@acbh_dmc4
やけ酒したい時なんて腐るほどある。
特に無理矢理ローマに攫われてきてからと言うもの、俺を攫った張本人から散々な辱めやら罵倒やらを受け続けて、飲んでないとやってられない位には心がやさぐれている。
でも欲しい時には飲酒は控えられ、男の気が向いた時くらいしか許可が下りないし、何故か許可が下りると潰す勢いで飲まされる。
男の真意なんて俺には分からないが、それでも飲む許可が下りれば勧められるまま赤い液体を好きなだけ呷った。
そして今日は珍しくアサシンの隠れ家で開かれているプチ宴会に、俺の参加が許されていた。
俺と同じアサシンの弟子たちとワイワイと騒ぎながら互いに酒を注ぎ合い、誰ともなく持ち寄られた美味な料理に舌鼓を打つ。
今日は他のアサシンからも次々に酒を勧められ、大分早い段階で酔いが回っていた。
「むぅ…もう、いらないっ…」
飲み過ぎてちょっと頭が痛いし、お腹もいっぱいだ。もうこれ以上飲めないし食べれない。
それになんだか悲しくなってきて飲む処じゃない。
悲しい原因の男に今日こそは物申して謝罪させてやる!と意気込んで隣にいる男の腕をグイっと引っ張ると、男は冷めた目で俺を見下ろしてきて、それでまた悲しくなってしまった。
男は俺の顔を見てギョッとすると、俺を無理矢理立たせて宴会の場から離脱した。
なんだか良く分からない内に外に連れ出されて、気持ちのいい夜風に当たるとさっきまで感じていた悲しさが楽しさに変って思わず笑い声が漏れた。
「泣き出したり笑い出したり、情緒不安定か」
「誰のせいだとおもって、うぅ~」
「…まったく、エツィオ」
ぐいっと腕を引かれてつんのめると、男の胸に抱き込まれた。
男の酷い言葉で悲しくなって涙が出るのに、そのぶっきら棒な抱擁一つで気持ちが落ち着く。
こんなにキチクなのに女の人にモテるんだからなんてヒドイ世の中だ。
「かおがいいからってちょうしのんなよ!バカー!」
「ふむ。では肝に銘じておけ」
「おれじゃなくってアンタだろー!この!あんたなんて…あんたなんて…カオは良いけどキチクだしイジワルだしきびしいしヒドイ奴だ!カオは良いのに…」
「将来の自分の顔を気に入っているようで何よりだ」
「だまってればかっこういいのに…」
「自分の事を良く分かっているじゃないか」
「トイレ行きたい」
急にもよおしてしまい、それを告げれば、飽きれたような顔をした男が俺を離した。
俺を包んでいた熱が引いて、なんだか寂しくなる。
もう一度抱きしめて欲しくて、でも言うのも癪で男の服の裾を掴んで、思わずしゃくりあげた。
「おい。何故泣く。トイレに行きたいんじゃないのか」
「い、いく…うぐっ…うっ…」
「まさかトイレを手伝ってほしいなんて言うんじゃないだろうな?」
「のぞき!へんたい!」
「誰が変態だ。さっさと済ませてこい」
乱暴に目元を男の服の袖で拭われ、背を押されて促されたので、いったん隠れ家に戻った。
アイツも結構飲んでたし、酔ったアイツはちょっとだけ優しく感じるから嫌じゃない。
でも俺が飲酒を勧めると、ぜんっぜん飲んでくれない。こうして宴会でもないと酔う程飲まないし。
どうしてか聞いてみたけど、忌々しそうに顔を顰めて「懲りた」と一言言っていた。
用を足してついでにちょっと吐いてから男の待つ鍛冶屋の前の広場へと戻る。
男は石垣に両肘をついて、呆っと下の広場を見下ろしていた。
なんとなく気持ちが落ち着いて、男に並び広場を見下ろして気持ちの良い夜風に当たる。
そういえば今の自分はフードもスカーフもつけていないけれど、男が叱責してくる様子はない。
それとも宿へと帰れば仕置きと称した夜伽が始まるのだろうか?
