2019年に聞いた10曲+αの話をするよ
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◆1.Fantastic future/田村ゆかり(2013年)
いきなり旧譜から始まります。たぶんCMとかで聞いていて前から何となく知っていた曲だったんだけどちゃんと聞いたのは今年になってからでした。私が人生で一番聞いている歌手はたぶん田村ゆかりで間違いないと思うんだけど、それも2009年までの曲で、それ以降のキングレコードの曲は聞かないままでした。楽曲制作陣が変わって何となく合わない感じがして。今年になって聞いてみようと思ったのは、2019年が声優のアルバムをたくさん聞く年になったから今なら受け止められるかなって。
キングレコード時代最後のアルバム3枚は、ほとんどの曲をプロデューサーの太田雅友が作編曲しています。この人はすごく器用な人なのでいろんな曲が作れるんだけれどもそれでもやっぱり1人でアルバムのほとんどの曲を作ってしまうと、かつての田村ゆかりのアルバムにあった魅力である曲の幅の広さはどうしても失われてしまうわけで
…… 裏側にどんな事情があってこの時期のアルバムがこうなっていたのかは分からないけれど、その後キングレコードでの楽曲制作をやめることになって今はCana Ariaという新しいレーベルからミニアルバム2枚が出ていて、この2枚のミニアルバムがまた楽曲の幅を感じさせるものになっていることに妙に必然性を感じてしまったりします。
「Fantastic future」は実はこのキングレコード後期の楽曲で、しかも作編曲が太田雅友。太田雅友はギタリストでもあるので、ギターサウンドな楽曲が得意なんだけれどもこの「Fantastic future」はエレクトロポップな楽曲になっています。「バンビーノ・バンビーナ」みたいにキャッチーで盛り上がる曲を作るのが本当にうまい。
この曲が2019年の10曲のうちの1曲になっている理由はもう1つあって。それは「BanG Dream!」のバンドPastel*Palettesのカバーを聞いたから。実をいうと最初にちゃんと聞いたのはこのカバー曲の方でした。
これは本当にすごいカバーだと思います。歌っている前島亜美さん(丸山彩役)の歌声が田村ゆかりの歌い方を想起させるものになっていて、サビ頭の「もう一回」のところが特にそっくりで。オリジナルの方はちゃんと聞いたことがなかったのに、それでも田村ゆかりのカバーだって強く感じさせるもので。前島亜美さん、ハスキーめのキュートな声で、声質の系統は2人とももともと近いんじゃないかなと思います。たぶんあと小倉唯も(「Baby Sweet Berry Love」のカバーもしてましたね)。
有名なアーティストから提供を受けたり、カバーをしたりすると、元のシンガーの歌い方に引き寄せられて行ってしまう現象ってあると思うんですけど(サザンの曲を歌うとみんな桑田になっちゃうあれ)、この「Fantastic future」もひょっとすると単にそうなのかもしれない。でも確かに歌い方は寄せていっているのかもしれないけど、それでも前島亜美さんの歌声の魅力が消えてしまっているわけではないし、偶然だとしてもそうやってカバーされたことの重要性もあると思うわけです。こうして歌がカバーされること自体が、歌に新しく息を吹き込むことであり歌をこの世に生かすということであってそれが素晴らしいし、歌い方が似るということも元々のシンガーの田村ゆかりの歌い方という身体性が受け継がれるということであってそれもまた素晴らしいことなのです。
ところでこのBanG Dream!のゲームである「ガールズバンドパーティー」、もともとシンデレラガールズの界隈にいた私にとって2019年に新しくふれた3大スマホゲームの1つになりました。ほかはナナシスとシャイニーカラーズ。スマホゲームには良い物語がないっていうツイートを最近読んでしまったんだけど、そんな風に思ってしまう人にガールズバンドパーティーとナナシスとシャイニーカラーズのことを知ってほしい。質の高い熱量のある物語を読むことができます。
