァン「……そうだねぇ……うん、色々あった…。いや、遺恨は無いから言うけれど、電車に轢かれそうになった経験は中々新鮮だったね……」
リズット「(胃痛の音)」
「まぁそんなことがあったのね…?大丈夫だったかしら…?」
イヴァン「もちろん、大丈夫だからここにいるのさ。(周囲を見回して)ここにいる皆ともう一人の仲間のおかげでね(にこ!)」
「そうだったのね~。大丈夫そうで安心したわ!」
希更「リズットくんが目を覚まさなくなったり、イヴァンさんが居なくなったり、大変だったよ……。まあクリスマスパーティーとかは楽しかったよ!また皆でやれたらいいなぁ……」
「あら…らんちゃんったら、そんな大事件のことはあんまり教えてくれなかったのよ!もうらんちゃんったら!それにしても、パーティーは素敵ね!」
リズット「お陰様で、業務連絡以外の会話も苦ではなくなりました。…肝心なことはいつも言えずじまいで終わるんですけども」
「案内人のお兄さん…前より雰囲気が温かくなったわね。いい目をするようになったわ。前にあった時と全然違うわね。あとはそうね…もっと男らしく、ね?」
面々の話をきいて、真於は満足そうに笑った。
「いろいろあったみたいだけど…どれも貴重な体験ね。らんちゃんのもききたかったのだけど、らんちゃんはこの場にいないのよね…」
真於はため息をついたが、パンパンと両手で自分の頬を軽く叩いた。
「辛気くさい話はやめにしましょ。せっかく来てくださったのだもの。ここは仮にも幸せの街よ?思いっきり羽を伸ばして頂戴な」
レモネードを膝の上に置いて、にっこりと笑いかける。
「そうだわ。確か、皆宛の【ミッション】があると聞いたわ。よろしかったら挑戦してみて欲しいの。あなたたちの未来が、少し変わるかもしれないわ」
思い出したかのように彼女が言うと、搭乗人物たちが首をかしげた。
イヴァン「……ミッション?」
希更「ミッション……?」
「そう難しいものでもないはずよ~。とにかく挑戦してみて貰えると嬉しいわ。出題者がどなたなのかは存じ上げないけども」
ミッションと聞いて、やる気を出すものから不安そうな表情をみせる者もいた。
希更「わかった!あたしちゃん頑張るね!」
「その意気よ~♡この街の何処かに、ミッションがかかれたお手紙が置いてあるらしいの。皆ミッションの内容はバラバラって聞いたわ。きっとお腹がすく頃にミッションが終わるはずだから、終わったらまたうちにおいで。お昼ご飯にカレー作って待ってるから」
コトコトという音がキッチンから聞こえる。あれはカレーを煮ている音なのだろうか。
「とりあえずこれ飲んだら、一時解散。美味しいカレー作って待ってるから、頑張ってね♡わからないことや悩んでることがあれば、私や街の人に頼って頂戴な」
ポケットから財布を取り出すと、真於は搭乗人物たちの手にコインを握らせた。真於は一人三十枚ずつコインを握らせた後、今度はリズットに一枚の地図を手渡した。
「あなたにはこれ。…このまま死者が住まう街で消えるか、現実世界で永遠の夢を見るかはあなた次第。けど、あなたや皆が望めば運命は変えられる。…祈りなさい、行動しなさい、伝えなさい。そうすればわかるはずよ」
そっとリズットにそう告げると、真於は立ち上がった。
「それはあなたたちも一緒。ミッションが終わって、カレーを食べたら…あなたたちの今後が、見えてくるはずよ。きっと」
そう言い残してキッチンへと消えた真於の背中を、搭乗人物たちはじっと見つめていたのであった。