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[信玄P♀]優しさは力に

全体公開 1670文字
2019-12-20 12:58:16

「もういい、もう大丈夫だ」
セクハラされたPさんと信玄さんの護身術のお話です。

Posted by @toasdm

 やってやれないことはないが、やりたいかやりたくないかでいったらやりたくない。あとは微妙に専門外なのと、専門外が故の加減ができるかどうかがわからないのとが、誠司に、彼女の要求をなんとかしてかわさせようとしている。そんな誠司の気持ちなど露知らず、彼女は期待に満ち満ちた目で、誠司を見ている。
「かけてくださぁい!」
「と、言われてもな……
 酔って帰宅した彼女がいきなり、プロレス技をかけてくれ、と玄関で抱きつかれた瞬間から今まで、誠司は混乱し通しだ。だってかっこいいじゃないですかぁ、と酒臭い、理論未満の理由を並べてはいるが、恐らくは、酒に酔ってのことだろう、と、流そうとして、誠司は我が目を疑った。
……自分の体格で言っても、信じてもらえるかどうかはわからないんだが」
 そして彼女が荒唐無稽な事を言い出した理由に気付き、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
「力のない女性でも、どうにかなる」
 自衛隊仕込の徒手格闘なら、誠司にも随分と分がある。彼女に気付かれないようにそっと、誠司は彼女の目尻を拭ってやった。
 ベッドルームまで手を引いて、誠司は彼女をベッド脇に立たせる。まだふらふらと、覚束ない足取りながらも立っている彼女がどんな気持ちで帰宅したのかを考えるだけで、誠司がやり場のない怒りで全身の毛穴が開く気すらした。
「例えば」
 自分の声の冷静さに、誠司はいっそ冷酷な空気すら感じて自身の怒りの度合いを知る。ふ、と短く息を吐き、誠司は彼女の手を優しく取って、自身の首の後ろに回させた。
「こうして、肩を組むように腕を回されたら」
「っ……
 やはり、こんなことを、望まない相手にされたのか――
 彼女の表情の強張りから、誠司は一手目で正解を引き当てた自身の洞察力を褒めていいのか恨んでいいのかわからなくなる。極めて優しく、しかし冷静に、誠司は彼女の手首を両手でぎゅっと掴んだ。
「こうして相手の手首をしっかり掴んで、嫌かもしれないが、自分の体にしっかり押し付けるように引いたまま」
 体はしっかり、覚えていた。ぐっと手を引き掴んだまま、誠司はすっと腰を屈めて身を翻し、彼女の腕の下にするりと頭を通して回り込む。
「頭を通して腕を外して、その時、相手に近い方の足を一歩後ろに引いて体重を移動させる」
「んっ……?」
「そしてそのまま」
 しっかりとした体躯が彼女の後ろに、掴んだ手首ごと完全に背後に回りこんで、両手でがっちり掴んだままの手首は、彼女の背中にぐっと強めに押し付けられる。
「こう、関節を極めて」
「あぅ」
 少し強過ぎただろうか、と押し付ける力を僅かに緩めた誠司は、ベッドの方へと向いた彼女の膝の裏を、軽く足の裏でとん、と押す。
「っわ」
「こうすると、膝をつかせることができる」
「ぅ」
……プロレス技とは少し違うが、こうすることで」
 ベッドにうつ伏せに倒れたままの彼女の背中に、誠司はゆっくりと倒れこみ、体重をかけすぎないように優しく抱きしめる。
…………自分が、いない時でも、守ってやることが、できるかもしれない」
「っっう、ふぇ」
 漏れ出す嗚咽と隠れた涙が、ふかふかの掛け布団に吸い込まれていく。辛かっただろう、苦しかっただろう、と震える肩と頭とを、誠司の大きな手が撫でる。
「うわぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
「もういい、もう大丈夫だ」
 どこまでも優しい声の裏に、どれだけの怒りを隠しているかは、どうか彼女には知れないでほしい、と、誠司は持てる全ての優しさで彼女を包んで癒す。立場の弱い彼女に触れた不届き者の名前など知りたくなかったし、知ったが最後、自分が何をするかわからなかったから、誠司は彼女の嗚咽以外を聞かなかった。
……自分に、守らせて欲しい」
 誠実さを込めたその一言で、流せる程度の接触だったのだろうか。感情を全て吐き出した彼女のしゃくりあげる声が徐々に落ち着いて、やがて寝息にとって変わる。

…………もう、大丈夫だ。」

 誠司のありったけの優しさは、力になって彼女を癒した。


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