アイマス、ラブライブ、プリティーシリーズ、アイカツシリーズが四大二次元(女性)アイドルコンテンツだとしたら、ガルパ、ナナシス、シャニマスは裏三大二次元アイドルコンテンツだと思っています(?)そのくらいにPastel*Palettesの物語は素晴らしいアイドルの物語でした。
◆2.パペピプ☆ロマンチック/吉武千颯(2019年)
2019年のプリキュア、「スター☆トゥインクルプリキュア」の前期EDテーマです。
スター☆トゥインクルプリキュアのテーマは宇宙と想像力。そのことを歌で表現したのがこの「パペピプ☆ロマンチック」です。
宇宙になぜ想像力とロマンなのかというと、宇宙開発のような科学的な挑戦の裏にはやっぱり宇宙への想像力とロマンがあるからなのだと思います。それから、宇宙人との交流を描く中で、見た目や考え方や出身の違う人たちとも手を取り合うためには想像力が必要だということも。見た目や考え方や出身の違う人たちとも手を取り合うことができるように、というテーマは国際化が進むとともに差別の問題も大きくなっている現代において、とてもアクチュアルな問題です。そして主に少女がターゲットとなっている作品で宇宙と科学を描くこともまた、非常に現代的です。そういう点でも、去年の「Hugっと!プリキュア」の流れを受け継いでいてとても高い評価を与えたくなります。
そういうテーマのレベルだけでなく、「スター☆トゥインクルプリキュア」は1話1話がとても楽しくて面白い。宇宙というテーマが大大大好きなのでそれで心を掴まれてしまったっていうのもあるのかもしれないですけど
……
「スター☆トゥインクルプリキュア」は、出演者の上坂すみれさんがインタビューで答えてるように、メンバーがいつも一緒にいるわけじゃなくて、みんなそれぞれ自立している感じなところもすごく良い。いつも一緒で仲良しっていうのももちろん良いんですけど、自立していることで自分の問題について自分一人でじっくり考える時間を大事にしているのが感じられるのがすごく良いのです。こういう時間はすごく大事。
私の一番好きなプリキュアは「スマイルプリキュア!」ですが、それに並ぶくらいに好きな作品になりました。まだエンディングは迎えてないけど1年間ありがとう。いやだまだ終わらないで
…… お別れしたくない
……
で、EDテーマの「パペピプ☆ロマンチック」、この曲は80年代風の音楽になっているのが特徴で、その上でプリキュアらしくかわいいものになっているのがすごく良いです。
80年代風というのもアニメ全体のモチーフとなっていて、プロデューサーのインタビュー記事では、親子で楽しめるようにということで「クリィミーマミ」や「うる星やつら」のカラーリングやモチーフを参考にしたとあり、EDテーマもそれに連なっているわけです。プリキュアといえばEDのダンスですが、この曲の振り付けにはピンクレディーの「UFO」を思わせるもの(頭の後ろから手を出すやつ)もあります。
この80年代っていうのはたぶんここ数年のブームで、80年代リバイバルは来ていると思います。世界的に日本のシティポップの再ブーム(発見?)がVaporwaveの流行の中で起きていたり、日本でも80年代アイドル風の楽曲が発表されたり、80年代風のデジタルロックが作られたり。私がこういうの大好きなのでそう感じてるだけなのかもしれないですけど
…… 世代的に80年代を生きた人たちの子供世代がいま大人になっているというのもあるかもしれませんね。
後期EDテーマの「教えて
… !トゥインクル☆」も80年代風の音楽なんだけど、アニメーションが衝撃的。完全にVaporwaveから派生したSynthwaveの映像になっている。子供がメインターゲットなところにこういうマジの、しかもどちらかといえばアングラ寄りな流行を取り入れるのがすごいしそれがめちゃめちゃ上手いのもすごい。
◆3.ミツバチ/Le☆S☆Ca(2019年)
初めて聞いたナナシスの歌がLe☆S☆Caの「Behind Moon」でした。切ない秋の夜の歌。この歌で引き込まれてナナシスの歌を次々聞いていきました。けっこう長い間曲を聞くこととがメインだったんだけど、2019年になってやっと本格的にナナシスの物語の世界の中に足を踏み入れました。