まぁ別にするならするでいいかと思い、突っ込まれるまでは何もしないことにした。
「…フードとスカーフをした方が良いと気付いたのなら着けたらどうだ?」
「むぅ、バレたか」
「フン、お前の考えている事など」
「わかるっていうんだろー」
石垣を掴んだまま背を後ろに倒してぶらぶらと体を揺らす。
そうして遊ばせていると、なんだか楽しい気持ちになってくる。
男は相変わらず俺の方を見ないで下の広場に集まっている民衆を観察していて、何を考えているのか分からない。
でも俺にかける言葉に刺はないので、案外機嫌が良いのかもしれない。
そしてその無表情な横顔を眺めて居ると、是が非でもこっちを向かせてやりたくなる。
「おれって年を取ったらきむつかしくなるのか?」
「お前にとっては気難しく見えるだけだろう」
「でもどーしは優しいのに、不思議だ。もっと年をとれば今度は丸くなるのか」
「こんな生活をしていれば荒くもなるだろう。それとあの男は別に優しくない」
少しだけ不機嫌そうな声で導師が優しくないと言う男の言葉に、やっぱり楽しくなってケタケタ笑う。
そんな俺に呆れたのか、こちらを見ないままで小さくため息を吐くと、俺のフードを掴んで被せられた。
「帰るぞ。お前のご所望の仕置きをしてやる」
「えー、アンタがヤリたいだけなんじゃないか。別にいいけど」
「言っとくが今日は一晩中説教だ」
「鬼!悪魔!横暴!人でなし!ってか今日は俺何もしてないし!」
「ほう?スカーフもつけていないようだが?」
慌ててスカーフを口元に当てれば、男がくつくつと喉を鳴らして笑った。
面白そうに笑う男のレアな表情に、思わず目が釘付けになる。
なんだか顔も火照ってきて、俺は慌ててスカーフを顔に巻き付けた。
「おい。目は覆うな。どうやって道を歩く気だ」
「アンタに掴まってく」
「どの道、酒で顔が赤いのか俺に見とれて赤くなってるのか分からんのだから、いつも通りの巻き方でいい。貸せ」
「見惚れてなんか、ないっ!」
顔に巻き付けたスカーフを奪い取られ、もう一度フードを落とされる。
向かい合わせで頭の後ろでスカーフの端を結び付けている為、男の顔が近い。
そっけない表情なのに、何処か優しく見える端正な男の顔をチラリと眺めれば、今度は煩いくらい心臓が高鳴った。
俺がこんなに落ち着かない気持ちになっているのに、澄まし顔の男に少しだけ腹が立ち、スカーフを結び終えてもう一度フードを被された瞬間に、男の唇を奪ってやった。
布越しに柔い唇を食むようにして重ねれば、煩い心臓の音と共に、甘く疼くような情欲が体に灯る。
堪らなくなって男の反応を見ないまま強引に男の腕を取り、泊っている宿までの道を走り抜けた。
宿に着いてもし煩い説教を垂れるようなら、今度はその唇をスカーフを取ってから沢山塞いでやろう。
何故泊っている宿とあそこの隠れ家はこんなに遠いのか、やっと宿に辿り着いて、くるりと男へと向き合った。
呼吸を整える間もなく、男が行動を起こす前に甘い誘いを仕掛けようと、男の胸に飛び込もうとした。
しかし同時に胸から込み上げる物があり、思わず男の腕にしがみ付いて男の胸目掛けて嘔吐した。
一度吐いてしまうと全て吐き終えなければ止まらず、ひたすら男に向かって吐き続ける。
胃の中の気持ち悪いものを全て吐き終えて、ズキズキと脈打つような鈍痛に頭を抱えようとしたら、目の前に水の入ったコップを差し出された。
「口を濯げ。それから水を飲んで寝ろ」
「うぅ…ありが、とう…」
いつの間にか目の前に用意されていた甕に、口を漱いだ水を吐き捨てると、男の介助でベッドへと誘導され、水を渡された。
有難くそれを飲んでからベッドへと横になる。
着たままだったローブや靴は、男が盛大な溜息をつきつつ寝支度を整えてくれた。
先程まであったヤる気も綺麗に無くし、痛む頭を抱えてベッドに沈む。
明日男からの叱責があるかもとか、折角いい感じだったのにだとか、道中走ってしまったのがいけなかったかな等とボンヤリと考えながら、眠りへと落ちて行った。
翌朝、目を覚ましたら地獄が待っていた。
痛む頭と二日酔いで収まらない吐き気に、いっそ殺せと呟く。
その言葉に答える様にびしゃびしゃに濡れた手ぬぐいが勢いよく顔に投げつけられ、不機嫌そうな声が掛けられた。
「考えなしに飲むからだ。今日は小まめに水分補給をしておけ」
痛む頭を動かして声の主を見やると、男はアサシンローブではなく、簡素なシャツ姿で水の入った甕を持ち、呆れたように俺を見下ろしていた。
サイドチェストに水入りの甕を置くと、俺の額に投げつけた手ぬぐいを取って、水に浸して余計な水を絞る。
それを今度は優しく俺の額に置いてから、男はベッドの端に腰掛けた。
「…これから任務に行くのか?」
「弟子から一報が入れば動く事になる。だが昨日の今日で大した情報が入る事はないだろうから、一日お前の看病だ。まったく…」
「っていうか、俺昨日アンタに吐きかけたよな…その、ごめん、なさい…」
「こうなるとわかっていたから、入り口近くに甕と水差しをあらかじめ用意しておいた。
お前が振り返った時には甕を持っていつでも吐かれる準備は万端だったから問題ない。だが、今後は控えるんだな」
「…はぃ」
何気に優しい…
気分は最悪だが、男の看病は素直に嬉しい。
男は懲りたとは言っていたけれど、こんな風に看病してもらえるんなら…
「言っておくが、介抱してやるのは今回きりだ。次は捨てていく」
良いかもと思った瞬間に思考を読んだように睨みを利かせられ、やっぱり俺も懲りとこうと、そう心に誓った。