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[雨P♀]クリぼっち

全体公開 2013文字
2019-12-24 13:37:28

「いつも頑張ってるお前さんに、葛之葉サンタからのお届けもの、ってな」
クセの強いクリぼっちPさんと雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 クリぼっち、という言葉が流行り出した頃、それを「なんかえっちだ」と思った自分がいたことを思い出して彼女は一人、いたたまれない気持ちになる。だってクリでぼっちだよ?!卑猥じゃん!と友達にくだらない話を振ってみたが、私彼氏とデート、の返事にやり場のない怒りを煮詰めるだけになったのは、何年前のクリスマスだっただろうか。
「はぁ……
 今は「仕事なので」と言い逃れもできるし、今年のクリスマスは平日だ。大手を振って仕事に没頭できるこの喜びは、決して、負け惜しみなどではない。そう思わないとやっていられない、何がクリスマスよ、と悪態をつきながら、彼女は残業と事務所でラブラブデート中だ。
 年末年始は大寒波がやってくるらしい、と今朝のニュースで言っていた。財布も心も常に大寒波ですけどね、と投げやりになりながら飲んだコーヒーはすっかり冷えていて、おなかもすいたしなんか食べよっかな、と彼女はデスクで伸びをする。
……ん?」
 悪態をつきながら負け惜しみで、やけくそ気味に没頭していた残業との嬉しくない逢瀬でも、そこは彼女の生真面目な性格だろうか、集中力だけは失われてはいなかった。今の今まで彼女は、スマートフォンの着信に全く気付かなかったのだ。誰だろう、と確認してみれば、着信一件、三十二分前、葛之葉雨彦。留守電は入っていないから、かけまちがいかなにかだろうか、と、夜の繁華街で仲間と(あるいは意中の女性と)楽しく過ごしている雨彦の姿を想像しては、ケッ!と彼女はそれを放り投げた。
「どーせ私はクリぼっちですよーだ」
 仕事が恋人だからいいもんねー、と不貞腐れながらコーヒーを入れなおして、ふ、と彼女は思いなおす。
 ……あの葛之葉さんがかけ間違いとかするか?
 パソコンの使い方は不慣れだと言っていたものの、メッセージアプリやメールの返信はもたつくこともなくスムーズで、スマートフォンの操作に疎いということは全くなかったように記憶している。だったらどーせどこぞで酔っ払って冷やかしでかけてきたんでしょ、と無理に理由をつけなおしてみたが、それもしっくりこなかった。人をからかって遊ぶのがライフワークなところはあるけれども、いつも雨彦は、彼女に「お疲れさん」と心をこめて言ってくれるからだ。
……なんの、用だろ?」
 年末進行で雨彦のスケジュールは余裕があったから、仕事関係ではないとは思うが、妙に気にかかる。あつあつのコーヒーと一緒にデスクに戻り、彼女は引き出しから取り出した個包装のクッキーをかじって電話をかけなおした。

「はい、葛之葉です」
「お疲れ様です」
「ああ、お前さんか。忙しかったかい?」
「今は大丈夫です、遅くなってすみません」
「そうかい。今、事務所かい?」
「そうですね。平日なので」
 平日、をやけに強調した彼女の強がりめいた口調を、電話の向こうで雨彦が笑う。耳を澄ませてみたが、繁華街や飲み屋のガヤガヤは聞こえない。うっすらと流れるクリスマスソングは、カーラジオだろうか。なにかありましたか、と状況分析を終えて聞きなおした彼女に、電話の向こうの声は少し嬉しそうに答えてくれる。
「知り合いからケーキを引き取ってな。お前さん、いちごとチョコどっちが好きだい?」
「は?」
「お裾分けさ。男一人で食べきれる量じゃない」
「まぁ……いちご好きですけど」
「そうかい。まだいるんだろう? 届けるよ」
「はぁ……どうも」
「いつも頑張ってるお前さんに、葛之葉サンタからのお届けもの、ってな」
……
 この後ろ向きの感情を、頑張っている、と言われた居心地の悪さはなんだろうか。こちとらクリぼっちで、クリぼっちを卑猥とか思ってた女だぞ、とくだらないことを考えながら、彼女は電話口で何気なく呟いていた。
「葛之葉さん」
「なんだい?」
「クリぼっち、って、なんかえっちじゃないですか?」
…………
 たっぷりの沈黙が物語るのは、彼女の「やらかし」だ。うわ何言ってるのバッカじゃないの?!と慌てたところで後の祭り、電話の向こうで雨彦は盛大にふきだしていた。
「っくくく……待て、お前さん、なんだいそれは」
「だ、だって、クリでぼっちってまんまじゃないですか?!」
「知るか! っははははは、あー、なんだお前さんは!」
 クリスマスも仕事で気でもふれちまったのかい?とげらげら笑う雨彦が、癒してやるから待ってろよ、と一方的に電話を切り、彼女はデスクで頭を抱えた。
「あー、あー、あー、あーーー!」
 いくら叫んだところで雨彦がここに来るのは変わらない。せめてもの慰みに、ケーキもらったら一緒に食べて色々なかったことにしよう、と彼女は二人分のコーヒーを淹れる準備をした。それくらいしか、今の彼女にできることはなかった。

 笑いすぎて涙目になった雨彦がケーキと共に事務所を訪れたのは、それから間もなくのことだった。


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