2019年、ナナシスはものすごい勢いとスピードで駆け抜けた年だと思う。強い光を放ったセブンスシスターズの輝きから生まれた闇の存在と、アイドルユニットとの敵対的な衝突の物語を描いたEPISODE 4.0に、長年の謎だったセブンスシスターズ解散の裏側を描いたEPISODE 0.7、EPISODE 4.0終了の時間(2035年)から8年時間を進めることを予告したEPISODE 5.0の予告。そしてLe☆S☆Ca3人の声優のうち2人の交代。「ミツバチ」はそんな声優の交代の後に発表された楽曲です。
EPISODE 4.0の結末では、メインメンバーであったジャーマネのコニーさんとの別れが描かれているし、4.0の主題歌である「夏陰」もそれを歌っている。過去編であるEPISODE 0.7もセブンスシスターズの解散の裏側の物語。2019年のナナシスは別れの物語に焦点を合わせたものだったように思います。
ナナシスの大きな特徴は、アイドルを単なる輝かしい存在として描かないこと。EPISODE.4Uでもセブンスシスターズ解散の影響でアイドルが信じられなくなった人々の心の葛藤を描き上げた上で、「アイドルはアイドルじゃなくてもいい」と最後にそっと添える。777☆SISTERSの歌も、誰かの背中を押すことを目指して、「夢を見る僕たちは/ひとりで隠れて泣くから」とか「ねぇ奇跡みたいな僕らはみんな/いつかは消えてしまうけど」と歌ったりする。アイドルはアイドルとして存在感を残すかもしれないけど、それ以上にアイドルの存在と活動が誰かの背中を押して、その事実があればアイドルの存在自体は後に残らなくてもいいみたいな
…… こういうアイドル像を描いたものはたぶん他にほとんどないと思う。
長く続くコンテンツにとって、声優の交代はちょっとした事件になります。実際のライブイベントなどが行われる場合、特に声優は演じるキャラクターと同一視される傾向が強くなるので、キャラクターの同一性が揺らぐことになってしまうわけです。場合によってはコンテンツの裏側の軋轢などについての噂話がおきたり、交代自体も事務的に行われるだけだったりします。
そんな中、ナナシスが発表したのがこの「ミツバチ」でした。「ミツバチ」はこう歌います。「元気でいるかしら/今もまだ少し寂しいけど/それぞれ違う道で育てた花束/届きますように/笑顔でいるのなら/それだけでいい/大切なあなたに/届くように心で綴った/ミツバチの便りを出す/春のうららに」。
ナナシスは2019年の本編で描いてきたように別れの物語を描くことができる。そして別れを悲しいもの以上に新しい場所へ向かって送り出す希望のあるものとして描くことができる。そういう度量がある。だから声優もコンテンツもずっと同じままでなくてもいい。「ミツバチ」は、そういうナナシスだからこそ送り出すことができた、別れた人たちへ向けた手紙なんだと思います。ナナシスはそんな風に声優の交代を行いました。新しい声優さんの声と演技もかつての2人に近いものがかなりあって、2人が作り上げたキャラクターの雰囲気も大事にしようという気持ちも伝わって来て。
いずれナナシスというコンテンツ自体もエンディングを迎えてしまうかもしれないと言われています。たぶんそれでいいとみんな思っていると思う。いまナナシスが伝えようとしてくれるものがあって、私たちはいまそれを受け取ることができて、それで明日へ向かって歩いて行ける。ナナシスでLe☆S☆Caとして活動した時間は事実としてあって、その時間がこれからの2人にとって背中を押すような糧になっているのだとすれば、きっとそれでいいのだと、それがナナシスなんだと、そういうことが伝わってくるかのようで泣けてきてしまうのです。
◆4.だってあなたはプリンセス/Charlotte Charlotte(2019年)
アイドルマスターミリオンライブシアターデイズの新ユニット企画、THE@TER GENERATIONが9番目に送り出したユニットCharlotte Charlotte(シャルロット・シャーロット)のユニット楽曲です。添付した動画では着ていませんが、衣装はサックスとピンクのおそろい甘ロリータで、ドールハウス風のステージセットに、Winkを思わせるようなエレクトロ強めのメルヘンなポップソングとダンスとなっています。素晴らしすぎる。好きなもの&好きなもの&好きなもの&好きなもの&好きなもの&好きなものでできてる。
