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六章 改幕

全体公開 2607文字
2019-12-17 21:51:52

 面々がカルカタッタの探索を始めてしばらくたった頃。
 修道服を身に纏った一人の男性が、とある青年を担いで真於の家へと向かっていた。
 「お姉さん!お姉さん!!今いらっしゃいますか?!」
 ドンドンと扉を叩かれ、カレーの仕込みをしていた真於は、あわてて家の扉をあけた。
 「あら、神父さんじゃない。そんなにあわててどうしたのかしら?」
 真於は神父の背中に担がれていた『青年』をちらりとみてぎょっとした。
 「案内人の………お兄さん?」
 神父は担いでいた『青年』リズットを、玄関にそっとおろした。
 「花壇の前でうずくまっていたのでブーケエクスプレスの案内人さんと聞いて連れてきたのですがどうやら彼も『奪われた』ようなのです」
 奪われた。
 そう、運ばれたリズットは右目以外の『色』を無くしていた。おまけに左目には、真っ白なネリネの花が咲いていた。彼は下ろされるなり、虚ろな表情で真於を見上げた。
 「かろうじで右目の色は残っていますが、この色も近いうちに奪われる可能性がありえます」
 「まさかお兄さんの色まで奪われるだなんて。お兄さん、さっきまで何をやってたか、覚えてらっしゃるかしら?」
 リズットは力なく首を横に振った。
 「とにかく、このまま放置する訳にはいきません。お姉さん、搭乗人物の皆さんを広場に呼んできてください。話して起きたいことがあります」
 「わかったわ少し待ってて頂戴」
 真於は家を飛び出すと、搭乗人物たちを探しはじめた。街の人はそれをみて「なんだなんだ」とざわめきはじめ、搭乗人物たちはそのざわめきに誘われる形で広場へと向かった。
 


八重「ん?何?何かあったの……?」
春霞「わ、また何かあったの?」
イヴァン「……おや、なにかあったのかい……?」
 
 広場に向かうと、右目以外の色を失ったリズットと神父、そして真於が面々を待ちかまえていた。
 「お忙しいところ、ご足労ありがとうございます。私はこの街の教会にいる神父です。突然ですが、ブーケエクスプレスの案内人さんの『色』が奪われました」
 その一言で、息を飲む者もいた。
 希更「どういうこと……!?」
 「様々なものや生命の色を奪われるのは、実はこれまでに何度かありました。しかし、人間が色を奪われるのは初めてです。おまけに彼の左目に、白いネリネの花が咲いております。これは今までの記録にはないものです」
 リズットの左目に宿ったネリネの花は、にょきにょきと大きさを増していく。
 「色を奪われた原因と、色を奪われた者が消えるのを阻止する方法はわかっていません。けれども、この街でとある生命が色を奪われる、ということは【その生命の存在が、近いうちに跡形もなく消えていく】ということなのです」
 
 「話が飛躍しましたね。実は記録によると、色を奪われた生命は【近いうちに消滅】し、その後【だんだん人々の記憶から存在を抹消】され、この街にいなかったことになるのです」
 神父は一呼吸おいてこう告げた。
 
 「つまり彼は近いうちにいなくなり、皆さんは『彼』のことを忘れてしまうのです」
 
 神父は淡々と説明しているが、どんなリアクションをしていいのかわからない者も多かった。
 
イヴァン「記憶から抹消……
 
 「【色を奪われた生命】に新しく絵の具等で色をつけても効果はないそうです。無機物にならいくらでも色は付け足せるのですが
 
 リズットは話をききながら、諦めたように街を見上げた。空がないせいか、この街と同化してしまったような気持ちになっていた。
 「先程もお伝えしましたが、消えた生命そのものがどうなるかは、解明されていません。けれども、その生命が消えてからすぐにカルカタッタを出ていった者は、消えた生命の記憶を残して置くことが出来るそうなのです。ただ、カルカタッタを出ていくための手段があまりないのです
 神父は、線路があったほうをちらりとみやった。
 「【カルカタッタのしらべ】にあった『観光客が訪れることもあるようですが、この街の雰囲気に惹かれてそのまま永住する人が多いそうです』というのは、このことなのです。それとは別に『ここにいれば、色を奪われない限り、永遠の命が手に入れられる』というのも理由の一つなのですが」
 
イヴァン「ハイリターン、なのかは分かりかねるが……なかなかのハイリスクな町だね」
 
 真於はうつむきながら、髪をいじった。
 「噂では、ミッションの出題者が持っている『チケット』を手に入れると出られるって聞いたことがあるわ。けど、ミッションの出題者が誰なのかがわからないの。それにカルカタッタを出ていくには、何か『代償』が必要らしいの。代償は、人によって違うって聞いたことがあるわ。しかも、カルカタッタを出るために、大事な人を無くしてしまうこともあるみたいなの」
 
 「ごめんなさいね。本当は皆に、こんな話をするつもりはなかったの。お兄さんがこれからどうなるのかは、私にもわからないけども

八重「謝ることじゃ……ないですよ」(小声)
 
 「わたくしは別にどうなっても構いませんがカルカタッタから出られないのなら、皆様は現実世界に帰れないのではないでしょうか。皆様が永遠にカルカタッタに滞在し続けたいのなら、話は別ですが」
 
 リズットがそう言ったあと、真於はすこし考えてから搭乗人物たちに問うた。
 「皆は【お兄さんのことを忘れて永遠の命を手に入れる】のと、【代償を払ってカルカタッタを出ていく】のと、どっちがいいかしら」
 
 「カルカタッタを出ていくためのチケットが、どこにあるのかはわからないわ。けれどもし時間があるときでいいわ。でも出来るだけ早く私にその答えを聞かせて頂戴。それとお兄さんは今のところ元気そうだけど、お兄さんと何かできるのは今のうちだけってことを、忘れないで頂戴」

イヴァン「……悩むまでもない、答えなんて始めから決まってるよ」
 
 「答えが決まってる子は、それはそれでいいわ。まだ答えが決まってない子はそうね、ミッションでもやりながら考えて頂戴な」
 そういうと真於は去っていき、神父も頭をさげて教会に戻った。
 広場には、真っ白になったリズットと、搭乗人物たちが取り残された。


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