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[硲P♀]意外性

全体公開 1 1264文字
2019-12-17 14:42:03

「随分荒れているな」
手荒れのひどいPさんにクリーム塗ってあげるはざませんせのお話です。

Posted by @toasdm

 意外だ、と思った点はひとつではなかった。道夫とハンドクリームが結びつかない、というのが最も意外だと思ったことであることは確かだが、こうして手を取って直接塗るという行動そのものも、彼女にとっては意外だった。
「随分荒れているな」
「あはは……お恥ずかしい」
 水仕事が多いというわけではないはずなのだが、今年はやけに、手が荒れている。その彼女のごわついた指先に、道夫は持っていたハンドクリームで丁寧に包んで塗りこんでいる。
「私の出身の淡路島は養蜂家が多い」
「へぇ……
「このハンドクリームも、南あわじの養蜂家が採取した日本みつばちの蜜蝋から作ったものだ」
 ふんわりと甘く香るのは、もしかしたら蜂蜜なのかもしれない。とろけるような手触りと香りに、彼女は気持ちまでもが緩んでいくのを感じた。
「意外ですね」
「うん?」
「淡路島とミツバチって、あんまりイメージがなかったので意外です」
「島の工房ではワークショップも開かれている」
「へぇ~……
「このクリームも」
 彼女の指先に丁寧にクリームを塗りこんで、道夫は丸い缶を手にとって彼女に持たせて見せてやる。
「私が作ったものだ」
「え?!」
 よく見ると、缶のラベルには道夫のサインが書かれている。え、と缶と道夫とを見比べて、またひとつ、意外が増えたと彼女は目を丸くした。
「女性が多く、様々な意見を直接聞くことができた」
「な、なるほど……
 そこは意外でもなんでもなく、道夫らしい、と思った。恐らく、次の仕事の参考になるかもしれない、と現地取材よろしく女性の好みそうなものを実際に体験しにいったのだろう。しげしげと缶を眺めて彼女は、それを道夫に返そうとしたが――
「使いなさい。私はもうひとつ持っている」
「え、でも、いいんですか?」
「手が荒れていては気分も落ち込む。それを使えば」
 す、とポケットからもうひとつ同じ缶を取り出して、道夫はあくまでも生真面目な顔のまましれっと言ってのける。

「私とお揃いで、テンションがあがる可能性もある」

 先にテンションあがってるの道夫さんの方でしょ?!
 と、つっこまなかったのは、つっこめなかったからだ。手入れの行き届いた道夫の人差し指が彼女の唇をゆるりとなぞり、じっと瞳を覗きこむ生真面目な顔は、いつの間にか悪戯めいたそれに変わっていた。
「手指だけではなく、ここにも使えるものだ」
「?!」

 私のことを思い出せばいい――

 そんな風に熱っぽく囁くのは、普段の道夫らしくなかったが。
「私もこれを使うたび、君の事を思い出そう」
 恥ずかしげもなくそんな風に言ってのけるのは、道夫らしいといえたかもしれない。

 ありがとうございます、と上手く言えたかどうかはわからないが、甘い蜂蜜の香りは確かに、テンションが少し上がるようだった。引っ掛かりのない滑らかになった指先をしばらく見つめながら、彼女は道夫の意外性についてあれこれ思考を巡らせていた。

 なにせ、意外だ、と思った点はひとつではなかったのだから。


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