金髪ツインテールのエミリー・スチュアートがミリオンライブでの私の担当で、もう1人の徳川まつりもすごく好きだったのでこのユニットと曲が発表されたときは大変なことになりました。私が。アイマスでは、けっこう好きなアイドルの傾向と好きな楽曲の傾向がズレることがあったので、好きなアイドルに好きな感じの楽曲が来てもう本当に大変なことだったのです。かわいい曲っていうとキュートでプリティーな甘めな曲になることが多いと思うんですが、私としてはかわいいとカッコいいは両立するというか、ロリータ服に存在のカッコよさを感じることがあったので、この「だって私はプリンセス」みたいなかわいくかつ存在の強さを感じさせる曲なのがすごく良くて
……
ミリオンのPrincess公演を見に行くことはできませんでしたが、運よくこの曲のCDのリリースイベントに当選してステージを見ることができたのは幸せな思い出です。それからミリシタ2周年記念の秋葉原のイベントにCharlotte Charlotteの本物の衣装を見に行くことができたことも。1人では行かれないと泣き言を言っていた私に声をかけてくださったフォロワーさんには感謝してもしきれません
……
この曲のCD「THE@TER GENERATION 14」に収録されているドラマも素晴らしく、聞きごたえがあります。ドラマのシナリオは「昏き星、遠い月」「Melty Fantasia」のドラマと同じ人とグループで書かれているとのこと。ちょっとダークなメルヘンのお話になっています。
2019年に送り出されたTHE@TER GENERATIONにはもう1曲どうしても外せない名曲があって、それは「月曜日のクリームソーダ」。
このユニットJelly PoP Beansは、レトロポップをコンセプトにしたもの。楽曲も、フューチャーベース風のドゥーワップというリクエストで制作されたものだと言われています。ここでも80年代リバイバル。
◆5.ヒミツダイヤル/ここなつ(2016年)
「ヒミツダイヤル」の紹介は動画13:05から。
私のiTunesに記録されている再生回数では、2019年に新しく聞いた曲の中ではNo.1です。2019年の前半にヘビーローテーションしました。
この曲のビジュアルは桃の木の描かれた背景に仙人風のここなつの2人。桃は仙人の食べ物。楽曲も中華風のエレクトロ系ダンスミュージックだけれどもザ・中華っていう感じではなくて、道教的な神秘性を醸し出しつつフワフワした感じの曲になっていてそこがすごく良い。1番終わりのスチールパン(たぶん)っぽい音色が遠い異国を感じさせるし、Bメロの風に乗って歌が届いてくるかのようなコーラスも神秘的な雰囲気を醸し出してる。で、ドロップで突然ビートが半分になって神秘的なフワフワ感が最大になるところが最高です。
ビジュアルと楽曲はこういう仙人の世界っぽい神秘的な感じなんですけど、歌詞は宇宙での交信と心の繋がりを描くSFファンタジーっぽくなっているのも印象的。
◆6.PEARL/伊藤美来(2019年)
初夏の爽やかな空気感に包まれた2019年のシティポップの名曲です。出だしのギターの音色がこの曲の、ひいては1曲目として収録されているこのアルバム全体の雰囲気を予告しています。収録されているアルバム「PopSkip」はアルバム全体がシティポップ風に作られていて、全体のコンセプトも作品のクオリティも高い水準で作られた名盤です。
1stアルバムの「水彩」も同様の感じで作られているんですが、明らかに「PopSkip」の方が洗練されています。前作を聞いたときは歌声の表現にちょっと物足りなさを感じていたのですが、この「PEARL」では、まさに聞きたいと思っていた曲に聞きたいと思っていた伊藤美来さんの歌声が聞けて、その瞬間にアルバムのすばらしさを予感したほどでした。
歌詞は恋を乗り越えて一人立ちしていく歌で、どこか切ない雰囲気がありつつも、楽曲の爽やかな空気感がその一人立ちの背中を押している良い歌になっています。MVも新居の部屋を見て回るというお話になっていて、街の中で新しい生活を始めるという曲の内容と雰囲気にピッタリ合っています。現像された写真が挿入されるのも、ちょっとレトロな雰囲気のあるシティポップの空気に合っていますよね。
