@875108Express_
面々がカルカタッタの探索を始めてしばらくたった頃。
修道服を身に纏った一人の男性が、とある青年を担いで真於の家へと向かっていた。
「お姉さん!お姉さん!!今いらっしゃいますか?!」
ドンドンと扉を叩かれ、カレーの仕込みをしていた真於は、あわてて家の扉をあけた。
「あら、神父さんじゃない。そんなにあわててどうしたのかしら?」
真於は神父の背中に担がれていた『青年』をちらりとみて…ぎょっとした。
「案内人の………お兄さん…?」
神父は担いでいた『青年』…リズットを、玄関にそっとおろした。
「花壇の前でうずくまっていたので…ブーケエクスプレスの案内人さんと聞いて連れてきたのですが…。…どうやら彼も『奪われた』ようなのです」
奪われた。
そう、運ばれたリズットは…右目以外の『色』を無くしていた。おまけに左目には、真っ白なネリネの花が咲いていた。彼は下ろされるなり、虚ろな表情で真於を見上げた。
「かろうじで右目の色は残っていますが、この色も近いうちに奪われる可能性がありえます」
「まさかお兄さんの色まで奪われるだなんて…。お兄さん、さっきまで何をやってたか、覚えてらっしゃるかしら?」
リズットは力なく首を横に振った。
「…とにかく、このまま放置する訳にはいきません。お姉さん、搭乗人物の皆さんを広場に呼んできてください。話して起きたいことがあります」
「わかったわ…少し待ってて頂戴」
真於は家を飛び出すと、搭乗人物たちを探しはじめた。街の人はそれをみて「なんだなんだ」とざわめきはじめ、搭乗人物たちはそのざわめきに誘われる形で広場へと向かった。
八重「ん?何?何かあったの……?」
春霞「わ、また何かあったの?」
イヴァン「……おや、なにかあったのかい……?」
広場に向かうと、右目以外の色を失ったリズットと神父、そして真於が面々を待ちかまえていた。
「お忙しいところ、ご足労ありがとうございます。私はこの街の教会にいる神父です。突然ですが、ブーケエクスプレスの案内人さんの『色』が奪われました」
その一言で、息を飲む者もいた。
希更「どういうこと……!?」
「様々なものや生命の色を奪われるのは、実はこれまでに何度かありました。しかし、人間が色を奪われるのは初めてです。おまけに彼の左目に、白いネリネの花が咲いております。これは今までの記録にはないものです」
リズットの左目に宿ったネリネの花は、にょきにょきと大きさを増していく。
「色を奪われた原因と、色を奪われた者が消えるのを阻止する方法はわかっていません。けれども、この街でとある生命が色を奪われる、ということは【その生命の存在が、近いうちに跡形もなく消えていく】ということなのです」
「話が飛躍しましたね。実は記録によると、色を奪われた生命は【近いうちに消滅】し、その後【だんだん人々の記憶から存在を抹消】され、この街にいなかったことになるのです」
神父は一呼吸おいてこう告げた。
「つまり彼は近いうちにいなくなり、皆さんは『彼』のことを忘れてしまうのです」
神父は淡々と説明しているが、どんなリアクションをしていいのかわからない者も多かった。
イヴァン「記憶から抹消……」
「【色を奪われた生命】に新しく絵の具等で色をつけても効果はないそうです。無機物にならいくらでも色は付け足せるのですが…」
リズットは話をききながら、諦めたように街を見上げた。空がないせいか、この街と同化してしまったような気持ちになっていた。
「先程もお伝えしましたが、消えた生命そのものがどうなるかは、解明されていません。けれども、その生命が消えてからすぐにカルカタッタを出ていった者は、消えた生命の記憶を残して置くことが出来るそうなのです。ただ、カルカタッタを出ていくための手段があまりないのです…」
神父は、線路があったほうをちらりとみやった。
「【カルカタッタのしらべ】にあった『観光客が訪れることもあるようですが、この街の雰囲気に惹かれてそのまま永住する人が多いそうです』というのは、このことなのです。それとは別に『ここにいれば、色を奪われない限り、永遠の命が手に入れられる』というのも理由の一つなのですが」
イヴァン「ハイリターン、なのかは分かりかねるが……なかなかのハイリスクな町だね」
真於はうつむきながら、髪をいじった。
「噂では、ミッションの出題者が持っている『チケット』を手に入れると出られるって聞いたことがあるわ。けど、ミッションの出題者が誰なのかがわからないの…。それにカルカタッタを出ていくには、何か『代償』が必要らしいの。代償は、人によって違うって聞いたことがあるわ。しかも、カルカタッタを出るために、大事な人を無くしてしまうこともあるみたいなの」
「…ごめんなさいね。本当は皆に、こんな話をするつもりはなかったの。お兄さんがこれからどうなるのかは、私にもわからないけども…」
八重「謝ることじゃ……ないですよ」(小声)
「わたくしは別にどうなっても構いませんが…カルカタッタから出られないのなら、皆様は現実世界に帰れないのではないでしょうか。…皆様が永遠にカルカタッタに滞在し続けたいのなら、話は別ですが」
リズットがそう言ったあと、真於はすこし考えてから搭乗人物たちに問うた。
「皆は【お兄さんのことを忘れて永遠の命を手に入れる】のと、【代償を払ってカルカタッタを出ていく】のと、どっちがいいかしら」
「カルカタッタを出ていくためのチケットが、どこにあるのかはわからないわ。けれどもし…時間があるときでいいわ。でも出来るだけ早く私にその答えを聞かせて頂戴。それと…お兄さんは今のところ元気そうだけど、お兄さんと何かできるのは今のうちだけってことを、忘れないで頂戴」
イヴァン「……悩むまでもない、答えなんて始めから決まってるよ」
「答えが決まってる子は、それはそれでいいわ。まだ答えが決まってない子は…そうね、ミッションでもやりながら考えて頂戴な」
そういうと真於は去っていき、神父も頭をさげて教会に戻った。
広場には、真っ白になったリズットと、搭乗人物たちが取り残された。