アルバムの最後から2番目の歌「灯り」も街の中で一人で佇んでいるようなしっとりとした歌で、「PEARL」と対になるような曲になっていて、合わせて聞くのもとても素晴らしいのでおすすめです。
伊藤美来さんのようなアイドル的な声優さんのアルバムの、しかもリードナンバーがこういう一人で生きていくんだっていう歌になっているのはけっこうすごいことだなあという感じがして。やっぱりこの世にどれほどラブソングがあるかということを感じないわけにいかないし、アイドル的な存在が歌うともなればやっぱりラブソングを歌うことでファンの心に強く訴えかけるものがあると思うのだけれども、そこで恋から離れて自立して生きる歌を提示してくるというのはすごい。
◆7.Singing In The Rain/セイレーン(2019年)
Cygamesのスマホゲーム「ドラガリアロスト」のイベントの挿入歌。ドラガリアロストは詳しくないのだけれど、CMで中田ヤスタカ提供のDAOKOの曲が使われていたり、DAOKOのドラガリアロスト関連の楽曲のアルバムが発売されたりと、楽曲制作に関して熱心であることがうかがえます。作編曲はTAKU INOUE。
イノタクの楽曲といえばやはり踊れるクラブミュージックというイメージはありますけれど、この曲はしっとりめのバラード
…… と思いきやイヤフォンなどで聞くとズーンと低音が効いていてそれがまた心地いい曲になっています。
ドラガリアロストのこのイベントでは、先に「Polaris」という曲が発表されていたんですが、「Polaris」の方がどちらかといえばふだんのイノタクっぽい曲。
歌っているセイレーンといえば、海で船を待ち、美しい歌声で船乗りを魅了して海へと引きずり込む魔物。「Polaris」はボサノヴァ風のギターのイントロから始まって、「君の星へ」と歌った瞬間にいきなり宇宙へ飛んでドラムンベースになる。セイレーンの歌と海と誰かを待つというイメージを、そのまま宇宙の銀河で歌を歌って君を待つという歌へと楽曲レベルで組み替えていて、イノタクさすがと言うよりほかない名曲です。
「Singing In The Rain」はこうした「Polaris」と比べるとちょっと地味な曲なんですが、それでも私には深く刺さりました。こういうダウナーな曲の方が好きっていうのもありますし、歌っているLiyuuが上海出身だというのもあるのか、2番のBメロで胡弓っぽい音色が後ろで流れているのも好き。Liyuuの透明感のある歌声も素晴らしい。
2018年のRun Girls, Run!の名曲「秋いろツイード」も胡弓の音色の使われた楽曲だったし、ここなつの「ヒミツダイヤル」もぶっ刺さるしで、中国風味の加わった曲が好きなのかもしれない。
◆8.あの人に会いたい/内田真礼(2019年)
作詞作編曲がサニーデイ・サービスの曽我部恵一。ついでにギターとシンセサイザーとコーラスも曽我部恵一。ツイッターで検索すると、サニーデイ・サービスの新曲と言えるほどだというツイートも散見されます。サニーデイ・サービスは詳しくないのだけど、それでも確かにサニーデイ・サービスの曲っぽさがある楽曲だと思います。
一聴するとお洒落な雰囲気のポップスなんですが、後ろで流れてるピアノやシンセサイザーの音色が楽曲全体に緊張感を与えているというか、曲に神聖な雰囲気を与えているように聞こえます。それがこの曲をすごく魅力的なものにしています。
それもそのはず?、曲の終わりで、ずっと流れていたピアノの音色がそのままサティの「ジムノペディ」1番のメロディに自然と変わっていき、曲全体に立ち込めていた緊張感と神聖な雰囲気の余韻だけを残して曲が終わって、そこで仕掛けに気づくことになるのです。たぶんコード進行がジムノペディの1番で作られているのではないかと思います(完全に素人なので間違ってるかもしれません
…… )。この楽曲のクオリティも曲の雰囲気も歌詞も素晴らしいし、曲の仕掛けも素晴らしい、掛け値なしの名曲です。
◆9.オウムアムアに幸運を/一ノ瀬志希、神谷奈緒、黒埼ちとせ、佐藤心、的場梨沙(2019年)
アイドルマスターシンデレラガールズ8周年記念企画の短編アニメーション「Spin-off!」のテーマソングです。テーマソングというか、「Spin-off!」の劇伴でもあるという、歌ものでありサウンドトラックでもあるというちょっと珍しい楽曲です。作詞作編曲広川恵一。
「オウムアムア」は、2017年に発見された、史上初の太陽系外からの飛来物の名前。ハワイのマウイ島のハレアカラ山山頂の天体望遠鏡で観測され、ハワイ語で「斥候」や「遠方からの初めての使者」を意味する「オウムアムア」と名付けられました。「オウ」と「ムアムア」に分けられるそうです。「’ou」は「reach out for」、「mua」は「first」を意味するのだそう(muaが2つあるのは強調とのこと)。
どこから来たのか分からないけどめちゃめちゃ遠くから単身やってきた飛来物、あるいは惑星のような軌道から大きく外れて進んでいく天体。そういう点でもめちゃめちゃ不思議でロマンのある天体ですよね。
「Spin-off!」は映画「マトリックス」風のSF映画の一シーンという感じの短編。説明は少ないけどカッコイイ場面が次から次へと出てきて、6分が2時間にも一瞬にも感じられるほどのボリューム。こういうのが好きな身からするともうテンションが最高潮になっちゃうわけです。で、この短編を盛り上げるのに大きな役を果たしているのが「オウムアムアに幸運を」。フィルムスコアリングの手法で、出来上がった映像に音楽を当てる方法で作曲されているとのこと。なるほど。
広川恵一によれば、SF映画風の短編ということで、80年代的なレトロフューチャーなデジタルロックに仕上げたという。これもなるほど!! こういうの本当に大好きなんです。シンセベースの音色とか、ところどころリバーブの強くかかったドラムとか。ずっと「80年代」ってことをここでも言ってきましたが、私が一番80年代を感じるのはこういうところ。シンセサイザーの音色とドラムのリバーブ。a-haの「Take On Me」とか、ドラゴンボールのEDだった橋本潮の「ロマンティックあげるよ」とか。こういう曲が原風景。ドラムのリバーブとかは90年代のビーイング系の曲とかでも強く出てきてますけど、「オウムアムアに幸運を」のシンセサイザーの音色は80年代(後半?)的だなあとめちゃめちゃ思います。好きすぎる。いま気づいたんですけど、これたぶん機材の問題ですよね。こういうところももっと調べてみたら楽しいかも。今度ちゃんと掘ってみよう。
あとね、個人的に2019年に推していたシンデレラガールズのアイドルの1人がこの歌でボイスを獲得したというのが嬉しくて
…… 梨沙、良かったね
……
オリジナルはもちろん、梨沙ソロもすごく好きでよく聞いています。はきはきと発音しながら歌っているところに自信家の梨沙っぽさが出ていてすごく良くて。それでいて12歳の少女のかわいらしさもあって。もうめちゃめちゃ良良良です。
ところで広川恵一というと、一番印象的なのは765の方のCD企画「MASTER PRIMAL ROCKIN' RED」の「CRIMSON LOVERS」で。あまりの本格的なマスロックにタイムラインの一部の話題をかっさらっていたのが忘れられません。
その後もシンデレラガールズスターライトステージで「アンデッド・ダンスロック」を発表したりと、ロック系の音楽が得意な人なんだと思ってたんですが、井上拓と田中秀和の対談インタビューで、田中秀和が言っていたことによれば広川恵一の音楽的なルーツアシッドジャズなんだそうです。アシッドジャズからマスロックまでこなす引き出しの多さ
……
広川恵一の楽曲の一番の魅力だと個人的に思っているのは、楽曲の中に詰め込まれたアイデアの豊富さ。特に2番で1番で提示した曲からずらしていくことがけっこうあってその気持ちよさったら。今年聞いたアイカツフォトオンステージ(フォトカツ)のアルバムに収録されていた「ドリームバルーン」がこの展開が絶妙な名曲で、「オウムアムアに幸運を」がなければ今年聞いた10曲に間違いなく入っていました。
2番終わりからの展開がマジで最高な曲なんですけど、この視聴動画では30秒しか聞けないしフォトカツはサービス終了してしまっているし、まだアルバムがサブスクリプションに来ていないので、曲を聞くにはアルバムを聞くしかないというのがちょっともったいないです。でもめちゃくちゃ名曲ですし、他に収録されている曲も良い曲ばっかりですのでフォトカツのアルバム、聞いて損はないと思います
…… !
◆10.ラズベリー・パーク/山崎エリイ(2018年)
「ラズベリー・パーク」の試聴は動画の7分14秒から。
作詞只野菜摘、作編曲坂部剛。
この記事を書いたのも、この記事が2019年の新譜10曲じゃないのも、この曲の話をしたかったからです。2019年に聞いた曲の中でナンバーワンはこの曲です。そのくらいに衝撃だった。
収録されているアルバム、「夜明けのシンデレラ」は良曲が並んだ名盤なんですが、最後の「シンデレラの朝」と「ラズベリー・パーク」の2曲がこのアルバムを傑作に押し上げています。「シンデレラの朝」は、20歳を迎えるということを魔法にかかったシンデレラが12時を迎えることになぞらえて歌った名曲で、アルバムタイトルとも呼応する、アルバムの柱です。(「夜明けのシンデレラ」は実際山崎エリイが20歳を迎えて発表されたアルバムで、自立を歌った伊藤美来の「PEARL」も伊藤美来が大学を卒業してから発表された曲ですから、こういう風にアーティストの年齢や人生に重ねた歌を作るのが日本コロムビアは好きなのかもしれませんね。)
そんな名曲に続いてアルバムの終幕を飾るのが「ラズベリー・パーク」です。演奏時間8分55秒。この曲があるためか、アルバム収録曲はフルアルバムとしては少なめの10曲なんですが、少なさを感じさせないボリュームがあります。
曲はポストロック風の軽やかな雰囲気で始まります。曲のコンセプトは「シンデレラの朝」と通じているようで、誕生日のパーティーの夜の場面に人生の迷いが語られています。2番の終わり頃から静謐で神秘的な夜明けへと場面が移っていき、日が昇ると曲の様相が変わり始めます。「ようこそ ようこそ ようこそ(ラズベリー・パーク)」その繰り返しが始まる。最初に聞いたとき「ようこそ ようこそ」でもう意味が分からないけどすごいことが起きてるってことが分かって最高すぎて笑ってしまいました。でここからさらにヤバさが高まっていきます。何重にも重なった歌声が曲を満たし始めて曲が少しずつエネルギーを蓄えていき、とうとうバックの音楽はブレイクコアへと発展していく。全てを開放しきって山崎エリイの多重音声のハーモニーで静かに幕が下ります。8分55秒の壮大で幻想的な一曲です。こんな曲はほとんど比類がなくて、1年に1曲あるかないかです(個人調べ)。
でもこんなとんでもない曲、突然この世に登場したわけではなくて、実は文脈のようなものがありました。山崎エリイと同じ日本コロムビアからアルバムを出している内田彩に、「ラズベリー・パーク」と同じ坂部剛による作編曲の歌が数曲あり、それがどれも幻想的な雰囲気の曲になっています。坂部剛というと、シンデレラガールズの「Take me☆Take you」や「Last Kiss」がいい曲であることくらいしか知らなかったんですが、こういうエレクトロニカで幻想的な雰囲気を作るのが得意な人だということをよく知ることになりました。
たとえば「Daydream」はエレクトロニカの幻想的な雰囲気の曲で、間奏部から多重の音声が重なり始めてブレイクビーツへと展開していく凄さがあります。下の動画で「Daydream」の試聴は7分50秒から。
それから特筆するべき1曲は、2014年の1stアルバム「アップルミント」に収録された「ピンク・マゼンダ」です。この「ピンク・マゼンダ」は作詞が「ラズベリー・パーク」と同じ只野菜摘で、歌詞の世界観は「ラズベリー・パーク」に匹敵するというか、それを超えるものがあります。ある種の女性的な力強さを描いた歌だと思うんですが、一般的に流布してる女性性のイメージから一線を画するものになっています。試聴できる動画が見当たらないので歌詞サイトのリンクを添付しておきます。
http://www.kasi-time.com/item-74746.html
普通ピンクというと女性性を良くも悪くも象徴するものとして用いられる色で、実際ピンクが好きな女性も少なくないですが、その一方でいわゆる「ダサピンク現象」というものもあって、単純には女性性と結び付けられない色です。この「ピンク・マゼンダ」は、実はそれに近いことをやっているわけですが、ただこの歌を並みならぬものにしているのは、この歌に登場する女性が好きな「ピンク」という色に何を託しているのかです。それは単純なものではありません。
たとえば、「ベイビー生まれてきたときからピンクだったんだ」というそのピンク、「ちっちゃなツメを握りしめ隠してた」と歌われます。何を隠していたんでしょうね。それは大人になっても、「可愛いネイルで隠して
」と続く。その「可愛いネイル」が「ピンク」ではないわけです。だから「ピンク」は可愛いものとイコールではない。普通「ピンク」といえば可愛いものを連想しますが、ここではそうではないのです。実際ツメを隠すと言えば「能ある鷹」に続く言葉なわけで、「ピンク」はだからこの「能」に関するものだと予感させるものになっていると言えるはずです。
ちょっとサビを飛ばして2番です。「そのタクシーは自分のだって言う人に逢った/にっこり笑顔で返した」とあります。これは女性が様々な場面で気遣いを背負わされることを想起させますが、そうやって気遣いをするのが女性の美徳なんだというようなよくあるものではありません。歌はこう続きます。「にっこり笑顔で返した バツが悪くなるくらいの/桃いろのバツをつけて先を譲る」と。バツを付けるわけです。桃いろのバツ印を。
「争いあうことや憎しみあうことで/この世界は灰になってしまう」と続いています。だから「ピンクを混ぜるんだ」「ピンクで包むんだ」「ピンクで癒すんだ」と。世界が「灰」になってしまわないように、世界を「ピンク」で塗りつぶして征服するかのような圧倒的な力がここにあふれています。「ピンク」が単なる可愛いものではなく、尋常ではない何かが託された力強いものだということが感じ取れます。
そしてこの曲のハイライトであるCメロ。「淋しくなるたび噛んでた親指」「ぼろぼろ愛しいクロゼットのぬいぐるみ」「きみがすきだったカシスのジェラート 舌までピンクだった」「初めて試した小さな水着」「失恋して封印したワンピ」と、具体的な物が羅列して提示されます。この圧倒的な具体的イメージ。その全てはどちらかといえばマイナスなイメージのあるものです。それでもこの歌は、「全部捨てきれはしないよキラキラしてた」と歌うのです。すごすぎる。
この歌の女性は「ピンク」の色を愛しており、「夜明けがブルーにローズなだけで上機嫌だった」とか「荒野に咲く花をみつけてはっとして泣くように」というほどです。「ピンク」の色を見つけたり、「ピンク」の色に染めることによって、嫌なことでも全てを受け止めようとしていると考えることができるのです。この力強さ
……
ふつう「ピンク」といえば可愛いものを連想しますが、この歌では単なる可愛いものを超越した力を託されています。不屈の力強さ。実は可愛いというものと、この不屈の力強さは相反するものではなく両立するものだとずっと思ってきました。たとえばロリータ服を戦闘服と表現する人がけっこういるというところにもそれをうかがうことができます。このかわいさと不屈の力強さの並立、これが私は好きなのです。内田彩さんのかわいらしくも力強い芯のある歌声がこれを余すところなく表現しきっています。
◆
最後に、この記事で紹介した曲をSpotifyにある限りで集めたプレイリストのリンクを添付しておきます。
https://open.spotify.com/playlist/3EFlBoi8FwL5Tm88d4C5os
ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます。どうぞ良いお年を迎えてくださいね。